日本教育工学会論文誌
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論文
  • 課題提出における行動指標と自己報告の関連
    藤田 哲也, 井上 晴菜
    2025 年 49 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    課題提出などを先延ばしにする傾向は,否定的側面を主とした受動的先延ばしと,むしろ課題遂行を促進させる肯定的側面を主とした能動的先延ばしにわけて論じられるようになっている.本研究では,反転授業において予習課題提出への適切な介入方法を検討するための基礎的な知見を得ることを目的として,受講生の自己報告による先延ばし傾向と,予習課題の事前提出に関わる複数の行動指標との関連について検討した.行動指標には,実際の反転授業における課題提出猶予時間 (期限からどれだけ早く提出したか),課題着手時間 (提出期限からどれだけ先行してビデオ視聴を開始したか),着手から提出までの課題従事時間を用いた.その結果,能動的先延ばし傾向は,課題従事時間のみと関連が見られた.

  • 髙見 佳代, 尾澤 重知
    2025 年 49 巻 1 号 p. 11-29
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2025/01/30
    ジャーナル フリー

    女性の理工系人材が少ない原因として女性に関するステレオタイプの影響が指摘されている.本研究の目的は,文理融合型学際系学部の女子学生が就職活動時にもつ「文系」「理系」の自己認識と,それに基づく進路選択の傾向を明らかにすることである.半構造化インタビューを行い,質的研究法のTEAで分析した結果,本研究対象の女子学生は学際系学部で多様なSTEM型の教育を受け,学生によっては文系から理系的なゼミに進んだにもかかわらず,就職活動期にはその強みを認識できず,自分を従来型の学部同様の文系に位置づけていた.理系か文系かの選択肢しかないことや周囲からの理系の就職先の提示の少なさという外的要因が,女子学生を自ら文系と位置づけさせ,女子は文系というステレオタイプを助長させる要因になっていることが示唆された.

  • 河野 稔, 村田 育也, 阿濱 茂樹
    2025 年 49 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2025/01/08
    ジャーナル フリー

    子どもの社会的ネットワークの質的・量的な変容を探るために,人が人間関係を維持できる人数として知られるダンバー数に基づいた調査項目を試作した.そのうえで,社会的ネットワークの親密度について,高校生・大学生に対する予備調査を経て,小学生から高校生までを対象とした15の質問項目からなるアンケート調査を実施した.調査は2021年2,3月に小学生1,163人,中学生1,174人,高校生410人に対して実施した.その結果を因子分析したところ,2因子13項目を抽出し,第1因子を「顔見知り程度の関わり」,第2因子を「信頼感のある関わり」とした.さらに,質問項目ごとに校種別にカイ二乗検定と残差分析を行ったところ,第1因子は,小学生から高校生へ校種が進むにつれて概数が15人から150人に向けて大きくなり,第2因子は,概数15人を中心としており,校種が進むにつれて大きくなるものと小さくなるものが認められた.

  • 榊原 範久, 阿部 雅也, 関原 真紀, 大島 崇行, 桐生 徹, 水落 芳明
    2025 年 49 巻 1 号 p. 43-54
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,GIGAスクール構想の進捗に伴い,子どもや教員にもたらされた成果や課題に関しての教員の意識を調査した.そして教職経験年数に着目して分析し,教員の意識の実態を明らかにすることを目的とした.調査対象の公立小中学校・特別支援学校教員289名を若手,中堅,ベテランの3群に分類した.質問紙調査において,質問ごとに見ると,ベテラン群はGIGAスクール構想の成果の項目で値が高く,中堅群は課題の項目の値が高かった.計量テキスト分析では,全群共通で子どもたちの成果として「タブレット端末」「活用」「学習」,課題として「タブレット端末」「ルール」「情報モラル」の語が抽出された.そして教員の成果としては「活用」「授業」「ICT」,課題は「活用」「差」「ICT」の語が抽出された.そして,中堅群はタブレットの活用の効果について実感し,若手群は情報モラルの問題を挙げ,ベテラン群は自身の情報活用能力の不足についての記述が見られた.

