日本教育工学会論文誌
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44 巻, 1 号
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論文
  • 中嶋 彩華, 久坂 哲也
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,小学校教員の理科指導に対する不安,教師効力感,学習動機が教員歴によってどのように推移するのかを明らかにすることである.そのため,現在,学級担任をしている小学校教員を対象に,質問紙を用いた横断的調査を実施した.得られた488名のデータを分析した結果,理科指導に対する不安は全体的に教員歴が増すと低下する傾向があること,下位尺度に着目するとどの教員歴でも理科の専門的知識に対する不安の平均値が最も高いことが示された.また,教師効力感は教員歴4〜6年で一度下降する傾向にあるが,その後,教員歴とともに上昇する傾向が示唆された.さらに,教科指導学習動機の自律的動機である内発的動機は教師効力感に対して正の影響を与えるが,同じ自律的動機である熟達志向は教師効力感に対して負の影響を与えることが示された.

  • 白鳥 成彦, 大石 哲也, 田尻 慎太郎, 森 雅生, 室田 真男
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 11-22
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究では過去のデータを用いて中退をした大学生の状態を学期ごとに遷移する中退確率を用いて表現し,その中退確率を用いて中退までの学生の動きを類型化する手法を提示する.大学における中退は,大学にとっても,学生にとっても負の影響が大きい.本研究では過去のデータを用いて中退をした大学生の状態を学期ごとに遷移する中退確率を用いて表現し,その中退確率を用いて中退までの学生の動きを類型化する手法を提示する.大学における中退は,大学にとっても,学生にとっても負の影響が大きいため,中退を予測し,介入することで未然に防止する研究は広くなされてきた.しかし,中退予測の研究では中退を一時点のみで予測することが多く,実際に中退をする学期までに予測がどのような変遷を経るのかといった研究は少なかった.本研究ではロジスティック回帰モデルを用いて学期ごとに中退確率を算出し,X-means 法を用いて類型化することで,実際に中退をする学期までにどのような途中過程を経るのかを表現する手法を提示する.本手法を用いることで,大学において実際に中退をした学生がどのような過程を経て中退をしたのかを量的に知ることができるため,全学的な学生支援の方向性を検討し,効率的な中退防止施策につなげることができる.

  • UWC ISAK Japan のサマースクールを事例として
    中野 生子, 田中 聡, 池田 めぐみ, 山内 祐平
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 23-35
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    [早期公開] 公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

    本研究では,国内の中学生を対象としたサマーキャンプを取り上げ,社会情動的スキルに与える効果を,個人特性との関係性に着目しながら検証することを目的とする.UWC ISAK Japan のサマースクールを対象として,基本属性,パーソナリティ特性に関する事前質問紙調査を,社会情動的スキル(Social Emotional Competence Questionnaire)に関する事前事後質問紙調査を実施し,47名の有効回答を分析した.本研究の結果,社会情動的スキルを育成するためのプログラムとしてUWC ISAK Japan のサマースクールは有意な効果が認められたほか,協調性や開放性が低い生徒,また日本人および日本在住者と社会情動的スキルの変化量とに正の相関がみられた.これにより,自由参加型のサマーキャンプにおいては,参加者の個人特性によってプログラム効果の度合いが異なる可能性が示された.

  • 川本 弥希, 石橋 嘉一, 渡辺 雄貴
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    [早期公開] 公開日: 2020/04/07
    ジャーナル フリー

    日本の高等教育の講義における,学生のエンゲージメントを効率的に促進する方法を明らかにすることを目的として,大学生を対象に学習経験レベルの概念に基づいた質的調査を行い,学習経験レベルの向上,低下,停滞に影響を与える要因の違いを検証した.収集したデータのテキスト分析により,学習経験レベルを向上,低下,停滞させる影響要因をそれぞれ抽出した.その結果,学習経験レベルの向上には,学習する科目の興味,価値の認知,学習成果の実感,授業の明瞭性,授業形式,将来との関連性が正の影響を与えていることが分かった.また,学習経験レベルの低下には,科目に対する関心・意欲の低下,他の授業の履修状況が正の影響を与えていることが示唆された.また,学習経験レベルの停滞にも,科目に対する関心・意欲と他の授業の履修状況が正の影響を与えている傾向が見られた.

