日本教育工学会論文誌
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41 巻, 3 号
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巻頭言
総説
  • 山田 政寛
    2018 年 41 巻 3 号 p. 189-197
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    近年の情報通信技術の発展により,教育の場面でも情報通信技術が使われるようになった.情報通信技術を教育や学習の場面で利用するメリットは学習に関係するログが残ることである.このログも含めて,多角的に教育・学習に関する分析を行い,教育や学習環境の改善に寄与することをラーニング・アナリティクスと言い,その研究が世界的に広がりを見せている.本稿では,ラーニング・アナリティクス研究に関する国内外,特にラーニング・アナリティクス研究の専門誌であるJournal of Learning Analytics の掲載論文の傾向を中心の紹介をし,ラーニング・アナリティクス研究の現状と今後の方向性について述べる.

展望
  • 松田 岳士, 渡辺 雄貴
    2018 年 41 巻 3 号 p. 199-208
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,教育工学を媒介として,教学IR(Institutional Research)とラーニング・アナリティクスの関係を整理すると同時に,教育工学の立場からみると教学IR とはどのような研究・実践の分野で,どのような知見をもたらしているのか検討してから,ラーニング・アナリティクスが教育工学とどのように関わっているのかについて考察した.結果的に,教育工学研究は,教育の諸課題を工学的アプローチで解決しようとするがゆえに,教学IR とラーニング・アナリティクスの両者と重複する研究対象・分析手法等を含んでおり,両者と知見を共有する意義がみとめられた.また,教育工学側も研究対象を広げ,新たな学際性の形成領域として両者との連携を積極的に図ることが期待される.

  • 主体的・対話的で深い学びの促進と高大接続改革におけるe ポートフォリオ活用の視点から
    森本 康彦, 稲垣 忠
    2018 年 41 巻 3 号 p. 209-220
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    [早期公開] 公開日: 2017/12/18
    ジャーナル フリー

    2020年から順次実施される新学習指導要領では,小・中・高等学校を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現することの意義や授業改善の重要性が強調され,それに合わせるように,高大接続改革の中で,多面的・総合的に評価,判定する大学入学者選抜への転換が図られようとしている.この継続的に行われる主体的・対話的で深い学びと,その先にある高大接続を成功に導くためには,児童生徒の学習や活動の過程において学習記録データ(e ポートフォリオ)を密に収集し,それらデータを用いて分析,見える化する「ラーニング・アナリティクス」による支援が有効であると考えられる.そこで,本論文では,主体的・対話的で深い学びと,高大接続改革に注目し,初等中等教育におけるラーニング・アナリティクスの現状と課題について整理し,その展望について述べる.

  • 緒方 広明
    2018 年 41 巻 3 号 p. 221-231
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    近年の情報通信技術の発展により,大学教育において,e-Learning の導入など,教育の情報化が推進されており,授業内外を問わず,教育・学習活動に関する膨大な量のデータが急速に蓄積されつつある.本稿では,このような教育・学習データの蓄積と分析を目的とした,ラーニング・アナリティクスの研究の概要を紹介する.また,先端事例として,九州大学における教育改善と学習支援を目的としたラーニング・アナリティクス研究について述べる.

論文
  • 松河 秀哉, 大山 牧子, 根岸 千悠, 新居 佳子, 岩﨑 千晶, 堀田 博史
    2018 年 41 巻 3 号 p. 233-244
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,様々な制約から活用が難しかった授業評価アンケートの自由記述の分析に関し,ある大学で実施された9年分,約6万件のデータに対して,潜在ディリクレ分配モデル(LDA)に基づいたトピックモデルによる分析を行い,170のトピックを抽出した.抽出したトピックに対しては,一定の手順に従ってラベルを付与し,ラベルの妥当性を検証した.その結果,ラベルには十分な妥当性が確認され,トピックモデルによる分類が全体的には人間の感覚に適合したものであることが示された.本研究ではさらに,自由記述を科目群の情報と紐付けて分析を行い,各科目群に存在するトピックの割合や,全体の傾向と比較した各科目群のトピック分布の特徴について,クロス表による情報の可視化を行った.こうした分析手法は今後Institutional Research (IR),Learning Analytics (LA)等での応用が期待される.

    Editor's pick

    2018年度論文賞受賞論文

  • 網岡 敬之, 森 裕生, 江木 啓訓, 尾澤 重知
    2018 年 41 巻 3 号 p. 245-253
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    学生の多角的な評価および支援方法を実現する一環として,受講生が主として授業終了時に毎回記入する手書きワークシートを定量化し,学習成果との関係を検討した.定量化指標としては,ワークシートをデジタル化した際のファイルサイズを用いた.(1)各学生の学期を通した平均ファイルサイズによるグループ分けと(2)ファイルサイズの増減の推移によるクラスタ分けを行った後,授業で身についた力や授業への有用性の自己評価,学期末レポートの得点といった学習成果との関係を分析した.その結果,ファイルサイズが相対的に大きいグループは,平均的なグループや小さいグループに比べて学習成果が高い傾向にあった.一方,ファイルサイズが小さいグループと平均的なグループの間には,授業への有用性や獲得した力の評価に大きな差がみられなかった.ファイルサイズというシンプルな指標を用いた場合でも,学習成果を評価することが可能であり,多角的な評価や支援に応用することが可能であると考えられる.

