古くからある社叢は地域の潜在自然植生を示す緑地として重要視されているが,必ずしも手つかずの状態で持続してきたわけではない。本研究では,東京都にある大國魂神社の社叢において毎木調査を行い,1686年以降6時期の調査資料を比較することで,江戸時代から現在までの樹種構成の変化を本数レベルで明らかにした。大國魂神社では,江戸時代前期以降,隣接する崖線林の構成種であるケヤキの大径木が生育していたが,樹木本数としてはスギが大半を占めていた。本地域の気候的な極相をなすシラカシなどは選択的に伐採された記録があり,過去に常緑広葉樹が優勢な時期は認められなかった。1970年までにスギが一斉に枯死した後は,ケヤキとムクノキを主とした落葉広葉樹の成長によって回復が進んでいた。以上から,大國魂神社の社叢では,崖線林という土地的な極相の要素を保持しつつ,スギの植栽によってシラカシなどの常緑広葉樹林への遷移が抑制されて成立したものと考えられた。
ブナ二次林における「林冠ギャップ」を模した0.04 ha未満の小面積の群状択伐がオサムシ科甲虫群集に及ぼす影響を評価するために,ブナ択伐箇所,ブナ択伐箇所に隣接したブナ保残箇所,ブナ二次林,およびスギ人工林の四つの調査サイトで択伐前後の環境要因とピットフォールトラップ法によるオサムシ科甲虫の捕獲調査を行った。その結果,択伐により土壌水分率や土壌温度などの林内環境は変化し,オサムシ科甲虫群集については,択伐翌年はブナ択伐箇所とブナ保残箇所でケゴモクムシが多く捕獲された。また,アトボシアオゴミムシとコゴモクムシの2種はブナ択伐箇所のみで捕獲された。このため,これら3種は択伐後の環境変化に敏感に反応し,その環境に速やかに侵入する種であること,また,択伐は施業を行った場所だけでなく,隣接林の捕獲種数と捕獲個体数を増加させることが示唆された。一方で,択伐後,顕著に捕獲個体数が減少した種はなかった。NMDSの結果,ブナ林の三つの調査サイトは重なって描画された。以上のことから,ブナ二次林における小面積の群状択伐は,オサムシ科甲虫群集を保全,維持するうえで有効な施業方法であると考えられる。