シカ食害を潜在的に受けやすい高さの範囲と,それに与える斜面傾斜の影響を明らかにする目的で,苗高160 cmを超えるスギ大苗を植栽して1年間のシカによる枝葉採食の痕跡(食害痕)の高さを測定し,スギ植栽位置の斜面傾斜を5゚間隔で区分して比較した。斜面傾斜が急なほど食害率は低く食害痕数は少なくなる傾向がみられた。斜面傾斜が5゚以下の平坦地では高さ75~110 cmの範囲に食害痕の67.4%が集中し,食害高の中央値は96 cmであった。食害高は斜面傾斜が15゚を超えると高くなり始め,35゚を超えると食害高は平坦地に比べて40 cm以上高くなった。また,30゚を超える急傾斜地の食害痕は81~100%が樹冠の斜面上側に分布していた。以上の結果から,斜面傾斜の影響がない状態で食害痕が集中した1 m前後(75~110 cm)の高さは食害リスクが潜在的に高く,スギ樹高がこの高さより低い場合には主軸先端が最も食害を受けやすいと示唆された。スギ大苗の主軸先端への食害を回避するためには,緩傾斜地では110 cm以上の大苗,斜面傾斜が35゚を超えると少なくとも140 cm以上の大苗が必要だといえる。
コンテナ苗の出荷作業を効率よく行うには,根鉢が適度に形成された苗木を選ぶことが有効である。本研究では,根鉢の物理的性質を定量的に評価する指標とその測定手法を考案し,各指標に対する育成孔の形状の影響や,各指標と苗木の地上部の形態的特徴との関係を明らかにすることを目的とした。リブ型とスリット型の150 ccコンテナでスギ苗木を育成し,2成長期目の初め(6月)と終わり(11月)にそれぞれ測定に用いた。根鉢の物理的性質として,根鉢の硬さ(山中式土壌硬度計による指標硬度),根鉢の崩れやすさ(落下の衝撃による脱落土壌量),根鉢の抜き取りにくさ(育成孔からの引き抜き力)を評価した。また,苗高,地際直径,根のバイオマスを測定した。その結果,根のバイオマスの増加とともに脱落土壌量は小さくなったが,指標硬度と引き抜き力は大きくなった。各指標は測定原理が簡明で結果を理解しやすく,根系の発達状況をよく反映していると考えられた。各指標を用いた評価により,根のバイオマスが等しければリブ型と比べてスリット型では根鉢が崩れやすく抜き取りやすいこと,根鉢の物理的性質は苗高より地際直径と強い関係があることが示唆された。
本研究では,雄性不稔スギ「爽春」の雄性不稔形質の原因遺伝子座(ms-1)と強く連鎖する遺伝子座における不稔型および野生型個体の遺伝子型を容易に検出できる簡易DNAマーカーを開発した。既報のSNP情報を基に,アレル特異的プライマー(Allele Specific Primer: ASP)PCR法,およびCAPS法によるDNAマーカーを開発した。まずms-1に座乗するEST(reCj19250)について爽春,野生型精英樹クローン碓氷2号のcDNAおよびゲノムDNA配列を決定し,不稔型および野生型のSNPを検出するためのプライマーを設計した。ASP-PCRマーカーにおいて,不稔型のホモ接合体では157 bp,野生型のホモ接合体では345 bpのバンドが検出され,ヘテロ接合体では両バンドが検出された。CAPSマーカーにおいて,不稔個体では制限酵素で切断された101 bp,野生型個体では125 bpのバンドが検出され,ヘテロ接合体では両方のバンドが検出された。これらのマーカーは雄性不稔スギの苗木生産現場における不稔個体の検出や,今後の林木育種のためのヘテロ型精英樹等の探索に利用できると考えられた。
1660年頃作成の屋久島の古い絵図「屋久島古図」が存在する。この絵図は非常に詳細で,島内の集落名,山頂名,河川名,場所名,スギを含む数種の樹木の存在,島中央への歩道等が書き込まれている。そこで本研究では,この地図を現代図と重なるようにGIS上で補正し,当時のヤクスギ分布を推定した。さらに現代図のヤクスギ分布域との比較から,その間の変化を把握しかつその変化要因を分析し,最後にこの地図の今後の利用可能性を検討した。その結果,この地図は現代図と非常に良く重ね合わせることができ,当時のヤクスギ分布域は島東部の安房川流域に偏り,標高200 m付近の低標高域にも存在していたことが判明した。1660年当時にヤクスギが分布していた地域で,その後の伐採でヤクスギが消失した地域は,低標高の地域と川の近くに多かった。以上からこの屋久島の地図は,作成当時の森林状態を詳細に記録した地図として活用できる可能性が示唆された。
礫浜に生育する海岸林においてクスノキとヤマモモの風倒木を利用して根系の引き抜き試験を行い,引き抜き抵抗力に及ぼす単根の直径および砂礫の粒径組成の影響を検討した。過去の事例と同様に単根の直径を説明変数,引き抜き抵抗力を応答変数としてべき乗式で表した。立木位置によって礫の粒径組成が異なり,径5.6 mm以上の礫を多く含む場所では引き抜き抵抗力が小さくなる傾向が認められた。一方,引き抜き抵抗力に2樹種の違いは影響せず,材料試験機を使った単根の破断試験においても根の縦引張り強さに樹種間差は認められなかった。単根の直径と引き抜き抵抗力の関係式の係数を比較すると,砂浜や山地で行われた過去の事例と比べて本試験のものは小さく,円礫まじりの礫浜に成立する海岸林では単根の引き抜き抵抗力が小さくなることが示唆された。
寄主樹木における枝折れなどの軽微な損傷にマツノマダラカミキリ成虫が誘引されることを明らかにするために, 2017年6月下旬に健全なアカマツ生立木4本の樹冠に新鮮な切り枝,または枯れた切り枝の束を縛り付け,幹や枝条に形成された本種成虫の産卵痕および後食痕を定期的に数えた。産卵痕および後食痕は7月中旬にすべての処理木で初めて確認された。それらの数は9月中旬まで断続的に増加し,総数はそれぞれ木当たり26~101個と10~27カ所になった。一方,切り枝を縛り付けていない対照木10本の幹に産卵痕は形成されなかった。処理木のうち2本がマツ材線虫病により枯死した。これらのことから,切り枝は成虫を誘引し,切り枝を縛り付けた生立木に産卵や後食が誘起され,マツ材線虫病を感染させうることが示された。寄主樹木での降雪や風による枝折れのような軽微な損傷は,マツ材線虫病の拡大や履歴効果に影響を及ぼす可能性がある。