  • 鈴木 聡, 廣川 佐千男
    2018 年 41 巻 3 号 p. 245-253
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    自ら学ぶ姿勢を持ち,学んだ知識を用いて他者との協働の中で情報通信技術を活用しながら未知の問題解決に応用する能力の育成が教育に求められている.このような能力の育成を行うべく,ピアラーニングの一形態としてのペアプログラミング,ならびに基礎的な学習事項の事前学習と応用問題を扱う対面授業からなる反転授業を大学のコンピュータシミュレーション実習に導入した.本研究では,授業改善の方針を見いだすため,この授業における履修者の学習活動に焦点を当て,彼らの授業内外の学習活動を学習管理システム上の学習記録やアクセスログ,そして授業後のアンケートの分析を通して探った.その結果,事前学習を通した基本的な学習内容の深い理解,対面授業における課題内容の深い理解を試みる活動,そして自身とのプログラミングのスキルが近い履修者との協調的な学びが学習内容の深い理解の上で重要であることが示唆された.

  • 近藤 伸彦, 畠中 利治
    2018 年 41 巻 3 号 p. 271-281
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    ラーニングアナリティクスをはじめとした教育データ分析の関連分野が急速な発展を遂げる一方,大学における教育の質保証の観点から教学IR の重要性が認識されてきている.これらの分野が互いに統合され,個に応じた分析と支援が組織的に行われることは今後ますます重要性を増すものと考えられる.本論文ではこの観点から,ラーニングアナリティクス的手法を教学IR や修学支援に活用するフレームワークのひとつとして,学士課程における学生の修学状態の推移プロセスをベイジアンネットワークによりモデル化する手法についてまとめる.さらに,現実的な活用場面において実際の改善アクションへつなげることを想定した本手法の活用例を示し,ある大学の教学データによる数値実験の結果から本手法の適用可能性を検討する.

資料
  • 入試制度と取組姿勢の観点から
    田島 貴裕
    2018 年 41 巻 3 号 p. 283-292
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    成績評価が学習への取組姿勢や入試制度とどのような関係にあるのかを検証することを目的に,大学初年次教育における理系実験を事例として,これまでに蓄積された約1万名の学習履歴データの分析を行った.その結果,毎年,履修者の一定数は不可になっており,入学時の入試制度によって,その割合は異なることが明らかとなった.また,実験に対する取組姿勢および成績評価においても,入試制度によりその割合に違いがみられた.取組姿勢と成績評価の関連性については,実験に対する取組姿勢が良いほど,概ね成績評価は高くなる傾向がみられた.さらに,過去の学習履歴データを分析することによって,最初の数回の実験レポート点と,最終成績評価には関連性があることが示され,履修の初期段階で最終成績を予測できる可能性が示唆された.

  • 馬場 正一, 森本 康彦, 高野 誠史, 林部 貴亮
    2018 年 41 巻 3 号 p. 293-304
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    教育の情報化を進め,教員の指導力向上を図ることが喫緊の課題とされている.本研究では,教員によって記録・蓄積された学習記録データを分析し,指導内容を対象化して振り返ることで,進路指導力向上を推進することに取り組んだ.具体的には,教育クラウド・プラットフォームを運用する高等学校において,教員が生徒について入力した自由記述データを,テキストマイニングの手法を用いて分析し,さらに,教員に対するインタビュー調査を実施することで,進路指導における教員が有する指導の「ノウハウ」の存在を示した.そして,分析結果を基にして教員自身に指導内容を振り返ってもらうことで,情報共有による指導効果や,進路指導を進める上での課題などが明らかとなり,学校の組織的な指導力向上に向けた取組につながる可能性が示唆された.

  • 藤本 徹, 荒 優, 山内 祐平
    2018 年 41 巻 3 号 p. 305-313
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/02/05
    ジャーナル フリー

    2012年以降,世界のトップ大学が一斉に大規模公開オンライン講座(MOOC)の提供に参入したことで,グローバルなオンライン教育プラットフォームとして急速に普及し,研究テーマとしての関心も急速に高まった.この動きの当初は,コース提供した大学による教育実践報告や,将来の可能性を展望する議論が中心だったが,近年では具体的な実証研究も進展しており,ラーニング・アナリティクスを取り入れた研究も見られるようになった.本稿では,MOOC に関するラーニング・アナリティクスの先行研究をレビューし,この分野の研究動向を概観したうえで,今後研究を進めていく上での論点や課題を検討する.

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