実験社会心理学研究
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56 巻 , 1 号
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原著論文
  • 黒川 雅幸, 吉田 俊和
    2016 年 56 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    本研究の主な目的は,大学新入生を対象に,アプリケーションソフト「LINE」によるネットワークと,友人満足感および精神的健康との関連を明らかにすることであった。調査対象者は,同じ専攻の大学1年生62名(男性23名,女性39名)であり,5月中旬と7月中旬の2回にわたって質問紙調査を実施した。5月と7月のいずれの時期においてもFTFネットワークとLINEネットワークには正の相関がみられた。また,5月と7月のLINEネットワークの類似性は,5月と7月のFTFネットワークの類似性と比べても小さかった。5月から7月にかけてのFTFコミュニケーションの人数は有意な変化がなかったのに対し,クラスメンバーを含むLINEグループの数は増加し,最も頻繁にアクセスするクラスメンバーを含むLINEグループの人数は減少した。クラスメンバーを含むLINEグループの数は精神的健康の各下位尺度と無相関であったが,LINEネットワークの中心性は5月において友人満足感と有意傾向の正の相関がみられ,うつ傾向とは7月において負の相関がみられた。また,LINEへのアクセス回数は,5月において友人満足感と正の相関が示された。

  • 樋口 収, 下田 俊介, 小林 麻衣, 原島 雅之
    2016 年 56 巻 1 号 p. 14-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年以上たった今なお福島県の産物の風評被害は続いている。なぜ消費者は福島県の産物を危険視するのだろうか?2つの実験で行動免疫システムが活性化すると,汚染地域を過大に推定するかどうかを検討した。実験1では,プライミングの条件(病気の脅威条件vs.統制条件)に関係なく,慢性的に感染嫌悪傾向が高い人の方が低い人よりも,汚染地域を過大に推定していた。実験2では,感染嫌悪傾向が高い人では病気の脅威条件の方が統制条件よりも汚染地域を過大に推定していた。また感染嫌悪傾向が低い人では条件で差異はみられなかった。風評被害と行動免疫システムの関係について考察した。

  • 野波 寬, 田代 豊, 坂本 剛, 大友 章司
    2016 年 56 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    原発・廃棄物処分場・軍事基地などの迷惑施設をめぐっては,立地地域少数者と域外多数者との間で利害の不均衡が発生する。この不均衡に関心を示さない域外多数者に対しては,不均衡を知った上で非意図的に迷惑施設を受容する域外多数者に対してよりも,立地地域少数者の怒りや不満といったネガティヴな情動が喚起されるだろう。シナリオを用いた実験の結果,この予測は支持された。また立地地域少数者の情動反応には,利害の不公平に対する評価のほか,域外多数者への共感も,大きな影響を及ぼすことが示された。集団価値モデルにもとづき,立地地域少数者の立場に対する域外多数者からの関心の呈示は,前者が後者からの敬意を推測する手がかりになると考察した。以上の結果より,迷惑施設をめぐる公的決定の過程で,立地地域少数者と域外多数者との相互作用を検討する重要性について論じた。

資料論文
  • 内田 遼介, 釘原 直樹, 手塚 洋介, 國部 雅大, 土屋 裕睦
    2016 年 56 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    先行研究では様々な情報源が集団全体の集合的効力感と関連することが明らかにされてきた。しかし,スポーツ集団内において成員1人1人がどのように集合的効力感を評価したのか,その基礎的な形成過程に関しては明らかではなかった。本研究の目的はスポーツ集団内における集合的効力感の評価形成過程について,特に課題遂行能力の異なる成員に着目して検討することであった。実験参加者は男子大学生23名であり,実験協力者2名とともに3名1組の集団に割り当てられた。実験課題はワイヤーロープを60秒間,あらかじめ定められた基準値以上の張力で維持し続ける張力維持課題であった。実験参加者はこの課題を実験協力者2名よりも課題遂行能力という点で劣っている劣位条件,優れている優位条件,そして参加者のみで行う単独条件の3条件で行った。その結果,特に劣位条件において他者の課題遂行能力を手がかりに集合的効力感を評価する傾向が認められた。そして,劣位条件では単独条件,優位条件よりも努力量が低下する社会的手抜きが生起した。最後に,これらの結果について他者に対する能力期待の観点から解釈した。

