実験社会心理学研究
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56 巻, 2 号
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原著論文
  • 田垣 正晋
    2017 年 56 巻 2 号 p. 97-111
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    本研究は,先進的と評価された,障害者施策に関する住民会議の成熟期における,その先進性の展開および新たな課題の発生を,タスク,プロセス,リレーションシップの各ゴールから検討し,他地域に転用可能な知見を提示する。事例の会議は,2002年から11年間継続し,多様な障害者,一般住民,行政職員で構成されている。今回は,フィールドノート,議事録等をもとに,2008年から2012年までの展開を分析した。当初,メンバーによる会議の積極的な運営と,交通事業者へ要望書提出,防災訓練といった会議外の組織と協働活動がみられたものの,一部のメンバーが活動を担っていたこと,及び,会議を担う別の障害者が育成されていないことが,会議において認識されるようになり,2013年度以降は,協働活動を少なくして,メンバーが中心になった障害者問題のシンポジウムに特化することになった。今期の会議は,メンバーによる積極的運営というプロセスゴールの達成が,会議外の組織との協働活動というリレーションシップゴールとタスクゴールにつながったと考察できる。メンバーは協働活動において「交通弱者」や「災害時要援護者」等,「障害者」以外の自己の位置づけをしていたといえる。だが,メンバーは,この活動や自己の位置づけが,会議の障害者施策としての意義を低めることを危惧し,障害者が会議や活動の中心になるというプロセスゴールを再度重視するようになったようである。この意味において,リレーションシップゴールとプロセスゴールは一体的で相互強化的と考察できる。この知見は他地域の同様の会議にも参考になる。

  • 新井田 恵美, 堀毛 一也
    2017 年 56 巻 2 号 p. 112-121
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    男性は女性よりも短期配偶志向が強いということは良く知られている。しかし,短期配偶には様々なコストがかかるため(たとえば「女ったらし」という評判がたつと,望ましい長期配偶相手を得られなくなるため),全ての男性が常に短期配偶をするわけではない。我々は,そうした評判に対するセンシティビティが高まったときには男性は短期配偶志向を抑えると予測した。この仮説を検討するため実験を実施したところ,評判に対するセンシティビティが低いときには男性の方が女性よりも短期配偶志向が強かったが,評判に対するセンシティビティが高いときにはそうなってはいなかった。ただし,この傾向は交際相手のいる参加者に限ってみられていた。評判が短期配偶志向に及ぼす効果について議論した。

  • 宮前 良平, 渥美 公秀
    2017 年 56 巻 2 号 p. 122-136
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    東日本大震災以降,津波で被災した写真を持ち主に返す被災写真返却活動が生まれ,それに関する研究が行われるようになった。しかし,それらの先行研究において被災者に焦点を当てた研究は,依然として存在しない。また,写真は,災害以前の何気ない日常を写したものであるが,復興研究において災害以前の語りや想起に着目した研究は少ない。そこで本研究は,被災写真返却活動の現場において,震災以前に撮影された被災写真や,それを返すという取り組みが被災者にいかに作用するのかについて明らかにすることを目的とする。本研究は,東日本大震災の被災地の1つである岩手県九戸郡野田村で開催されている「写真返却お茶会」への1年以上に及ぶフィールドワークに基づいて行われた。そして,フィールドワークの内容を4編のエスノグラフィにまとめた。その結果,被災者が復興の過程において,津波による物理的な喪失という第1の喪失だけでなく,その第1の喪失すら失われていくという第2の喪失を経験していることが確認された。さらに,第2の喪失に対して写真返却活動がいかに抗しているかについて,「集合的記憶」と「非意図的想起」を用いて考察した。

特集論文  ペアデータによる2者関係の相互依存性へのアプローチ
原著論文
  • 清水 裕士
    2017 年 56 巻 2 号 p. 142-152
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,二者関係データをマルチレベル分析に適用した場合に生じるいくつかの問題点についてとりあげ,その問題がなぜ生じるのか,そしてどのようにそれを解決するかについて提案することである。1つは,ペアデータの平均値を階層線形モデル(HLM)のレベル2の説明変数として用いるときに生じるバイアスの問題をとりあげた。シミュレーションの結果,HLMでは深刻なバイアスが生じる一方,マルチレベルSEMではそのバイアスが生じないことを示した。次に,ペアデータに対してマルチレベルSEMを適用した場合に生じる不適解の問題を取り上げた。ペアデータはペアレベルの推定が不安定になりやすいため,分散が負に推定される不適解が頻繁に生じる。この問題について,いくつかのサンプルデータからベイズ推定を行うことで回避できることを示した。最後に,マルチレベルSEMの個人レベル効果の解釈の難しさについて議論した。