  • 相田 直樹
    2025 年 49 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2025/02/07
    ジャーナル フリー

    本研究は,国語科の協働学習場面において,中学生が意見を表明する際に他の学び手からの評価をどのように予測し,また他の学び手の意見表明に対してどのように評価するかを検討することによって,これらの評価にずれがあるか否かを検討することを目的とした.評価予測に関する先行研究を追試した上で,国語科の協働学習場面についての質問紙調査を実施した.分散分析の結果,学年にかかわらず,「学び手自身に対する評価予測」は「他の学び手に対する評価」よりも有意に低いことが示された.また,階層的重回帰分析を行った結果,「学び手自身に対する評価予測」にはクラスへの居心地の良さの感覚が,「他の学び手に対する評価」にはクラスへの居心地の良さの感覚と国語科充実感が正の影響を及ぼしていたことが示された.最後に,本研究の知見と教育実践との関連について議論した.

教育実践研究論文
  • 中澤 謙, 久田 泰広, 渡部 琢也, 西原 康行
    2025 年 49 巻 1 号 p. 65-77
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2024/10/14
    ジャーナル フリー

    本研究は,ウェアラブル式アイトラッカー (W-ET) を用いて,熟練保育者の「みえ」を明らかにし,中堅保育者と共有することを目的とした.従来の映像では保育者の視点を完全に再現できない課題に対し,W-ETは保育者が見ている範囲と注視箇所をそのまま記録できるため,より具体的な事象に即してリフレクションを進めることが可能となった.対話リフレクションを通じて熟練保育者が子どもの内面の変化を予測して支援する際に,「二人称視点」,「この場では知り得ない情報」,「遊びの文脈」,「内発的動機付け」の4つの観点に留意していることが明らかになった.W-ETを通して熟練保育者の「みる」が具体的に示されることで,中堅保育者は熟練保育者の「みえ」と自身の「みえ」の違いに気づき,そこから学びを得た.W-ETを用いた対話リフレクションが中堅保育者の「みえ」の枠組みを再構築し,保育実践を省察する能力を高める効果を持つことが示唆された.

  • 太田 小雪, 榊原 範久
    2025 年 49 巻 1 号 p. 79-90
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2024/09/11
    ジャーナル フリー

    本研究では,アドボカシーを促すルーブリックを取り入れた振り返りシートとして,みんなで頑張ろうシートを開発し,小学校体育科ボール運動での実践を通して,学習者の共生体育態度に係る効果を検証した.検証の結果,みんなで頑張ろうシートを取り入れることで,学習者の共生体育態度の第1因子「リーダーシップ」の向上と第5因子「過度な勝利志向」の低減について5%水準で有意な差がみられた.また,振り返り記述および,ゲーム後の話し合い活動場面において,アドボカシーおよび共生体育態度に該当する記述や発話が表出した.よって,みんなで頑張ろうシートを用いることで,学習者のアドボカシーが促され,振り返りを行う際に,共生体育態度が表出した.特に学習者の共生体育態度の第1因子「リーダーシップ」の向上と第5因子「過度な勝利志向」の低減に効果がみられることが明らかとなった.

  • 経済学入門科目の実践から
    市野 泰和, 河井 亨, 関 麻衣
    2025 年 49 巻 1 号 p. 91-108
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,大学の経済学入門科目において,ランダム化比較試験により反転授業の効果を検証した.実践は,2つのクラスに伝統的な形態の授業と反転授業を交互に経験するようデザインされた.反転授業という授業形態が,課題の点数,出席,動画視聴といった中間的な学習指標と小テスト・期末テスト・満足度といった最終的な指標に及ぼす影響をパネルデータによる重回帰分析および媒介分析によって明らかにした.その結果,今回の実践研究では,1) 反転授業が受講生の学習への取り組みを高め,小テストの得点の上昇に効果をもつものの,期末テストに影響を及ぼさないこと,2) 反転授業の効果はグループ学習への積極性と動画視聴を完遂することからくること,3) 全体として反転授業の満足度は伝統的形態よりも低く出たものの,グループ学習に積極的な学生は反転授業の方に満足していることなどが明らかとなった.

