日本森林学会誌
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87 巻, 1 号
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  • 斎藤 真己, 古賀 由美子, 古田 喜彦, 平 英彰
    2005 年 87 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    スギ花粉症対策の育種母材料として利用するため,3年生の10,902本のタテヤマスギ(実生苗)から雄性不稔スギを探索した。その結果,雄性不稔と思われるスギを二個体選抜することができた。これら二個体のスギの雄花は,外見上正常なスギと変わりがなく,春先の開花期には花軸を伸長させるが花粉を全く飛散させなかった。さらに,電子顕微鏡で調べてみると花粉同士が崩れた形で融合しており,正常な花粉はほとんど認められなかった。これらの個体は染色数に異常がなかったことから,花粉形成に関与する遺伝子の突然変異(雄性不稔遺伝子)によって雄性不稔性は引き起こされていると思われた。また,今回の調査結果では5,451分の1の頻度で雄性不稔個体が出現した。この方法は3年生の実生苗を材料に用いるので少ない栽培面積と短い生育期間で済み,雄性不稔スギを選抜するのに有効な手法であると考えられた。
  • 佐藤 嘉一
    2005 年 87 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    イヌマキの重要害虫であるケブカトラカミキリによるイヌマキ立木の被害分布を明らかにするため,2003年4~5月に鹿児島市内のイヌマキ造林地内に540m2の調査プロットを設置し,その中の全ての立木について被害調査を行った。また,2003年5月20日に調査プロット内の相対照度分布を調査した。ケブカトラカミキリの加害によって枯死した木や加害を受けた生立木(被害木)は,道路に面した林縁部に多く分布していた。枯死木や被害木が分布していた地点の相対照度は,健全木が分布していた地点の相対照度より有意に高かった。枯死木,被害木,健全木の間には胸高直径に有意差はみられなかった。また,2001年と2002年の5月に室内実験により,成虫の移動分散に関係が深いと考えられる走光性を歩行と飛翔の面から調査した。その結果,歩行,飛翔のいずれの場合でも雌雄とも正の走光性を示した。これらの結果から,本種による林分内の被害の空間分布には,林内の光環境と成虫の正の走光性が密接に関係していると考えられた。
  • 阿部 俊夫, 布川 雅典
    2005 年 87 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    茨城県北部のブナ•コナラ自然林を流れる小渓流において,春期に,炭素,窒素安定同位体を用いた食物網の解析を行った。落葉や小枝などのリターを主成分とするCPOM(Coarse Particulate OrganicMatter)は,渓床の付着藻類よりもδ13Cが低かった。FPOM(Fine Particulate Organic Matter)は,CPOMに極めて近い同位体比を示すことから,大部分はリターが細かく分解した有機物と考えられた。δ13C一δ15Nグラフを描くと,底生動物の多くの分類群とイワナはCPOMやFPOMを起点として右上がりに連なっており,炭素,窒素源をCPOMやFPOMに依存していると考えられた。藻類の近くにプロットされたのは,一部の底生動物のみであった。以上より,この渓流の食物網は,藻類による現地性有機物生産よりも,森林からの外来性有機物供給に強く依存していると考えられた。
  • 八坂 通泰
    2005 年 87 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    近年,北海道では札幌など都市部を中心にシラカバ花粉症が急増している。しかし,カンバ類の花粉の生産や飛散などの基本的な特性が十分に調査されていない。そこで本研究では,カンパ類の花粉生産特性および花粉飛散時期などについて調査を行うとともに,花粉飛散量の予測に応用可能なシラカンバの雄花序観察による着花数の簡便な評価方法についても検討した。シラカンバ街路樹を用い,枝先から50cmの範囲における雄花序の有無と雄花序数を調査しこれらの積を着花指数とした。着花指数は,実際の雄花序数の実測値と両者に高い正の相関関係があり,着花数の評価方法として有効なことがわかった。シラカンバ人工林(平均樹高19m)の1ha当たりの花粉生産量は,0.07~3.5×1012個と推定された。シラカンバ人工林の上層樹高が10mを超えると,5割以上の個体が開花することがわかった。シラカンバ街路樹における剪定は,剪定後開花3シーズンまでは雄花序生産を減少させることが明らかになった。シラカンバは,ダケカンバよりも約2週間開花のピークが早く,空中花粉の飛散もシラカンバはダケカンバよりも早いことがわかった。
  • 鈴木 和次郎, 須崎 智応, 奥村 忠充, 池田 伸
