森林利用学会誌
Online ISSN : 2189-6658
Print ISSN : 1342-3134
ISSN-L : 1342-3134
37 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集巻頭言
総説
  • 鈴木 保志, 吉村 哲彦, 長谷川 尚史, 有賀 一広, 斎藤 仁志, 白澤 紘明, 山﨑 真
    原稿種別: 総説
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.5
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    日本の森林面積の4割を占める人工林のおよそ半分が,一般的な主伐期である50年生を超えて本格的な利用期を迎えている(林野庁2021b)。資源の成熟と,利用間伐から主伐への移行に伴い集材対象木も大径化することとなり,集材システムや路網の対応が必要となってきている(鈴木ら2015,Nakazawa et al. 2019)。タワーヤーダ等大型の高性能林業機械を搬送・配置するため,また流通コストの低減に必要な大型の運材車両のためにも規格の高い林道の整備の必要性が高まっており,これを受けて2020年には林道規程の設計車両にセミトレーラが加えられる改定がなされた(林野庁2021b,c;林野庁森林整備部整備課2021)。

    しかし伐出の現場である山岳地の森林に至るまでの中山間地の公道には,いまだ狭隘部が多くあるというのが現実の状況である。以降これを「公道隘路」と称する。山村の過疎に加えて,国全体でも今後さらなる人口減少が予想される中,地域の重要性が見直され,都市への一極集中から中山間地域を中心とする地方への分散定住が,持続可能な開発とならび耳目を集める状況となってきた。このような背景を受け,筆者らは2021年から科学研究費の補助を受けて,課題「持続可能な次世代分散定住社会のために今必要な森林地域の道路網整備の隘路はどこか?」への取り組みを開始した(日本学術振興会 2021)。この問題意識は,日本の森林資源を次の世代に豊かなかたちで引き継ぐことができるよう適切に管理育成利用するとともに,森林に関わる産業を中山間地の経済基盤とするために,森林地域の公道隘路を解消し公道と林内路網をあわせて全体的な道路網整備を行うべきだ,というものである(図-1)。研究期間は4年間でまだ端緒についたところだが,予備調査の段階で新たな問題や課題も見えてきた。

    そこで本総説では,まず日本における公道すなわち一般道路行政と,林道行政の変遷について振り返る。次に,諸外国の状況を踏まえたうえで,これから解決していくべき問題について考察することで,日本の森林地域における公道も含めた路網整備の方向性について議論する。

論文
  • ―拡幅シミュレーションによる検討―
    渡部 優, 斎藤 仁志, 白澤 紘明, 植木 達人
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.17
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    基幹路網整備を加速化させる一方策として,既設路網の高規格化が挙げられるが,高規格化の物理的・経済的な難易は,既設路網の立地と構造の条件によって異なるため,既設路網の高規格化により基幹路網がどの程度整備可能であるかは明らかでない。そこで本研究では,既設路網の高規格化による基幹路網の整備の可能性を,拡幅の観点から明らかにすることを目的とした。長野県伊那市の民有林に整備された作業道,2・3 級林道を対象に,既設路網の全幅員を3.5 m および4.0 m に拡幅するシミュレーションにより,路線ごとに拡幅の物理的可否の判定と拡幅単価の試算を行った。その結果,設定条件下で拡幅可能と判定された路線の総延長が既設低規格路網の総延長に占める割合は,全幅員3.5 m への拡幅の場合は89.0% であり,全幅員4.0 m への拡幅の場合は70.1% であった。路線長の重み付きの平均拡幅単価は全幅員3.5 m への拡幅の場合は1,787 円/m であり,全幅員4.0 m への拡幅の場合は5,537 円/m であった。仮に対象地において,全幅員3.5 m へ拡幅可能なすべての既設路網を拡幅した場合,基幹路網の目標整備水準の達成に必要な整備量の36% を拡幅により賄える可能性が示された。

  • ―道路ネットワークトポロジーの観点からの評価―
    渡部 優, 斎藤 仁志, 白澤 紘明, 植木 達人, 古川 邦明, 臼田 寿生, 和多田 友宏
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.27
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    林道を災害時の代替路として見直す機運はあるものの,その機能の定量的評価手法は十分に確立されておらず,林道整備が中山間地域の防災基盤構築にどの程度効果的であるかは明らかでない。本研究では,林道の公益性評価を目的に,既往の接続脆弱性評価手法を改良した林道の代替路機能の定量化手法を考案し,岐阜県郡上市を対象に評価を行った。評価にあたり林道の代替路機能の概念的な整理を行い,代替路機能を有する林道を,避難起終点間の非重複経路数を最大化しつつ総所要時間が最小となる非重複経路集合(避難経路集合)に含まれる林道として定義した。そして避難経路集合は,起終点間の最小費用最大流問題の解として得られることを示した。対象地における避難起点(市内225 か所の避難所)と避難終点(郡上市市役所)間のすべての避難経路集合を評価した結果,約65%の避難所の避難経路集合に林道が含まれることが明らかとなった。提案手法は,正確な算定が困難な被災リスクによらず,ネットワークトポロジーの観点のみから林道の代替路機能の評価が可能である。評価結果は,代替路機能の観点から林道の開設・改良・維持管理事業を評価する際の支援情報になると考えられる。

