日本森林学会誌
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100 巻, 6 号
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論文
  • 松岡 真如, 小野寺 栄治, 川上 利次, 高野 一隆, 木村 穣
    2018 年 100 巻 6 号 p. 193-200
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    衛星からの電波を受信して位置を知ることのできる Global Navigation Satellite System (GNSS) 受信機は林業の現場に普及している。GNSS で計測された座標には位置誤差が常に含まれている。したがって,その座標を用いて計算した面積も誤差を持っている。面積誤差の大きさが分かれば,直接的に測量の精度を知ることができ,森林資源の管理に役立つと考えられる。本論文では,位置座標と位置誤差(標準偏差)とから面積の標準偏差を求める方法を説明する。また,誤差を含む座標を用いて計算された「面積の標準偏差の近似値」を面積の精度を示す指標として利用することを提案する。この近似値のあてはまりの良さを評価するため,本論文では GNSS による周囲測量を模した数値実験を行った。その結果,90%以上の実験条件において,近似値は実測値±3%の範囲に収まった。加えて,提案した指標を実際のデータに適用し,利用方法の例を示した。これらにより,提案した指標が GNSS 測量で得られた面積の精度評価に利用できる可能性が示された。

  • 石黒 秀明, 相川 拓也
    2018 年 100 巻 6 号 p. 201-207
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    マツノザイセンチュウ(線虫)はマツ材線虫病の病原体であり,マツノマダラカミキリ(カミキリ)によって伝播される。本研究では,カミキリの産卵痕経由でクロマツ枯死木に侵入した線虫の樹体内での分散様式,およびカミキリ成虫の線虫保持状況を明らかにするための実験を行った。伐倒により枯死した後カミキリ成虫に産卵されたマツ(産卵痕侵入区)と,マツ材線虫病の自然感染により枯死した後カミキリ成虫に産卵されたとみなせるマツ(自然区)の2処理区を作った。産卵痕侵入区では,カミキリの痕跡(産卵痕,幼虫の食痕,成虫の脱出孔)のない無傷の材部に線虫はほとんど存在していなかったが,自然区のマツでは高頻度で線虫が検出された。また,枯死木から脱出したカミキリ成虫の保持線虫数は両処理区間で違いがなかったが,10,000頭以上線虫を保持したカミキリ成虫の出現頻度は産卵痕侵入区の方が自然区より高かった。これらの結果から,マツ材線虫病以外の要因で枯死したマツに産卵痕経由で線虫が侵入した場合,線虫は樹体全体に拡がりにくいこと,またそのようなマツから脱出したカミキリ成虫でも,線虫を数多く運び出す可能性があることが実験的に示された。

  • ―機械学習を用いたアプローチ―
    美濃羽 靖, 尾張 敏章, 中島 徹, 犬飼 浩
    2018 年 100 巻 6 号 p. 208-217
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,機械学習を用いて選木結果に影響すると思われる重要な属性の機械的な抽出,収穫木の選定およびその選木規則の抽出を試みた。解析には,東京大学北海道演習林の天然林施業試験地内に成立する立木184本を用い,48属性(立木の形質や健全性など選木基準に関わる47の外観指標および胸高直径)を学習モデルの入力データとした。機械学習では,属性選択アルゴリズムを用いて収穫木を決める際に有効となる属性を機械的に抽出し,次に,決定木を用いて収穫木の選定およびその選木規則の抽出を行った。なお,学習モデルの性能評価にはMCCを用いた。解析結果より,属性選択の結果で上位を占めた外観指標の多くは,収穫木に見られた外観指標であり,上位5位のみの属性を用いた学習モデルではほとんど分類することができなかったが,上位15位の属性を用いれば十分に分類することができた。また,学習モデルを構築する際,モデルのオプションを調整することにより,分類精度の高いモデルを構築することが可能であった。決定木では学習モデルとして26モデルが構築され,そのうち一つのモデルにおいて収穫木をすべて分類することが可能であった。

  • 福田 有樹, 平岡 裕一郎, 大平 峰子, 高橋 誠, 井城 泰一, 三浦 真弘, 栗田 学, 渡辺 敦史
    2018 年 100 巻 6 号 p. 218-223
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    スギにおける根系形質の遺伝的変異および地上部初期成長に関連する根系形質を明らかにすることを目的として,育苗段階におけるスギ精英樹193クローンのさし木苗を用いて,根量に関連する形質(総根長,表面積および体積),根径に関連する形質(平均直径および細根率),根系構造に関連する形質(根端密度および分枝密度)の三つの形質カテゴリーに分類される七つの根系形質および地上部初期成長量を測定し,それら形質ごとの遺伝的特性および形質間の関係性を評価した。広義の遺伝率は根系構造に関連する形質でより高く,根量に関連する形質の間には強い相関が認められたほか,これらの形質は分枝密度とも相関が認められた。地上部初期成長量は根量に関連する形質および分枝密度,細根率との関連性が認められた。これらの結果は,スギの根系形質に関する遺伝学的研究に資する基盤情報になるとともに,地上部成長に影響する要因としての根系形質の重要性を示唆するものである。

短報
  • 末吉 智秀, 田代 健二, 今岡 成紹, 平山 知宏, 平田 令子, 伊藤 哲
    2018 年 100 巻 6 号 p. 224-228
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    2015年夏季にシイ・カシ類の集団枯損が宮崎県の常緑広葉樹林において発生し,2016年にも継続して被害が発生した。被害の特徴を明らかにするため,シイ類が優占する照葉樹二次林において,ブナ科樹木を対象として樹種,胸高直径(DBH)および成立微地形を調査した。その結果,調査地内ではブナ科樹木が7種確認され,7種すべてに対してカシノナガキクイムシによる穿入がみられた。その中でもツブラジイは,アラカシやウラジロガシに比べ穿入を受ける割合が高かった。また,DBHが33 cm以上の個体は穿入を受ける割合が高かった。調査林分内では樹種によってDBHの頻度分布が異なっており,ツブラジイはDBHが33 cm以上の個体の割合が高かった。微地形の影響はみられなかった。これらの結果から,本調査地ではDBHの影響が大きく,DBHが33 cm以上の個体に対してカシノナガキクイムシが選好性を示したと考えられた。

総説
  • 高橋 正通, 柴崎 一樹, 仲摩 栄一郎, 石塚 森吉, 太田 誠一
    2018 年 100 巻 6 号 p. 229-236
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    ポリアクリル酸等を材料とする高吸水性高分子(SAP)は1970年代後半から土壌保水材として利用されている。乾燥地・半乾燥地における農林業や緑化へのSAP利用に関する研究報告や実証試験をレビューした。SAPは自重の数百倍の純水を吸収できるが,塩分を含む水では吸水能が数分の1に低下し,土壌中では粒子間での膨潤に限られる。SAPの利用は,1)裸苗の根の乾燥防止や活着促進,2)土壌の保水性と苗木の乾燥耐性の向上,3)植栽穴への施用による活着や成長促進,4)種子の発芽促進,を期待した研究が多い。ポット試験の結果からは,土壌の保水量はSAP添加量に比例して増加するが,粘土質より砂質土壌で土壌有効水量が増加し,樹木の耐乾性も向上する。実証試験からは,SAP施用で活着や成長が概ね良くなるが,土質や樹種によって反応が異なり,過剰な添加はしばしば苗木の成長を低下させる。SAPの課題として,肥料との併用による保水効果の低下,持続性の短い保水効果,現場コストの未検討等を指摘できる。今後は,体系的な実証研究によるSAPの施用方法の確立,有効な樹種の選別,製品性能の改良が望まれる。

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