ニホンジカによる林床のミヤコザサの採食と人為的なササ刈りが表層土壌の温度・水分状態に及ぼす影響を明らかにするため,大台ヶ原の針広混交林において,シカ排除処理とササ刈り処理の有無を組み合わせた4つの処理区で,処理開始から3〜4年後の表層土壌の水分ポテンシャルと地温を測定した。すべての処理区とも表層土壌のマトリック・ポテンシャルは大半が-4〜OkPaの範囲と湿潤状態であったが,シカ排除・非ササ刈り区では-4kPa以下の出現頻度が他の処理区より高く,やや乾く傾向が認められた。表層土壌の月平均地温は,シカ排除・非ササ刈り区では対照区に比べて夏季には1〜2℃低く,冬季は逆に1〜2℃高い傾向が認められた。シカ排除処理・非ササ刈り区では,ササの地上部現存量が増加したことに伴って,ササによる被覆効果や蒸散量の増大が土壌水分や地温に影響を与えたことが示唆された。ただし,処理区間の土壌水分と地温の違いは,土壌の生物化学的プロセスに明確な影響を与えないと推察された。したがって,ミヤコザサの地上部現存量の増加や減少が本研究の測定値内で生じても,温度,水分環境の面からこの森林の養分循環に影響を及ぼす可能性は小さいと考えられた。
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