日本森林学会誌
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87 巻, 4 号
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  • 澤田 晴雄, 大久保 達弘, 梶 幹男, 大村 和也
    2005 年 87 巻 4 号 p. 293-303
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    秩父山地の山地帯天然林に配置した計6.875haの大面積プロットにおける胸高直径5cm以上(7,940本)の毎木データから,樹種個体群の空間分布特性およびその地形依存性について明らかにした。大面積プロットは樹種構成により四つの植生型に区分され,55の構成樹種は植生型ごとの胸高断面積合計から四つの種群に分けられた。それぞれの樹種の空間分布特性はCCA解析によると地形傾度に対応していた。一方,本調査区の主要樹種であるツガ,ブナ,イヌブナなどは安定した個体群維持を行っており,これら3種を主体とする各植生型は,長期間にわたり大きな撹乱がなかったこと,表層土の侵食と堆積が全域で起こっていること,乾湿傾度が地形条件によって変化していること等によって配列されたものであることが示唆された。さらにこれらの植生パターンの変化幅は標高に伴う地形傾度の程度により規定されていると考えられた。
  • 小山 敢, 三森 利昭, 落合 博貴, 奥村 武信, 本田 尚正
    2005 年 87 巻 4 号 p. 304-312
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    表層崩壊発生場の地盤特性を解明するために0.46haの試験地を設け,簡易貫入試験を169地点実施した後に深さ75cmをすべり面とする表層崩壊が発生した。すべり面は,Nc<1の土層とそれより下層のNc=2~3の境界面にあり,すべり面はNc=10程度でその深度からNc値が急増するという従来の報告とは異なる結果を示した。そこで,地表下50cm以深にNc<1が存在する層を表層崩壊発生に関与する土層として"脆弱層"と名付け詳細に検討した。脆弱層は遷急線下方にのみ存在し,その底面深度は70~80cmに存在する場合が多かった。試験地内には遷急線下方にのみ深さが77±6cmの15個の表層崩壊跡が存在し,それらが脆弱層を欠くことから,これら旧崩壊発生へも脆弱層の関与が示唆された。飽和定体積一面せん断試験によると,脆弱層の底面に相当する深度にせん断強さの急変域が存在した。
  • 福岡県八女地域を事例として
    能本 美穂, 吉本 敦, 柳原 宏和
    2005 年 87 巻 4 号 p. 313-322
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    本研究では,伐採直前のスギ人工林における立木状態での炭素貯留量を基準に,植林から製材までの一連の木材生産工程に関する炭素収支分析を行った。福岡県星野村村有林を調査対象とし分析した結果,対象プロットでの立木状態での炭素貯留量は201.53Ct/haとなり,次の丸太状態では100.92Ct/ha,さらに製材品状態では65.16Ct/haと貯留量が減少することがわかった。さらにエネルギー消費による炭素排出量を推定した結果,「植林•育林工程」では立木状態での炭素貯留量の0.13%,「素材生産工程」では0.39%,そして「製材工程」では3.85%に相当する炭素が排出されることがわかった。林地残材•製材廃材の炭素含有量は立木状態の炭素貯留量の67.66%に相当するが,仮にこれらをチップ燃料として利用すると,熱量換算でA重油5.13×104L/haの代替となり,その燃焼で発生する炭素量は立木状態の19.33%,チップ化工程での炭素排出量を考慮すると18.08%に相当する。
  • 初回間伐までの経過時間の比例危険率モデルによる分析
    藤掛 一郎
    2005 年 87 巻 4 号 p. 323-330
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    人工林における間伐遅れが我が国の森林管理における大きな問題となっている。本研究では,比例危険率モデルを用い,スギ人工林が補助間伐の対象となってから初回間伐が起こるまでの経過時間が従う確率分布と,実質立木価格がその確率分布に与える影響を推定することを目的とした。徳島県上那賀町水崎地区の1965年から1988年植栽の私有スギ人工林250haの1980年から1999年の20年間の間伐履歴を資料とした。分析の結果,次の2点が明らかになった。第一に,初回間伐が起こる確率は間伐対象となって7~8年をピークにその後は低下しており,その結果,かなりの割合の林分が未間伐のまま残る状態であった。第二に,初回間伐の実施には,立木価格を林業労賃で除した実質立木価格が影響していた。20年の間に,実質立木価格の下落とともに間伐が著しく低調になってきていると考えられた。
  • 京都府南部における風化花崗岩地域の場合
    玉井 幸治, 小南 裕志, 深山 貴文, 後藤 義明
    2005 年 87 巻 4 号 p. 331-339
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    複雑地形に位置することの多い日本の山地小流域において,土壌呼吸量の時系列データとその空間変動に関する研究はきわめて少ない。そこで山地小流域(1.6ha)において,96個のソイルカラーを対象に土壌呼吸量測定を行った。これらの観測値と地温,土壌水分の関係を地形部位の違いにもかかわらず一つの関数式で表すことができた。流域内の他に設置された264個のソイルカラーを対象とした観測値によってこの関数式を検証したところ,計算値との相対誤差は25%の精度で一致した。この関係式と流域内5カ所における地温,土壌含水率のモニタリングデータから,日単位での土壌呼吸量の時系列データを推定した。これら5地点における日土壌呼吸量の空間変動はほぼ同時に増減し,1年を通じて日平均土壌呼吸量に対して50~140%の範囲で推移した.
