森林立地
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58 巻, 1 号
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特集解説
  • 北村 系子, 松井 哲哉, 小林 誠, 斎藤 均, 並川 寛司, 津田 吉晃
    原稿種別: 解説
    2016 年 58 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    ブナは最終氷期以降の地史的植生変遷にともなって北に分布拡大を遂げ,現在も北進途上であると考えられる。地理的分布の北限にあたる黒松内低地帯まで連続分布が見られ,それ以北の分布最北限地帯では隔離小集団として点在している。これら北限地帯を形成する連続分布から分布限界の点在集団にかけてのブナ林では北限に近づくにつれて遺伝的多様性が減少する。STRUCTURE解析の結果から北限地帯南西部の連続分布集団は祖先系統の遺伝的組成により近く,分布最北限では浮動の影響により分化の程度が大きいことがわかった。過去の集団動態推定を行う近似ベイズ計算(ABC)を用いて現在北限地帯を形成するブナ林の分布変遷再構築を試みたところ,分布最前線の集団は複数回の分布拡大と縮小を受けた結果,二次的な遺伝子の混合が起きていることが示唆された。

特集総説
  • 田中 信行, 井関 智裕, 北村 系子, 斎藤 均, 津山 幾太郎, 中尾 勝洋, 松井 哲哉
    原稿種別: 総説
    2016 年 58 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    ブナの分布北限の成立理由について8つの仮説があるが,気候決定仮説と北進仮説に大別できる。ブナの優占林と個体の分布全域の分布予測モデルによると,ブナの分布の北限・上限は冬期の寒さで,南限・下限は生育期の熱量で,優占度は積雪で,おもに規定されている。また,北海道の北部・東部の地域は,ブナ林には寒冷少雪のため,個体には寒冷のため,非生育域に入ると予測される。分布予測モデルは北海道を含む全国の分布データを用いて構築されているので,北海道の潜在生育域は過小予測になっているはずだが,日本海沿いに広がり稚内に達している。この結果は,北進仮説を支持する。将来気候シナリオに基づくと,北海道の潜在生育域の面積は大きく増加すると予測されている。これまでの研究によると,北限最前線付近のブナ個体群は過去から現在まで増加しており,将来も増加と分布拡大を続けると推定されている。2013年にニセコ山系で発見されたブナ個体群は,北限最前線より 12 km離れている。最高樹齢は131年で,いろいろな大きさの個体があるとともに小さい個体が多いことから,ここでもブナが増殖していると推定される。この新分布北限個体群の最初の個体の侵入時期が古いこと,周辺地域における広域の現地調査でブナが発見できなかったことから,北限最前線以北における他のブナ個体群の密度は大変低い。新分布北限地点に基づく移動速度は約 12 m/年である。

論文
  • 市川 貴大
    原稿種別: 論文
    2016 年 58 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    鉱質土壌へのスギ・ヒノキの落葉混入が土壌中の窒素蓄積に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,関東地方の13,21,34,48,66,93年生の同一斜面に隣接したスギ林およびヒノキ林において,年間リターフォールおよびAo層中のN含有量,鉱質土壌に混入した針葉および鉱質土壌中のN含有量を調査した。ヒノキ林では土壌中に混入したヒノキ葉のC/N比は,Ao層と土壌深0―10cmの鉱質土壌との中間的な値を示していた。各林齢において,ヒノキ林ではスギ林に比べて鉱質土壌に落葉が移動し,鉱質土壌のNに占める割合が大きいことを明らかにした。また,ヒノキ林では分解されやすいリターが土壌中に混入しやすく,その結果,土壌におけるN含有量に少なからず影響を与えていることが示唆された。一方,スギ林では21年生以降において,リターフォールによるN含有量は林齢の増加とともに減少するものの,有機物分解されにくいリターフォールを林床に供給することで,Ao層量が維持され,土壌中のN含有量も変化しないことが推察された。

報告
  • 杉原 由加子, 丹下 健
    原稿種別: 報告
    2016 年 58 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    コンテナ苗は,根系発達が制約を受け,キャビティの形状に固まった根系となるために植栽地の土壌と根の接触が限られることが,植栽当初の根から葉への水分供給の制約要因となる可能性がある。本研究では,そのような特徴を有するスギコンテナ苗を用いた造林技術開発のための基礎的な知見を得ることを目的に,翌春の成長開始時までに土壌中への根系の発達によって根から葉への水分供給態勢を整えることが可能な8月下旬に植栽することの翌春からの成長への効果を調べた。8月下旬に植栽試験を開始し,植栽当初の蒸散・光合成速度と翌春からの成長を測定した。植栽当初のコンテナ苗の蒸散速度は,同時期に植栽した裸苗に比べて有意に高く,根系の吸水能が高く維持されていることが示された。コンテナ苗は,翌春までに有意に形状比が低下し,5月から旺盛な伸長成長を示すことが明らかになった。コンテナ苗の高さは,植栽時の 29 ± 4 cmから11月には 85 ± 20 cmになった。

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