本研究は,砂漠地域での植林事業において,政府が森林造成と利用とを同時に達成する目的で採用した企業参入政策の下において,企業との連携による農牧林家の梭梭・蓯蓉栽培はどのような現状にあり,解決すべきどのような課題が存在しているのかを明らかにすることを目的としている。中国内蒙古自治区阿拉善盟阿拉善左旗を調査対象地に選び,梭梭・蓯蓉栽培農牧林家に対して個別聞き取り調査を実施し調査結果を分析した結果,以下の2点が明らかになった。(1)企業との連携農牧林家は,契約栽培農牧林家と,当該企業に雇用されて企業に賃労働のみを提供しているタイプの経営の2タイプに分類することができる。契約栽培農牧林家は増収を実現し,賃労働のみを提供している農牧林家は安定した就労先を確保できている。(2)しかし一方,問題点として以下の点が指摘できる。農牧林家は投下資金を有していないため,新品種の導入ができず,生産量を増やすことができていない。また機械化が実現していないため,労働生産性の向上に件う規模の経済性が享受できておらず,大規模経営は小規模経営の積み上げの段階にある。その結果,労働可能な家族員数が多い農牧林家だけに規模拡大チャンスが存在するというチャヤノフの小農経済の原理的枠組みが貫徹している現状にある。また一方においては社会主義的市場経済化の進展に伴い,栽培者の高齢化による将来における担い手の確保問題,跡継ぎ問題も現れ始めている。今後において,梭梭・蓯蓉栽培を持続的に展開させていくためには,企業からだけではなく政府からも種子代の補助を実施し,また多くの農牧林家が栽培事業に参加できるよう企業若しくは政府が栽培農牧林家と連携する中で,省力化や労働強度の軽減が可能となる機械の開発と栽培収穫労働過程の機械化に関して取り組みを前進させていくべきであろう。そして栽培農牧林家の施業・管理技術革新を目指した内発的な取り組みを引き出しながら深めることにより,現在の就労条件の改善,販売収入の増加,農家所得の増加を目指し,梭梭・蓯蓉栽培への新規参入の受け入れ体制の整備と定着を図っていく必要があろう。
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