実験社会心理学研究
Online ISSN : 1348-6276
Print ISSN : 0387-7973
ISSN-L : 0387-7973
60 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
展望
  • 矢守 克也
    原稿種別: 展望
    2021 年 60 巻 2 号 p. 63-81
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/11/21
    ジャーナル フリー

    本論文は,社会心理学における実験的研究について検討した展望論文である。特に,実験の概念をより広義なものへと拡張し,実験という手法が本来有する豊かなポテンシャルをより大きく引き出す方向で,実験社会心理学の領域を再構築することをねらいとした。一般に,典型的な実験室実験と文化・歴史的な視点を重視する現場研究との距離は非常に大きいと見なされている。しかし,中間部に,「アイヒマン実験」や「実験の史学」などを配置すると,両者の連続性を確認できる。その上で,実験社会心理学研究の拡張を2つの方向から構想した。第1は,草創期のグループ・ダイナミックスにおける実験研究がそうであったように,実験室ならではの生態学的特性を活かしつつ,人間の実存性や社会のリアルな生態に接近するための回路を設け,実験室実験に現場研究の長所を取り込む方向性である。第2は,「実験の史学」のように,現実社会を対象とした研究に,実験操作に匹敵する比較条件を設定するための仕組みを導入し,現場研究に実験室実験の美点を取り込む方向性である。こうした志向性を有する具体的な事例を社会心理学,歴史学,防災・減災研究の領域から紹介し,新たな実験社会心理学研究の構想を提示した。

原著論文
  • 矢守 克也, 飯尾 能久, 城下 英行
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 60 巻 2 号 p. 82-99
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    巨大災害による被害,新型感染症の世界的蔓延など,科学(サイエンス)と社会の関係の問い直しを迫られる出来事が近年相次いでいる。本研究は,このような現状を踏まえて,地震学をめぐる科学コミュニケーションを事例に,「オープンサイエンス」を鍵概念として科学と社会の関係の再構築を試みようとしたものである。本リサーチでは,大学の付属研究施設である地震観測所を地震学のサイエンスミュージアム(博物館施設)としても機能させることを目指して,10年間にわたって実施してきたアクションリサーチについて報告する。具体的には,「阿武山サポーター」とよばれる市民ボランティアが,ミュージアムの展示内容に関する「解説・観覧」,地震活動の「観測・観察」,および,その結果得られた地震データ等の「解析・解読」,以上3つの側面で地震学に「参加」するための仕組みを作り上げた。以上を踏まえて,「学ぶ」ことを中心とした,従来,「アウトリーチ」と称されてきた科学コミュニケーションだけでなく,科学者と市民が地震学を「(共に)なす」ことを伴う,言いかえれば,「シチズンサイエンス」として行われる科学コミュニケーションを実現することが,地震学を「オープンサイエンス」として社会に定着させるためには必要であることを指摘した。

  • 向井 智哉, 藤野 京子
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 60 巻 2 号 p. 100-112
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/04
    [早期公開] 公開日: 2021/02/07
    ジャーナル フリー

    本研究は,少年犯罪者に対する厳罰志向性と少年犯罪に関する犯罪不安および被害リスク知覚,子どもは理解不能であるという子どもイメージの関連を検討することを目的とした。先行の議論や研究にもとづき,a)少年犯罪に対する厳罰志向性は少年犯罪に関する犯罪不安によって規定される,b)犯罪不安は被害リスク知覚によって規定される,c)被害リスク知覚は理解不能イメージによって規定されることを想定した仮説モデルを構成し,異なる想定を置いた別のモデルと適合度および情報量の観点で比較を行った。226名から得られたデータを分析したところ,上記の仮説モデルは支持された。

  • 清水 佑輔, 岡田 謙介, 唐沢 かおり
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 60 巻 2 号 p. 113-124
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/04
    [早期公開] 公開日: 2021/02/07
    ジャーナル フリー

    ギャンブラーには,一般的にギャンブル依存者(以下,依存者と略す)とギャンブル愛好家(以下,愛好家と略す)が存在する。ギャンブラーに対して少なからず否定的な態度が存在し,そのために依存者が周囲に助けを求めにくくなっていることが指摘されている。この問題に対して,愛好家に対する相対的に肯定的な態度を利用すれば,ギャンブラーというカテゴリー全体に対する否定的な態度を軽減できる可能性がある。また,否定的な態度を測定するうえで,社会的望ましさ傾向の影響を考慮する必要があるが,ギャンブラーに対する顕在的態度のみが測定されることが多く,潜在的態度の検討が十分に行われていない。そこで本研究では大学生の参加者にシナリオ実験を行い,依存者,愛好家のシナリオを読みサブカテゴリーの存在が顕現化したとき,ギャンブラー全体に対する潜在的態度が変化するか否か検討した。その結果,サブカテゴリーとしての愛好家を強調することで,ギャンブラーに対する潜在的態度を肯定化できる可能性が示された。依存者に対する否定的な態度を考える上で,一般的に見落とされがちな愛好家の存在を顕現化するという方略は,今後,依存者に対する態度変容を促す心理学的研究に応用できると考える。

feedback
Top