森林バイオマスの過剰な利用,特に全木集材による枝条の収穫が,森林土壌の養分状態や生産性の低下につながる懸念がある。そこで,枝条収穫がスギ林土壌の交換性塩基動態に及ぼす短期的な影響を明らかにするため,48年生のスギ林分において,枝条収穫を伴う間伐を行い,枝条収穫の有無(全木集材(WTH区)と短幹集材(SOH区)の違い)が土壌中の交換性塩基動態に及ぼす影響を隣接する林分で調査した。間伐によって林地に還元されたSOH区の枝条は急速に分解した。イオン交換樹脂法を用いて堆積有機物(A
0)層から鉱質土壌層および土壌中のCa,Mg,Kの動態を調査したところ,SOH区では枝条分解の初期にKイオンがA
0層から土壌層へ移動したことが確認できた一方,Ca,Mgイオンの移動量は両区で差が認められなかった。また表層土壌(0-5cm)中の交換性塩基量にも両区で違いは認められなかった。従って,堆積有機物層から土壌層へ至るCa,MgとK動態の違いは,Kがイオン形態であるのに対し,Ca,Mgの一部はイオン形態ではなく有機態のまま土壌へ移動したことによると推察された。さらに土壌に流入するCa,Mg,Kと土壌から流出するそれらイオンのフラックスを求めたところ,流入は50cm深までの土壌からの流出より多いことが明らかになった。
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