スギ・ヒノキ壮齢人工林小流域での降雨の移動に伴う溶存有機態窒素(DON)と溶存有機態炭素(DOC)の動態特性を明らかにするため,降雨,林内雨,樹幹流,A_0層通過水,土壌水,湧水および渓流水に含まれるDON,無機態窒素(DIN)およびDOCを調査した。DONおよびDOCとも降雨<林内雨<A_0層通過水の順に濃度が高まるが,土壌水で著しく低下した。DOCは湧水・渓流水で濃度がさらに低下した。年間のDONフラックスは林内雨で5.5kgha^<-1>,A_0層通過水で11.1kgha^<-1>,渓流水で痕跡程度(0.9kgha^<-1>以下)であった。DOCフラックスはそれぞれ139,185,6.4kgha^<-1>であった。A_0層通過後に全溶存態窒素(DON+DIN)に対するDONの割合が低下し,DINではNH_4-Nが減少し,NO_3-Nが増加した。A_0層通過後のDOCの付加量は林内雨に比べて少なかった。以上のことから,A_0層におけるDONおよびDOCの生成とともに,活発な無機化と硝化による溶存有機物の消費が示唆された。渓流への窒素の年間流出量は13.8kgha^<-1>であり,DONの割合は7%以下と推定された。年間のDOC流出量は欧米の森林流域に比べて少なかった。本調査地で代表されるような日本のスギ・ヒノキ壮齢人工林流域では,渓流への窒素と炭素の流出に対するDONとDOCの寄与は小さいと考えられた。
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