特集論文 グループ・ダイナミックスの〈時間〉
原著論文
  • 矢守 克也
    2016 年 56 巻 1 号 p. 48-59
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    本稿は,アクションリサーチにおける時間性について理論的に検討するものである。アクションリサーチを定義づける変化,目標状態,ベターメントといった特性が共通して前提にしているものこそ,時間だからである。ここで重要なことは,2つの時間系列,すなわち,人間的な実践の外的な枠組みとしての「客観的時間」と,「主体的時間」とのちがいである。「主体的時間」とは,たとえば,「まだ試験終了まで10分以上ある」など,「今はもう」,あるいは「今はまだ」といった,自分自身の営みにおける主体的な構えとともにある時間のことである。「主体的時間」は,既定性(ポスト・フェストゥム)と未定性(アンテ・フェストゥム)という2つの対照的な特性を生み,両者は逆説的なダイナミズムをなしている。さらに,この両者と「客観的時間」における過去・現在・未来とが構成する平面上で展開される〈インストゥルメンタル〉(媒介・手段的)な時間の総体と,それとは対極にある〈コンサマトリー〉(直接・享受的)な時間とが,別の逆説的なダイナミズムをなしている。アクションリサーチでは,これら2組の時間のダイナミズムを,研究者がどのように認識し,かつ自らがその中に巻き込まれつつ,それをいかに構想し運用していくかが重要である。

  • 宮本 匠
    2016 年 56 巻 1 号 p. 60-69
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    本稿は,アクションリサーチの前提中の前提である,価値志向的であること,よりよい状態を目指そうという態度が,ときにアクションリサーチの現場を閉塞した状況にしてしまうことを指摘したうえで,それがいかに回避され得るのかを考察したものである。アクションリサーチにおけるベターメントの達成は,当事者の内的な世界における「身体の水準」が,共同体における他者との出会いによって,「言語の水準」へと顕在化することとして捉えることが出来る。新潟県中越地震の復興支援の事例では,ベターメントにつながるような「身体の水準」の顕在化に寄与するかかわりは,何らかのよりよい状態に向けて現在を変革する「めざす」かかわりではなく,「変わらなくてよい」ことを前提とした「すごす」かかわりであった。よりよい状態を「めざす」アクションリサーチにおける困難は,近代的な自我がいきつく〈時間のニヒリズム〉からとらえることが出来る。そのニヒリズムを基礎づける「インストルメンタル」な時間態度がどのように生まれたのかをふりかえると,それを保持したまま,なお現在のうちに生の充足を感受する「コンサマトリー」な時間態度が成立可能であることが理解できる。この「コンサマトリー」な時間態度の獲得が,現代社会のアクションリサーチの困難を回避する方策である。

  • 土屋 耕治
    2016 年 56 巻 1 号 p. 70-81
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    本論考では,組織開発における組織診断が組織のその後の経過に与える影響について事例を用いて検討し,組織診断という働きかけがどのようなプロセスで組織の「時間」に影響を与えるかを論じた。組織開発における組織診断とは,何が,どのように起こっているのかという組織の行動と現状を組織自身が理解することを目指して行われる。組織診断とフィードバック,その後のフォローアップの事例におけるアンケートから,組織診断が組織のダイナミックスへ与える影響が考察された。具体的には,組織診断とフィードバックにより,組織の「今」をどう捉えるのかという共通認識が生成されたこと,また,フォローアップのインタビューとアンケートの結果から,組織診断後に協力的コミュニケーションの兆しが見られたことが示唆された。最後に,組織診断とその後の組織内の対話を経て,組織の時間的展望が生成され,それがモラールへ影響したという視点で今回の事例が考察された。具体的には,時間的展望の発達が個々人の主体性・能動性に繋がったという視点と,時間的展望が問題意識を共有する成員を結びつける形で協力的コミュニケーションに繋がったという視点から考察された。

  • 日比野 愛子
    2016 年 56 巻 1 号 p. 82-93
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    本研究は,実験道具の発展とともに歩んだ生命科学実験室の集合体の変化に迫ったものである。AFM(原子間力顕微鏡)という先端装置は,生物学に応用されていく中で,今後の発展の見込みが計算しにくい,テクノロジカル・プラトー(道具-組織のシステムが保っている一時的な均衡状態)にいたっていた。本研究では,このプラトーがいかなる構造によって成り立ちうるのかを明らかにすることをねらいとする。方法として,国内の生命科学実験室を中心とした生命科学集合体へのエスノグラフィ調査を実施した。回顧の語りからAFMと実験室が発展する経緯を分析した結果,手段であった装置が目的となり,さらに手段へと戻るプロセスを通じてプラトーにいたったことが示された。一方,実験室とそれをとりまく関係者を対象とした共時的な観察や聞き取りからは,プラトーの渦中における装置の意味の重なりとアイデンティティのゆらぎが見出された。以上をもとに,考察では,プラトーを下支えする力に注目し,そこに現代生命科学の市場的性質がかかわっていることを論じた。

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