    2005 年 87 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    高齢級人工林の発達様式と施業との関係を明らかにするため,林齢の異なる20年生から240年生までのヒノキ人工林7林分を調査し,高齢級化に伴う群集組成•林分構造の変化を考察した。林齢200年前後のヒノキ高齢級人工林は,100年生以下のものと比べ,構成する個体のサイズや材積が大きくなるばかりでなく,群集組成や林分構造に大きな違いが認められた。すなわち,広葉樹の侵入によって,群集組成が多様化するばかりでなく,林冠層の植栽木と下層の広葉樹なら成る複雑な階層構造が発達する。このような高齢級人工林の林分構造の発達様式は,植栽木の老齢化に伴う自然枯死ばかりでなく,過去の伐採履歴による林冠破壊が深く関与している可能性があり,生態系として健全性の高い高齢級人工林を造成するには,100年生以降の高齢級人工林であっても適正な密度管理が必要と考えられた。
  • 小野 裕
    2005 年 87 巻 1 号 p. 36-44
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    森林伐採後の団粒破壊と孔隙組成や透水性といった土壌物理性の変化との関連について検討する目的で,ヒノキ林伐採後1~3年経過した林地から土壌試料を採取し,水中ふるい分け法による団粒分析試験と土壌物理性の測定等を行った。その結果,伐採後にA層やA1層では土壌構造が変化し,また団粒破壊による小団粒化が進み,これらに伴って粗大な孔隙が減少し微細な孔隙が増加するといった孔隙組成の変化が起こり,透水性が低下したことが明らかになった。A-B層では土壌構造が変化したが,孔隙組成や透水性には変化が認められなかった。B層では土壌構造や孔隙組成,透水性には変化がなかったと考えられた。このように,鉱質土壌の最上層にあたるA層やA1層について,伐採後の孔隙組成や透水性の変化が,土壌構造の変化や団粒破壊と深く関連することを示すことができた。
  • 中西 正和, 小木 知子
    2005 年 87 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    安価に入手可能な10t/day程度の木質系バイオマスエネルギー利用を検討した。現在は利用法が少ない針葉樹樹皮等を主に利用すると,コスト削減に有利だと考えられる。木質系バイオマスのエネルギー利用では,ガス化の場合二酸化炭素削減効果が最も大きい。また,樹皮の性質からガス化が最適である。ガス化すれば,ガスエンジンやマイクロガスタービン電熱併給(コジェネレーション)小型分散発電システム(発電規模数100kW)を利用でき,実用化の可能性は高い。システムの新規設備配置は各地域特性で決まるが,各設備の特性を考慮すると,ガス化設備を林産バイオマスを発生する製材所などの近くに設置,コジェネレーションシステムを一般家庭など電熱需要先の近くに設置,ガスを輸送するのが通常最も良い。ガスエンジンやマイクロガスタービンは短時間で立上•立下可能なので,一般家庭へ供給する場合,電気需要の日内•季節変動に応じ発電機の運転台数を調整できる。信頼性向上や需要ピーク対応のため商用電源と連結系統運転する方が良い。コジェネレーションシステムを一般家庭の近くに設置すると温水も供給可能で,エネルギー総合利用効率を高くできる。製材所へ供給する場合,発電機1台(発電規模は変換効率に依存し200~1,100kW程度)を用い製材所の操業時間中に発電,生成熱を蒸気ボイラーの予備加熱へ使う方式が良い。
  • 田村 明, 藤澤 義武, 飯塚 和也, 久保田 正裕
    2005 年 87 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    スギ精英樹5クローン15個体の炭素含有率の樹幹内変動について検討した。心材の炭素含有率は辺材より高く,辺材では樹皮に近づくにつれて減少する傾向にあった。樹高方向での炭素含有率のパターンは心材,辺材ともに地上高が高くなるにつれて小さくなる傾向にあった。炭素含有率は,どの地上高においても個体およびクローンによる差が小さいことが認められた。地上高1.2mは他の地上高の炭素含有率と相関が高かったことから,個体間の比較が可能な部位であると考えられた。また地上高1.2mにおける炭素含有率には,クローン間差が認められたことから,スギ材の炭素含有率は遺伝要因が大きいことが示唆された。
  • 岡田 恭一
    2005 年 87 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    現在までに愛媛県で選抜されたスギ精英樹74個体について,分析が容易であり,共優性マーカーであるCAPS(Cleaved Amplified Polymor-phic Sequences)マーカーを用いて個体識別を試みた。その結果,使用した53マーカーのうち11マーカーで74個体すべてを識別することが可能になった。
  • 梶谷 宜弘, 堀田 紀文, 小松 光, 久米 朋宣, 鈴木 雅一