  • 田中 光, 上山 瑠津子, 山根 嵩史, 中條 和光
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校5,6年児童を対象とする意見文産出方略使用の程度を測定する尺度を開発した.研究1では,5,6年児童426名に対して意見文産出時の方略使用に関する質問紙調査を行った.探索的因子分析を行い,読み手意識,反対意見の考慮,文章の構成,自分の意見の表明,校正・校閲の5因子からなる意見文産出方略が見出された.尺度の妥当性を検討するため,意見文産出の自己効力感,意見文を書く主観的頻度の高群と低群間で方略使用を比較した.その結果,全因子で高群の評定値が低群の児童の評定値よりも高く,尺度の内容的妥当性が支持された.研究2では意見文に対する評価と方略使用との関連を調べた.その結果,評価が高い意見文の書き手は低い書き手に比べて読み手意識,文章の構成,自分の意見の表明の3因子の評定値が高いことが見いだされた.今後の課題として,尺度の使用によって意見文の質が高まるかどうかを検証することが必要である.

  • 福田 麻莉
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 59-73
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    [早期公開] 公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究では,数学用語の理解を深める学習方略として,中学生の教科書活用を促す学習法講座を設計し,効果を検証した.具体的には,つまずいた際に教科書を見返すという学習方略の使用と「人に説明できる状態が理解した状態である」という理解観を促進すること,用語の定義と具体例に着目して教科書を読み,それらを説明する力を高めることを目標とした.講座では,説明に関するデモ実験や,教科書活用法の教授,教科書を用いた用語の定義と具体例の説明活動を行った.その結果,つまずきへの対処行動として「教科書を見返す」という回答が講座前後で増加したが,遅延調査では非受講群との群間差は認められなかった.また,人に説明できることを理解と捉える生徒が増加し,遅延調査でも,受講群の生徒は説明できることを理解の姿と捉えていた.遅延テストでは,教科書読解後の用語説明問題における受講群の得点が,非受講群に比べ高いことが示された.

  • 満下 健太, 酒井 郷平, 西尾 勇気, 半田 剛一, 塩田 真吾
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 75-84
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,情報機器活用に関わるトラブルについて,重大性と発生率の両軸からそのリスクを評価すると同時に,そのリスク増大要因を検討するところにある.小学校第4学年から高等学校第3学年の児童生徒(n=6229)を対象に,情報機器の利用状況に関する項目と,12種類のトラブルについて3段階の重大性を設定した合計36ケースについて,過去1年間での経験頻度への回答を求めた.結果として,どの学校種においても最も発生率の高いトラブルは「長時間利用」であり,特に小学校において高かった.また,重大性と発生頻度の積によってリスク指標を算出し,利用状況からその増大要因を検討したところ.トラブルの種類によって異なる要因が影響することが明らかになり,特に「使用時間」と「学年の高さ」は10種類のトラブルのリスク増大要因となっていた.これらの結果を踏まえて,情報モラル教育における実践的示唆を議論した.

教育実践研究論文
  • 自由地図と象限地図の比較から
    永嶌 政宏, 久保田 善彦
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 85-93
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    知識を相互に関連付けてより深く理解させるために,概念地図を用いた説明活動をさせた.自由にノードを配置させた自由地図の実践から,説明活動の相手と自分の異同を把握し易くする必要性が示唆された.そこで,概念地図に象限を追加した“象限地図”を開発し,実践を行った.自由地図と象限地図の実践を比較すると,象限地図はノード数が増加した.自分のノードは少ないが,相手のノードが自分より多い学習者は,特に増加した.新規にノードを取り込む要因を検討したところ,象限地図による説明活動は,相手と自分の異同を把握し易いことによって,活発な発話や思考活動を促進することが示唆された.本研究は,概念地図のノード数の変化を指標としたが,その他の要因を含めた検討が必要である.

  • 主観カメラを活用した事例研究を通して
    姫野 完治
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 95-104
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,授業実施中の授業者の視線配布と思考様式を解明することを目的として,ウェアラブルカメラを用いて授業者の視線映像を録画・記録し,その映像を事後に視聴しながらインタビューを行う調査を,熟練教師と教育実習生を対象として行った.その結果,教育実習生は子ども全員や発表者等に漠然と視線を向ける回数が多く,教室に生起した出来事を受動的に知覚する傾向があること,一方熟練教師は,特定の意図の下で選定した子ども集団に視線を向け,能動的に知覚する割合が高いことがわかった.また,そのように視線を配布しながら,教育実習生は授業の進み具合等の進度について思考しているのに対し,熟練教師は学力下位層と上位層の子どもの理解や考えの深まり,注目点を意識化したり整理したりすることについて思考していること等が明らかになった.

