本研究は,経済がたち遅れている中国の西北地域において,地域の砂柳生産及び利用へ企業が参入することによって,農牧林家の経営にどのような変化が生じたのかを明らかにすることを目的としている。具体的には,企業と農牧林家の連携により,砂漠植林と同時に地域の経済を振興させている代表的な地域である内蒙古自治区達拉特旗の砂柳植林を対象とし,W村の砂柳を生産する農牧林家に対して聞き取り調査を実施した。砂柳は砂漠地域において,砂地や砂丘を固定するのに適し,植林面積が最も多い樹種の一つである。これまで,砂柳は工芸・建築用原料としての販売と燃料に利用されていたが,いずれも少量であり,生産物の多くは放棄されていた。1999年以降,企業かこの分野に参入すると,放棄していた生産物の利用が盛んになり,砂柳植林を実施する農牧林家は上向展開のチャンスを与えられた。その結果,農閑期における新たな収入源の発生と同時に農牧林家の収入が増加し,年々向上することが明らかになった。一方,手労働による植林及び収穫ゆえに,規模の優越性は存在せず,大規模経営は小規模経営の単なる積み上げとなっている。今後,砂漠地域における持続的発展を実現するためには,収穫作業において,効率を向上させ,機械化を実現させるべきであろう。そして単純な原料の収集だけではなく,2次加工などの付加価値を増加させる枠組みの構築による産業の育成が必要であろう。
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