本研究は林業機械のリスクアセスメントに資する基礎的データを作成するために,8機種の林業機械を対象に,2003年から2011年までの統計資料を用いて,労働災害の発生頻度を推定した。推定結果より,発生頻度が最も高い機械は,スイングヤーダであり,日本の全産業の平均値以下を示した機械は,ハーベスタ・プロセッサ・スキッダ・フェラーバンチャであった。各林業機械を使用した作業システムでは,タワーヤーダを使用したシステムの度数率が高く,スキッダを使用したシステムが低いことが分かった。多くの作業システムで使用されるグラップルローダは,作業範囲内に人がいることが原因の災害が5割以上あるため,この災害をなくすことができれば,日本の全産業の平均値以下になることが分かった。
日本は国土の約68%が森林で覆われている世界有数の森林大国であるが,1970年代以降,森林産業は急激に衰退した。これを受けて本研究では,森林産業に貢献する情報技術の応用を試みる。森林の業界において,多くの場合,伐採された木材は山土場と呼ばれる一時的な集積所に集めて,そこから大型トラックで輸送するのが一般的である。本研究ではこの山土場の位置を適切に決定することにより,木材の輸送費用をできるだけ少なくするモデルを提案する。モデルは,オペレーションズ・リサーチの手法のひとつであるP-メディアン問題を適用する。P-メディアン問題は,児童の歩行距離を最小にするような小学校の場所の選定などに応用される枠組みである。本研究においては児童の歩行距離を木材の輸送費用とみなすことにより,輸送費用を最小にする山土場の選択に応用する。モデルの実現に必要な木材量や輸送距離は,秋田県の森林に関する地理情報システム(森林GIS)から得ることができ,実際のデータを用いた数値実験例も紹介する。このような情報技術の活用方法を提示するにより,森林産業の発展に資することを目的とする。