  • 石盛 真徳, 小杉 考司, 清水 裕士, 藤澤 隆史, 渡邊 太, 武藤 杏里
    2017 年 56 巻 2 号 p. 153-164
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    高校生以上の子どもを2人もつ223組の中年期の夫婦を対象に調査を行い,夫婦間のコミュニケーション,共行動,夫婦間の葛藤解決方略といった夫婦関係のあり方が夫婦関係満足度,家族の安定性,および主観的幸福感にどのような影響を及ぼしているのかをマルチレベル構造方程式モデリングによって検討した。夫婦関係満足度への影響要因の分析では,夫と妻が別個に夫婦共行動の頻度が高いと認識しているだけでは個人レベルでの夫婦関係満足度の認知にしかつながらず,夫婦のコミュニケーションが充実していると夫と妻の双方がともに認知してはじめて2者関係レベルでの夫婦関係満足度を高める効果をもつことが示された。家族の安定性への影響要因の分析では,個人レベルで葛藤解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは,個人レベルでの家族の安定性を高く認知することにつながるが,2者関係レベルで,夫婦が一致して夫婦関係外アプローチに積極的であることは,家族の安定性を低く認知することにつながるという結果が得られた。主観的幸福感への影響要因の分析では,夫婦関係満足度の高いことは,個人レベルにおいて正の関連性を有していた。また,夫婦間の解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは個人レベルでのみ主観的幸福感を高めることが示された。

  • 相馬 敏彦, 礒部 智加衣
    2017 年 56 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    二者関係の中で,接近動機をもつ個人は他者との相互作用にポジティブな結末を求め,回避動機をもつ個人はネガティブな結末を避けようとする。このような社会的動機が動機保持者のもつ関係評価や感情に影響することはこれまでに示されているが,相互作用相手の動機に影響するかどうかは未だ明らかではない。だが先行研究の知見は,接近動機の強い個人によって展開された相互作用が,相手の接近動機を同調させる可能性を示唆している。そこで我々は接近動機の強い個人が接近的相互作用を展開することで(個人内過程),相手もより強い接近動機をもつようになる(個人間過程)と予測した。2011年の4月と5月の二回にわたって日本人大学生を対象とするパネル調査を行った。経時的actor–partner相互作用モデルの結果は,接近動機における収束プロセスを明らかにした。このことは,親しい二者関係の相互依存プロセスが,動機の転換だけでなく動機の強化による可能性を示唆していた。

  • 谷口 淳一, 清水 裕士
    2017 年 56 巻 2 号 p. 175-186
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,大学新入生の友人に対する自己高揚的自己呈示が,その後の友人からの評価,関係満足感,及び自尊心に与える影響を検討した。調査参加者は4度の縦断的調査(4月,5月,6月,7月)に同性の友人とペアとなり,質問紙への回答を行った。232名(116組,男性134名,女性98名)を分析対象者とした。Actor-Partner Interdependence Model(APIM)を用いて,5月に友人に対して自己高揚的自己呈示を行うことが,6月の相手からの実際の評価やその評価の推測を介して,7月の関係満足感や自尊心に与える影響を検討した。分析の結果,友人に対して有能さと親しみやすさの自己呈示を行っているほど,友人からポジティブな評価を得ていると認知し,関係満足感および自尊心が高いというActor効果がみられた。また,親しみやすさの自己呈示を行っているほど,実際に友人からポジティブな評価を得ており,その後の友人の関係満足感も高いというPartner効果もみられた。つまり,親しみやすさの自己呈示は,自己呈示を行った本人と友人の双方の関係満足感の高さに影響していた。大学新入生が友人に対して自己高揚的自己呈示を行うことの有益さについて議論を行った。

資料論文
  • 鬼頭 美江, 佐藤 剛介
    2017 年 56 巻 2 号 p. 187-194
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    良好な恋愛関係や夫婦関係を築くことは,人々の幸福感や精神的・身体的健康に影響を与えることが示されており,こうした関係の良好さや満足感を高める要因の検討が,これまで多く行われてきた。その要因の一つとして,自己の社会的価値である自尊心が挙げられる。自尊心の高い人,および自尊心の高い恋人や配偶者を持つ人ほど,恋愛関係や夫婦関係により満足していることが示されている。しかし,これらの知見は主に個人主義が優勢である北米を中心に示されており,集団主義が優勢であるとされる日本においても再現されるかは自明ではない。そこで本研究では,日本人の夫婦107組に質問紙を配布し,個人の自尊心が自己および配偶者の夫婦関係満足感に与える影響について,APIMを用いて検証した。その結果,夫婦ともに自尊心が高い人ほど,夫婦関係に対してより高い満足度を感じていた。さらに,配偶者の自尊心が高い人ほど,自己の夫婦関係満足感が高かった。こうした自尊心と夫婦関係満足感との関連には,性別や年齢による有意な差異は見られなかった。したがって,日本においても,個々の自尊心は,自己の夫婦関係満足感だけでなく,配偶者の夫婦関係満足感にも影響を与えることが示された。

  • 古村 健太郎
    2017 年 56 巻 2 号 p. 195-206
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,恋愛関係への接近・回避コミットメントが恋愛関係における感情経験に与える影響を検討した。異性愛カップル91組を対象とした質問紙調査によって得られたペアデータを用い,個人内過程,個人間過程,パートナー調整効果を検討するため,行為者-パートナー相互依存性調整モデル(actor-partner interdependence moderation model: APIMoM)による分析を行った。その結果,個人内過程において,男女ともに,個人の接近コミットメントが感情バランスをポジティブにした。また,接近コミットメントが弱い場合に,回避コミットメントが感情経験をネガティブにした。個人間過程では,男性の接近コミットメントが女性の感情経験をポジティブにした。さらに,パートナー調整効果については,男性の接近コミットメント×女性の回避コミットメントが男性の感情経験と関連し,女性の接近コミットメント×男性の回避コミットメントが女性の感情経験と関連した。これらの結果について,接近・回避コミットメントが促進しうる行動や相互作用の観点から考察を行った。

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