  • 鈴木 綾, 姫野 完治, 戸田 弘二
    2025 年 49 巻 1 号 p. 109-121
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,国際バカロレア教育校の中等教育学校においてサーベイ・フィードバックを中核とした校内研修を実施し,その効果を検討することを目的とした.まず,学際的な学びに対する生徒と教員の意識を調査し,可視化したデータを校内研修の場で教員へフィードバックした.次に,教員はデータを基に対話し,他の教科・科目の教員と共に学際的な学びの単元計画を作成した.その結果,これまでにない教科・科目の組合せやバラエティに富んだ内容が発案された.教員への事後アンケートから研修の効果を媒介分析によって検討したところ,学校の実態と生徒・教員の意識を可視化することで校内研修の内容が深まるというよりも,データを基に教員間の対話が行われてこそ研修効果が高まるという媒介性の効果が示唆された.教員へのインタビュー内容からも,その効果がうかがえた.

  • 八幡 祐里香, 深谷 達史
    2025 年 49 巻 1 号 p. 123-132
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー

    先行研究では,予習が授業理解を促しうることが示されている.一方,予習を単に求めるだけでは,質の高い予習を行えない学習者もいることから,予習指導の必要性も示唆されている.そこで,本研究では,小学校6年生を対象に,算数の授業理解につながる質の高い予習を促す講座を実施し,その効果を検証した.質問紙調査を通じて,講座前後の予習頻度を調べたところ,講座前に比べて,講座2か月後に行った遅延質問紙において予習頻度の向上が認められた.また,未習範囲の教科書を予習させる予習課題でも,予習して気を付けたことの記述や疑問を表す記述が増加し,予習の質の面においても講座の有効性が確認された.考察では,本研究の成果を生んだ要因や残された課題について議論を行った.

  • 名知 秀斗, 酒井 郷平
    2025 年 49 巻 1 号 p. 133-144
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,定時制高校においてディベートの「反論」の訓練で批判的思考を働かせる際に動画を用いた授業を開発し,その授業がどのような効果を与えるか明らかにすることである.研究の結果,下記の (1) から (3) が明らかとなった.(1) 開発した授業は,共有群と個人群の「論理的思考への自覚」「客観性」の育成を促し,「探究心」は共有群のみ育成を促すことが明らかとなった.(2) 本研究の授業実践によって,「反論」における批判的思考プロセスの達成度は高まることが明らかとなった.(3) 動画を用いて「反論」を訓練する授業は,対人関係に影響を与えず,対人関係が悪くならないと考える人数は,そうでない人数より多いことが明らかとなった.

  • 杉山 芳生, 平山 朋子, 斎藤 有吾
    2025 年 49 巻 1 号 p. 145-152
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,多職種での問題解決能力の育成に関し,有効な教育的支援への示唆を得ることを目的としている.そのために,4職種のコメディカル (看護師,理学療法士,作業療法士,臨床工学技士) を養成する医療系大学において,ジグソー法の要素を加えた多職種連携PBLを実践し,KBDeXによる発話分析と質問紙調査を実施した.発話分析結果から,学科合同グループワーク時に「アンケート」の次数中心性が増加し,学科ごとに異なる資料が,職種 (学科) 間の議論を促進していたことが示唆された.また,発話内容や質問紙調査における自由記述の回答から,対話型論証モデルを援用したワークシートが学習を支援するツールとして機能し,事実・データや論拠に基づく対話を促していた可能性が示された.