  • 石原 浩一, 泰山 裕
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 105-113
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,フィードバックと振り返りが学習者の認知欲求に及ぼす影響を明らかにするため に,中学生を実験群と統制群に分け,2群比較を通してその効果を検討した.社会科歴史的分野 の授業を2単元行い,その前後における認知欲求尺度の回答を分析した結果,毎単元末にレポー ト課題に対する評価結果のフィードバックと振り返りを行った群の方が認知欲求が高まる傾向 が確認された.また,実験群の振り返りを分析した結果,振り返りを具体的に記述できていた群 は認知欲求が有意に高まり,抽象的な記述にとどまっていた群は有意な高まりが認められなかっ た.研究を通して,認知活動の評価結果を学習者に返却し,振り返りを具体的に書かせることで 認知欲求が高まる可能性が示唆された.
資料
  • 古賀 竣也
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 115-125
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    [早期公開] 公開日: 2020/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,統計的リテラシーにおける批判的思考態度の構造を明らかにすること,および統計的リテラシーのスキルに関係する批判的思考スキルは何かを明らかにすることである.まず,質問紙調査を実施し,「数値やデータへの関心」,「懐疑的・複眼的な見方」,「他者との関わり」の3因子から構成される態度に関する尺度を開発した.次に,統計的リテラシーのスキルを測定するテストと,複数の批判的思考スキルを測定するテスト,作成した尺度を含めた質問紙調査を実施し,これらの相関を検討した.その結果,統計的リテラシーの得点と全ての批判的思考スキルの得点に正の相関がみられた.また,統計的リテラシーの得点と尺度の得点には有意な相関がみられなかったことから,統計的リテラシーにおける批判的思考態度を有していても,統計情報を適切に解釈できるとは限らないことが考察された.

  • 林原 慎
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 127-134
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    [早期公開] 公開日: 2020/03/09
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,小学生の「総合的な学習の時間」の達成感がどのような要因によって影響を受けているのか,また,どのようなパーソナリティ特性によって影響を受けているのかを明らかにすることであった.小学校5・6年生計239人を対象にアンケート調査し,共分散構造分析を行った結果,教師の「支援の適切性」は「達成感」を直接的,間接的に高めている重要な要因であった.また,ビッグ・ファイブによるパーソナリティ特性のうち,「協調性」は「支援の適切性」に影響を及ぼしており,「統制性」は「支援の適切性」,「情報収集への能動性」,「具体性/一貫性」に影響を及ぼしていた.児童の達成感を高める「総合的な学習の時間」を実施するためには,教師は,適切な助言や学習支援を行う必要があることが示された.また,他の教科や学校生活の中で児童の「協調性」や「統制性」を養うことで,達成感をより高める可能性が示唆された.

  • 青木 一永
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 135-143
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    [早期公開] 公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,直接的・具体的な体験が重視される幼児教育へのICT 導入の可能性を探るために視察した,深圳市というハイテク産業都市における公立幼稚園の状況を報告するものである.視察した幼稚園では,すべての子どもがウェアラブル端末を腕にはめ,さまざまなバイタルサインや位置情報が把握されていた.また,保育室にはスマートスピーカーや,カメラ付き大型モニター,AI 搭載の小型ロボット,プログラミング教育玩具が置かれ,子どもがそうしたICT を備えた環境に身を置き,かつ,教育として積極的に導入する実態があった.技術的課題や導入効果の検討の必要性等の課題もあるが,ICT 導入に関する先進的な取り組みは,今後の幼児教育分野へのICT導入について示唆を与えるものと言えるだろう.

  • 山本 朋弘, 三井 一希, 木村 明憲, 大久保 紀一朗, 堀田 龍也
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 44 巻 1 号 p. 145-154
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    小学校プログラミング教育の推進について,情報教育に熟達する教師の個人別態度の構造を分析し,プログラミング教育の推進に向けた課題解決の具体的な方策を検討した.PAC 分析を実施した結果,3名の教師は,小学校プログラミング教育の目標や必要性を意識し,授業の目標や内容について周囲の理解が得られるように意識していることが示された.また,プログラミング教育の授業を他の教師に依頼するのではなく,自らの実践によって授業を公開して,周囲の教師に働きかけようとすることを明らかにした.

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