    2005 年 87 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    山地斜面上のスギ幼齢林において,斜面の上部と下部に生育するスギ樹木を対象に,ヒートパルスセンサーを用いて樹液流速を測定した。また,同時に斜面上下部それぞれにおいて気象観測を行った。観測結果からは,降雨終了後および朝の蒸散開始時刻にずれが生じているという現象が確認された。多くの場合に斜面上部の方が先に蒸散を開始しており,その時間差は平均で58.5分であった。また,斜面上下部間で微気象条件にも差異があることがわかった。朝の蒸散開始の時間差は日中の降雨終了後よりも平均値および日々変動が大きかった。また,朝の蒸散開始の時間差は斜面上下部間の大気飽差•日射量の違いと強く関係していた。したがって,蒸散開始の時間差は斜面上下部間の大気飽差•日射量の差異によるものと考えられた。
  • 相浦 英春
    2005 年 87 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    斜面積雪の安定に必要な林分の条件を,斜面雪圧によって立木に根返りが発生しないとともに,林内の積雪が安定していることとし,各種の森林における積雪の移動量や,立木に加わる斜面雪圧などの測定を行い,そのような条件を満たす立木密度についてスギとブナを対象に検討した。その結果,斜面雪圧によって立木の根返りが起こらない限界の立木密度は,最大積雪深と立木の根元直径によって樹種ごとに決定された。また,林内の積雪を安定させるためには,立木がほぼ均等に分布していることを前提として,立木密度400本/ha以上が必要であった。したがって,斜面積雪の安定に必要な立木密度は,これらの条件をともに満たす値として求めることができた。
  • 山本 伸幸, 森山 理加
    2005 年 87 巻 1 号 p. 80-84
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    地域の森林管理に資する今後の森林GISの発展方向として,森林計画情報システムそれ自体が改善される必要がある一方,森林計画情報以外の既存の地域の基礎情報について,森林管理のための利用可能性を検討することが求められる。本論文では,土地所有に関する地域の最も基礎的情報である地籍情報と森林計画情報との関係に焦点を当てた。まず森林簿上の地番の信頼性について検証した。その結果,森林簿上の地番は両情報のリンクを図る目的に利用するためには抜本的な修正が必要であると判断されたため,GISを用いて森林簿上の地番を修正する方法を考案した。併せて,そこから得られた結果を用いて,森林GISと地籍情報の相互利活用を図る方策について保安林台帳の利用例を通して検討した。
  • 小澤 創, 坂本 知己
    2005 年 87 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    内陸防風林を対象として,林帯の過密な状態を改善するために行われた2度の本数調整(本数率で20.5%と38.5%)が防風効果に与える影響を調査した。対象林帯は屋外活動の環境を保全することを目的としている。防風効果は風下における許容風速(人間が不快に感じない風速)以下の範囲で判断することとし,伐採前後の地上1.5mの平均風速を測定した。その結果,風上の風速が2.9m/s未満では20.5%や38.5%の伐採を行っても防風効果は維持されるかもしくは多少減少すると判断された。風上の風速が2.9m/s以上では防風効果は隣接する公園全体のほぼ7割に及んでいると判断された。これらのことから,調査対象林帯で行った林帯維持のための本数調整によって,防風効果は伐採前と同じか,もしくは大きく低下しないことが明らかになった。
  • 鈴木 和夫
    2005 年 87 巻 1 号 p. 90-102
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    生研機構「新技術•新分野創出のための基礎研究推進事業」として取り組まれた「森林生態系における共生関係の解明と共生機能の高度利用のための基礎研究」(平成8~12年度)の概要と,とくに学問的に関心の高い外生菌根菌マツタケに焦点をあてて論述した。まず,マツタケTricholoma matsutakeの識別として, rDNAのITS領域を用いて設計されたマツタケ特異的プライマーによって,マツタケ菌糸の有無を数mg以下の試料から確実に同定する方法を確立した。また,わが国のマツタケの多様性は, rDNAのIGS領域を用いて8タイプに分けられ, Aタイプが広範囲にわたって優占していた。ヨーロッパおよび北アフリカに分布するマツタケの近縁種T.nauseosumは分子生物学的には同種であることが否定できなかったが,今後,生物学的種の観点からの検討が必要である。「マツタケは外生菌根菌であるのか?」についての疑念は,形態的にも生理的にも典型的な外生菌根菌であることが,ハルティッヒネットの構造やATPaseの分布様式から示された。そして,マツタケ菌根の迅速人工合成法が確立され,マツタケ菌糸の親水性を高めて迅速な菌糸体の大量培養が可能となり,マツタケの人工シロの誘導が可能となった。
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