資料
  • 辻本 帆花, 赤松 大輔
    2025 年 49 巻 1 号 p. 153-162
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2024/09/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,家庭と給食における食事中の会話が積極的な共食態度を介して小学生の生活満足度を促進するプロセスを検討した.まず,先行研究をもとに食事中の会話と積極的な共食態度を測定する尺度を作成して因子分析を行った結果,食事中の会話と積極的な共食態度は,それぞれ異なる因子として区別された.次に,パス解析の結果,家族およびクラスメイトとの食事中の会話がそれぞれ対応する積極的な共食態度を介して独自に生活満足度を高めるプロセスが示された.最後に,Big Five性格特性が食事中の会話と積極的な共食態度の効果を調整するかどうか検討した.その結果,家族との食事の場合,食事中の会話の効果は協調性の低い児童において強まり,積極的な共食態度の効果は勤勉性の高い児童において強まることが示された.また,クラスメイトとの食事の場合,積極的な共食態度の効果は開放性が高い児童において強まることが示された.

  • 工藤 日南子, 小野田 亮介
    2025 年 49 巻 1 号 p. 163-173
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,インターネットにおける誤情報発信リスク評価を測定する尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討することである.研究1では大学生 (n = 150) を対象とした探索的因子分析を行い,自分が発信した誤情報が拡散するリスクに対する「拡散性リスク評価」と,誤情報が社会に影響を与えるリスクに対する「影響性リスク評価」の2因子から構成される誤情報発信リスク評価尺度を作成し,十分な尺度の信頼性を確認した.また,既存の心理尺度との関連によって構成概念妥当性を確認した.研究2では成人 (n = 962) を対象とした確認的因子分析によって同様の因子構造を確認した.また,インターネットでの情報接触頻度との関連によって構成概念妥当性を確認し,情報発信頻度との関連,および誤情報発信課題における記事紹介の傾向との関連によって予測的妥当性を確認した.

  • 福山 佑樹, 野瀬 由季子, 西口 啓太, 時任 隼平
    2025 年 49 巻 1 号 p. 175-185
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    [早期公開] 公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    近年,生成系AIの活用が大学教育,特にライティング教育において注目されているが,学生が生成系AIの日本語文章執筆能力をどのように評価するのか,特にその評価がライティング教育を受けることで変容するのかは検証されていない.本研究では,ライティング科目の受講が学生の生成系AIによるレポート執筆能力に対する評価に与える影響を検討した.私立大学におけるライティング授業の受講生222名を対象に生成系AIが執筆した文章への認識がどのように変化するかを調査した結果,受講生は「論拠」や「ロジック」などの項目において生成系AIの文章執筆能力に対する評価を授業内容に即して適切に変化させていた.しかし,「根拠」など一部の項目では授業受講後でも適切な評価がなされておらず,生成系AIをライティングに活用するためにはライティング教育に加えて生成系AIの特性をより深く理解するためのカリキュラムを提供する必要性が示唆された.

  • 天野 慧
    2025 年 49 巻 1 号 p. 187-196
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    学習成果を可視化・認定する手段としてデジタルバッジの活用に注目が集まっている.本研究では教育実践研究におけるデジタルバッジの活用方法の違いを検討するために,デジタルバッジを教育現場へと導入してその効果を検証している教育実践研究の事例を取り上げ,(1) 発行の対象となる学習成果,(2) 発行の根拠となる学習評価のプロセス,(3) デジタルバッジに付随されているメタデータの3つの観点で教育実践研究の事例を分析した.その結果として,教育実践研究におけるデジタルバッジの用いられ方には違いがあることを明らかにした.その上で,よりよい実践を創出するには教育現場の課題に応じてデジタルバッジの活用方法を使い分ける必要があること,デジタルバッジ活用による教育へのインパクトを検証可能にするために実践研究においてはその活用方法を精緻に記載する必要があることを指摘した.

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