  • 志知 幸治, 橋本 徹, 三浦 覚, 相澤 州平, 池田 重人
    2005 年 87 巻 4 号 p. 340-350
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    東北地方内陸部の森林流域における渓流水質の特徴と,融雪期の水質形成要因を明らかにするため,姫神山試験地の渓流において水質調査を行った。姫神山試験地の渓流水の主要イオン濃度は全国平均と比べて低かった。水質は降水や融雪に伴う流量の変化に伴っておもに変化し,流量とpH,ECおよびNa+,Mg2+,Ca2+,HCO3-, Cl-,SiO2濃度との問には負の相関が,流量とNO3-とSO42-濃度との間には正の相関がみられた。融雪初期には,積雪から高濃度の溶存成分を含む融雪水が流出するために,Na+,Cl-,NO3-およびSO42-濃度は上昇した。一方,融雪最盛期から後期には,融雪初期に比べて低濃度の融雪水が付加されることによる希釈効果のため,降雨によるピーク流出と同様にNa+,Cl-およびSiO2濃度は低下した。しかし,これらの期間においても,流量の増加に伴うNO3-とSO42-濃度の上昇がみられた。その要因として,両イオンともに積雪からの流出と土壌表層からの溶出が考えられたが,両者の濃度変化過程からSO42-は前者の,NO3-は後者の寄与がより高いと推定した。
  • 能勢 美峰, 白石 進, 徳井 理恵子, 磯田 圭哉, 河崎 久男, 川崎 圭造
    2005 年 87 巻 4 号 p. 351-353
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    宮城県蔵王山系馬ノ神岳に遺存しているカラマツ(以下,ザオウカラマツ)と中部山岳地帯に広く分布しているカラマツ(Larix kaempfen;以下,ニホンカラマツ)を識別するためのDNA分子マーカーを開発した。ザオウカラマツおよびニホンカラマツのそれぞれに特異的に現れるRAPDフラグメントを単離し,そのSCAR化を行った。その結果,ニホンカラマツに高い特異性を示す3マーカーとザオウカラマツに高い特異性を示す2マーカーを得た。この5マーカーを同時に使用することにより,ザオウカラマツとニホンカラマツを識別(危険率:4.91×10-7 )することが可能になった。この5マーカーのうち識別能の高い3マーカーを用いることにより,より容易に識別(危険率:2.45×10-5 )ができる。
  • 鳥田 宏行
    2005 年 87 巻 4 号 p. 354-357
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    2004年2月22日から23日にかけて,北海道日高町では雨氷による森林被害が発生した。被害面積は約163haに達し,カラマツが被害面積全体の84%を占めた。本研究では,被害発生当時の気象状況を明らかにし,数量化1類によってカラマツ林の本数被害率と林況および地況との関係について解析を行った。22日から23日にかけての気象状況は,高度400mよりも上空では0°C以上の暖気層があった可能性が高く,これが標高の高いところでは雨氷害が発生しなかった理由と考えられる。斜面方位のスコアからは,北~北西の方位が高く,着氷後の風によって被害が拡大したことが示唆された。平均胸高直径のスコアからは,直径が25cmよりも大きくなると,被害が抑制される傾向が示された。
  • 芝 正己
    2005 年 87 巻 4 号 p. 358-363
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    FSCや相互承認を基本戦略とするPEFCによる森林認証•ラベリング制度が急速に展開してきた。本論では,国内に複数の認証スキームが並立している現状を踏まえて,最近の森林認証•ラベリング制度の動向と,NGO主導型の森林認証•ラベリング制度への行政•業界側からの対抗策として,北米やアジア太平洋地域の国々で提案整備されつつある森林収穫実行規約FHPCを照会対比させながらわが国での森林収穫作業への影響等を検討した。森林認証•ラベリング制度は,いわば"触媒:カタリスト"として,市場動向や消費者のニーズをもその連鎖に組み込んだ問題解決型のアプローチとしてその時代的役割を担うことが期待される。他方,森林管理•収穫実行規約は,このようなNGO主導型の第三者認証評価に対する行政•業界からの"倫理的"対抗策として位置づけることができる。両者の取り組みのベクトルは異なっているかのようにみえるが,持続可能な森林管理SFMの実現という到達点は同じであろう。環境方針,企業的管理計画,考えうる最良技術の導入,自己監査,継続的改善責務など共通の要求を両者は前提とするからである。
  • 韓 慶民
    2005 年 87 巻 4 号 p. 364-372
    発行日: 2005/08/01
    公開日: 2008/05/22
    ジャーナル フリー
    地球規模の炭素循環過程における森林が果たす役割の評価においてリモートセンシング技術の活用が期待されている。近年,高分解能の超多波長連続分光計が開発されたことが契機となり,環境要因の変化に対する光合成活性を植生の分光反射特性によって捉えることで,光合成生産プロセスがマルチスケールで推定できるようになってきた。本稿では,植生分光反射特性に関連するキサントフィルサイクルや水一水サイクルなどの光合成防御機能について概説するとともに,正規化植生指数,植物水分状態指数および光化学反射指数を紹介し,その生理生態学的意義を検討した。また,これら分光反射指数を用いて,個葉からランドスケープスケールに至る光合成生産の時空間変化の推定について考察した。
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