速報
  • 生駒 直, 齋藤 仁志, 立川 史郎
    原稿種別: 速報
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.39
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    経済性と林地荒廃リスクへの配慮が両立可能な皆伐作業を実現するための基礎情報提供を目的として,皆伐地集材路の実態を把握した。調査は皆伐地63 か所を対象として行った。調査の結果,集材路密度は全伐区の平均が361 m/ha となり,伐区の地山傾斜にかかわらず高い値を示した。平均集材距離, 配置形態および集材方法の観点から検討したところ,高密に開設されていてもネットワークの発達に寄与していないなど,必要以上の開設が行われていることが示唆された。集材路の盛土崩壊は168 か所確認され,特に地山傾斜30°以上の急傾斜地では盛土崩壊リスクが大きくなることが明らかになった。急傾斜地においても一定量の集材路が開設されており,そのような場所で生じた盛土崩壊により,継続的な利用が困難となっている状況も多くみられた。また,集材路に関係する林地荒廃の割合も大きいことが明らかになった。

論文
  • 中澤 昌彦, 瀧 誠志郎, 佐々木 達也, 上村 巧, 田中 良明, 白澤 紘明, 吉田 智佳史, 毛綱 昌弘, 山﨑 敏彦, 山﨑 真, ...
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.47
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    中距離対応型のタワーヤーダによる皆伐の上げ荷集材作業の生産性を明らかにすることを目的に,急傾斜地の針葉樹人工林において皆伐作業を観測し時間分析を行った。作業システムは,作業道上に搬器操作も兼務する造材機械操作手1 人,先山に伐倒手1 人,搬器操作手1 人,荷掛手1 人の4 人作業を適用した。平均集材距離が137.5 ± 5.0 m,平均横取り距離が15.0 ± 5.2 m の作業条件において,作業時間11,729 秒,サイクル数31 回,集材幹材積30.9 m3 ,素材生産量29.2 m 3 を観測し,サイクルタイムは378.4 秒/ 回,平均荷掛量は1.0 ± 0.23 m 3 /回,生産性は9.0 m3 /時となり,中距離対応型タワーヤーダによる皆伐の伐木から集材,造材工程までの労働生産性が2.2 m 3 /人時と求められた。既往の間伐および本研究の皆伐の作業時間分析結果から,集材距離と横取り距離を変数とした合計作業時間の予測式を導出し,想定した荷掛け量をこの作業時間で除して皆伐の上げ荷集材作業の生産性を予測した。以上から,間伐と同様に皆伐においてもこのタワーヤーダを用いた作業システムは高い労働生産性が期待できることを明らかにした。

  • -鹿児島大学高隈演習林を事例にして-
    牧野 耕輔, 岡 勝, 加治佐 剛, 寺本 行芳, 新永 智士
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.57
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    成熟した森林資源,施業地の広域化,そして高性能林業機械の普及などを背景に素材生産量が増加している。生産過程で得られる素材の採材状況や販売実績は林業経営にとって重要な情報だが,活用される機会は非常に少ない。本研究では,素材生産現場で計測したプロセッサ造材データを用いて伐倒木の幹曲線式と採材方法を分析し,素材販売実績から素材の平均販売価格を算定した。これらを基に,演習林の標準的な収穫木のサイズ,幹形,および単純化した採材パターンを作成し,素材販売額を予測した結果,実際の販売実績との比較において高い相関が認められた。

  • 猪俣 雄太, 山口 浩和, 中田 知沙
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 37 巻 1 号 論文ID: 37.67
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル フリー

    林業における労働災害発生率と年齢との関係を明らかにすることを目的に,2010 年から2015 年の労働災害事例のデータベースと統計資料から,事故の型・起因物ごとに年齢別の死亡と,死傷から死亡を除いた傷害の災害発生率を算出した。年齢別の死亡災害発生率では60 歳以上が最も高い値を示したが,統計解析では年齢による有意差はなかった。傷害災害の発生率では20 歳未満が他の年齢階級より15 ~20 ほど高く,他の年齢階級より有意に高かった。20 歳未満の傷害の発生率が高い要因は,チェーンソーによる切れ・こすれと,地山・岩石による転倒であることが分かった。これらの要因による発生率が他の年齢階級と同程度となった場合,林業の傷害者の減少率は約3%となった。厚生労働省の労働災害防止計画では減少率を5%に設定しており,20 歳未満に特徴的な災害を減らすだけでは目標を達成できず,他の年齢階級への対策が必要であることが分かった。立木等が起因の傷害はすべての年齢階級で発生率の高いことから,林業の労働災害低減のためには,20 歳未満に特徴的な災害だけでなく,立木等が起因の災害を減らすことが有効である。

feedback
Top