日本森林学会誌
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88 巻, 2 号
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論文
  • 長濱 孝行, 近藤 洋史
    2006 年 88 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    鹿児島県民有林を対象として長伐期施業に対応したスギ人工林の収穫予測を行うために, 林分密度管理図, 地位に関する曲線, 収穫表を調製した。林分密度管理図では, 最多密度曲線の傾きを含めた各種曲線式を調製し, その精度は向上したと考えられる。地位に関する曲線にはMitscherlich関数を適用し, 地位を3区分した。地位別に決定した主林木平均樹高と林分密度管理図を構成する関数式を用いて収穫表の林分構成因子を算出した。これにより, 林分密度管理図, 地位に関する曲線, 収穫表の相互関係が確立された。本研究による収穫予測結果から, 少なくとも, 現実林分の林分構成因子の数値は, 既存資料と比較して大きくなると考えられた。本県のスギ人工林管理において, これら収穫予測資料等の見直しは長伐期化傾向も踏まえて重要課題になっている。本研究で得られた成果は本県林業技術関係者が長伐期施業を推進していく上で, 有効な資料になると考えられる。
  • 宮本 基杖
    2006 年 88 巻 2 号 p. 79-86
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    本稿では, インドネシアにおける森林の農地転換の中でも小規模農家の代表的樹木作物であるゴムへの転換を取り上げ, 森林消失が地域住民の貧困を悪化させるかについて検討した。スマトラ島ジャンビ州のゴム栽培農村4村における160世帯の調査結果をもとに, まず熱帯林のゴム転換とゴム園所有規模の格差との関係を明らかにし, 次にゴム園所有格差が拡大する要因として土地取得方法と土地売買の影響を考察した。その結果, 1) ゴム園所有面積のローレンツ曲線から, 森林転換が進行した村ほどゴム園所有規模の格差が大きく, 森林消失後も格差が拡大することが示された。2) 森林が残る間は森林伐開がおもな土地取得方法であるものの, 森林転換の進行に伴い購入や相続による規模拡大が進展した。3) 森林が消失した村では土地売買を通して村人の土地がゴム仲買人へと移動集積し, その結果, 突出した大規模所有者が誕生する一方で零細化する世帯が増加して土地所有の不平等性が拡大した。
  • 嶋瀬 拓也, 立花 敏
    2006 年 88 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    国内製材業の製品出荷を対象として, 「木材輸送量・距離 (ウッド・マイレージ)」を算出し, 変化動向の分析と変化要因の検討を行った。その結果, 以下の点が明らかになった。1) 平均輸送距離は, 1962年から1980年にかけて縮小し, 1980年から2002年にかけて拡大した。2) 1980年以降, 出荷量が多い県ほど遠くに出荷する傾向が顕著に強まっている。3) 県ごとの平均輸送距離のばらつきは, 1962年から1980年にかけて平準化の方向にあったが, それ以降は再び拡散している。4) 平均輸送距離の変化には, 素材・製品市場の構造変化と, それに伴う製材業の生産力配置の変化が強く影響していると考えられる。このため, 木材輸送量・距離の分析は, 木材市場や加工・流通主体の動向に注目しつつ行うことが重要である。
  • 早尻 正宏, 林 大輔
    2006 年 88 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    いま森林・林業系高等学校の学科再編が相次いでいるが, その将来のあり方を議論するには, 卒業生の進路動向や現役生徒の意識, 企業の雇用状況などの実態把握が不可欠である。本稿では北海道の森林・林業系学科3校を対象に, 卒業生の進路動向を把握し, アンケート調査で学校生活に対する生徒意識を明らかにした。また専門教育と企業内教育の連携について森林組合で聞き取り調査をした。その結果, 1) 同学科の森林管理の中堅技術者を養成する役割は低下し, 専門学校進学者が増加している, 2) 進路希望先として森林関連の職業を挙げる生徒とそのほかの生徒では, 前者の学習意欲は高く, 後者のそれは低い傾向にある, 3) 専門教育と企業内教育は専門性をめぐりある程度結びついている―ことが明らかになった。進路動向と学習態度をめぐる生徒の多様性は, 同学科の教育目標の設定を難しくしている。同学科はいま, 多様な進路希望に対応しなければならない一方, 職業教育を発展させるという困難な課題に直面している。
  • 都築 勇人, 日下部 朝子, 末田 達彦
    2006 年 88 巻 2 号 p. 103-113
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    カナダ西部の亜寒帯林を南北に縦断する600kmのトランセクトを対象に航空レーザー測距を実施して森林の縦断プロフィールを得たうえ, 航跡直下の47林分で林分蓄積を実測するとともに, アロメトリー理論に基づき縦断プロフィール面積の一次関数として蓄積を表す関係式を新たに構築した。この蓄積式の有効性を上記実測値で検証したところ, プロフィール面積に対する蓄積の回帰の決定係数は0.74ときわめて有意であった。実測林分の半数で決定したプロフィール面積に対する蓄積の回帰により推定した蓄積を残り半分の実測蓄積と交互に照合したところ, 推定値と実測値の食い違いが0.9~4.5%に収まり, 蓄積式の適用性につき満足すべき結果が得られた。最後に47林分すべてを用いて回帰式を決定し, トランセクト全長にわたる森林蓄積の分布を推定したところ, 蓄積は平均136m3/haで, 最大値はトランセクトの中央より南側に現れ, 北の亜寒帯林側へは徐々に, 南のプレーリー側へは急激に落ち込むという偏った形をしていることが明らかになった。
  • 宮下 智弘, 向田 稔, 河崎 久男
    2006 年 88 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    スギの雪圧害抵抗性の遺伝特性を研究するため, 雪圧害に対する抵抗性個体と感受性個体を用いて要因交配を行った。得られた人工交配家系を検定林に植栽し, 林齢が10年次に達した2000年に調査を行った結果, 感受性個体を親とする家系の傾幹幅は大きく, 特に雌親として感受性を用いた半兄弟家系では, 雄親に関わらず全ての家系で傾幹幅の平均値が100cm以上となった。傾幹幅については雌親間に有意差が認められたが, 雄親間には認められなかった。傾幹幅における狭義の遺伝率は0.96と高い値を示した。調査対象とした全個体から, さらに優秀な個体を選抜したときの遺伝獲得量を試算した。その結果, 傾幹幅の遺伝獲得量は約60cmとなり, 雪圧害に対する育種の効果は大きいことが期待された。
短報
  • 檀浦 正子, 鈴木 麻友美, 小南 裕志, 後藤 義明, 金澤 洋一
    2006 年 88 巻 2 号 p. 120-125
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    2種類の方法を併用して根の現存量・表面積を推定した。直径5mm以上の根には全木掘り上げ法を用い, 風倒木1本を含む16本の根系を掘り取り乾燥重量の測定および詳細な直径の計測を行った。直径により3階級に分け, おのおのの根重量・根表面積と地際直径との相対成長関係式を作成し, 1999年の毎木調査で得られた地際直径に適用した。直径5mm未満の根には土壌ブロックサンプリング法を用い, 採取した根を直径により2階級に分け乾燥重量を測定した。直径2mm以下の根の表面積測定には画像解析を適用した。本試験地の根現存量は23.41t ha-1, TR比は4.36と計算された。また根表面積は3.50m2m-2であり, その75%を直径2mm以下の細根が占めていた。
  • 水谷 完治
    2006 年 88 巻 2 号 p. 126-130
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    荒廃地における樹林化手法の開発のため, 緑化資材として粘土団子種子を用いた試験を足尾松木沢で行った。6種類の木本類を用いた播種粒数密度200粒/m2および60粒/m2では, クロマツとアカマツ合計の播種粒数密度に対する3年目の成立本数密度の割合がそれぞれ2.5%および3.7%, 成立本数密度は0.192本/m2および0.085本/m2であった。樹林化のための目安として植栽本数密度の基準を参考にし, 3年目の成立本数密度を0.4~1.2本/m2とすると, 木本類をクロマツとアカマツのみとした播種粒数密度60~200粒/m2程度で, 目安の成立本数密度に達すると試算でき, 従来の播種工よりかなり少ない播種粒数密度での樹林化の可能性を提示できた。
総説
  • 安藤 正規, 柴田 叡弌
    2006 年 88 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2006/04/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    本総説において, シカ類による樹木剥皮発生の特徴とシカ類が剥皮を行う要因について総合的に検討した。シカ類は剥皮をする際に樹種を選択しており, この選択性は森林の樹木構成に影響を与えていた。世界中の多くの研究報告においては, シカ類による剥皮は冬季の餌不足が原因であるとされていた。一方, いくつかの研究報告においては冬以外の季節に発生する剥皮について, 実験的な証明はないものの, ルーメン胃内環境の適正化を目的として樹皮を採食しているという可能性が示唆されていた。今後この点について明らかにしていくためには, 飼育シカ類を用いた実験研究および野生シカ類のルーメン胃内環境の詳細な調査が不可欠である。また, 「シカ類が反芻動物としての消化生理をもつ」という視点をもつことは, シカ類の採食生態を研究していく上で新たな発想を与えてくれるであろう。
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