日本森林学会誌
Online ISSN : 1882-398X
Print ISSN : 1349-8509
ISSN-L : 1349-8509
88 巻, 4 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
論文
  • ―各務原市の林野火災を例として―
    小泉 俊雄, 竹渕 将人
    2006 年 88 巻 4 号 p. 211-220
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    林野火災の延焼には風と地形が大きく関係する。特に, 風向によって主延焼方向が変化するため, 延焼区域を予測するにあたっては風向と地形の関係は重要である。本論文は, 2002年4月に発生した岐阜県各務原市での林野火災をおもな事例として解析を行った。解析の考え方は, 風に影響を及ぼすと考えられる地形要素を用いて対象とする地域の地形分類図を作成すれば, この地形分類図は, その地域の風力の分布を表現する風力分布図を示すことになる。したがって, 風力分布図より風の流れの様子がわかり, それにより火災の延焼区域が予測できるはずであるというものである。本論文はこの考え方にしたがって解析し, 林野火災の延焼に及ぼすおもな地形要素は, 「地形の形状」, すなわち, 険しい地形か, なだらかな地形かを表現する地形要素と, 「地形が傾斜している方向を表現する地形要素」であることを提示した。また, 風向が変化した場合の地形の効果 (すなわち, 風向と地形の複合影響) を定め, それに基づき解析を行った。その結果, 風向は延焼区域を予測する際の大きな要素であり, 風向の変化に応じて予測することが火災の延焼区域予測においては重要であることを実証した。
  • 藤野 正也, 吉田 昌之
    2006 年 88 巻 4 号 p. 221-230
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    林業には多様な要因が影響を及ぼすとされており, 林家の林業活動を研究する際には, 地域的差異を考慮し, できる限り同質的な地域に分類した上, サンプリングを行う必要がある。本稿は, 地域分類の方法として, 単独の手法を用いるのではなく, 自己組織化マップ (SOM) アルゴリズムに主成分分析とWard法によるクラスター分析を併用したより客観的な総合的分類方法を考案し, 本方法の有効性を検証するため, 林家の林業活動に関する現実のデータを用いて地域分類を行い, その結果を提示した。地域分類にSOMアルゴリズムを適用したことにより, 分類結果の視角化が容易となり, 直感的に分類結果を理解することが可能となった。また, 変数として, 林業活動に関わる現況だけではなく, 動態をも採用したことで, より実情を捉えた分類が可能となった。分析の結果, 全国は5地域に分類しうるとみなすことができることが判明した。本方法は, データ収集さえ可能であれば, 種々の地域分類に応用が可能であると考える。
  • 深田 英久, 渡辺 直史, 梶原 規弘, 塚本 次郎
    2006 年 88 巻 4 号 p. 231-239
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    林分密度管理をヒノキ人工林における土壌保全目的での下層植生管理に応用するために, 高知県下のヒノキ人工林に28の調査プロットを設け, 下層植生に対する強度間伐の影響と, 通常の管理下での下層植生の動態を調べた。強度間伐試験地では設定後2~3年間の収量比数 (Ry) の推移と2~3年後の植被率を調べた。通常施業試験地では設定時を0年次として, 0, 5, 10~13年次のRyと植被率を調べた。その際, 調査プロットの海抜高 (温量指数) に基づいて三つの温度域 (ウラジロ・コシダ域, カシ域, 落葉樹域) を区別し, 植被率を6段階評価した被度指数を土壌侵食抑制効果と光要求度の異なる六つの生活型 (ウラジロ・コシダ, 陽性草本, 林床草本・地表植物, 常緑木本, 落葉木本, ササ) のおのおのについて別個に求めた。強度間伐が被度指数に及ぼす影響は生活型によって異なった。また, 同じ生活型でも温度域によって異なる反応を示すものがあった。通常施業試験地では調査期間を前期 (0→5年次) と後期 (5→10~13年次) に分け, 期間ごとに求めた各生活型の被度指数の期間変化量 (dC) とRyの期間累積偏差 (ΣdRy×100) との関係を調べた。両者の関係には生活型間での差や, 温度域間での差が認められた。また, 生活型別の被度指数の合計値が40未満の林分 (貧植生型林分) と40以上の林分を区別すると, dC とΣdRy×100との関係が両林分間で異なっていた。以上の結果に基づいて, 生活型, 温度域, 貧植生型林分か否か, を区別してRy-植被率関係のデータを集積することにより, 下層植生管理を目的とした密度管理モデルの実用性が高められることを指摘した。
  • 川口 エリ子
    2006 年 88 巻 4 号 p. 240-244
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツノザイセンチュウ抵抗性家系 (波方ク-73号, 以下波方73) と非選抜のクロマツ当年生枝から作製した長さ10cmの切り枝にマツノザイセンチュウ (以下, 線虫) を接種し, 3日後に切り枝を通過した線虫数と切り枝内での線虫の分布を調べた。また, 切り枝の皮層樹脂道の数と断面積を測定した。波方73よりも非選抜マツの方が, 皮層樹脂道の平均断面積や断面積合計は大きかった。波方73では非選抜マツよりも線虫の移動が抑制されており, 接種3日後には非選抜マツでは半数近くの線虫が切り枝を通過していたのに対し, 波方73では, 多くの線虫が接種部位付近に留まっていた。非選抜マツでは, 皮層樹脂道の断面積合計が大きい切り枝ほど, 通過した線虫数が多かった。これらの結果から, 皮層樹脂道の量的形質は線虫の移動に影響を与えており, 量的形質の指標となる樹脂道断面積合計によりクロマツの抵抗性のレベルを表現できる可能性が示唆された。
  • 宮田 大輔, 鈴木 保志, 後藤 純一
    2006 年 88 巻 4 号 p. 245-253
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    チップなどの木質バイオマス燃料として丸太形態の林地残材を利用する場合を想定し, 丸太形状のヒノキ残材の自然乾燥実験を行った。場所を標高が高い林内の林道端 (林道沿いの空き地) と標高の低い平地にある舗装土場とし, それぞれ日当たりの良いところと悪いところに残材を積み上げて約3カ月間自然乾燥させた。供試残材から採取した円盤の平均含水率は, 林道端では乾燥期間中有意な変化は認められなかったが, 舗装土場では3カ月間で82%から38%に低下した。日当たり別では有意な差はなく, 地面と接触している状態の残材は上層に積まれたものより約10%含水率が高かった。9月から12月の実験期間中観測した温湿度は, 林道端が舗装土場より約7℃気温が低く約20%湿度が高かった。土と舗装という地面の差は分散分析における交互作用の分析結果からは明確でなく, 場所による温湿度の差が主要な乾燥条件の差であったと考えられる。
  • ―東京大学千葉演習林を事例として―
    広嶋 卓也, 伊藤 奈々恵, 山本 博一, 米道 学, 高徳 佳絵
    2006 年 88 巻 4 号 p. 254-263
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    本論ではパイプモデル理論を応用して広葉樹の幹と枝を束ねた相対幹曲線を求め, これを利用して広葉樹の2変数全木材積表を調製した。まず東京大学千葉演習林における二つのアカガシ・スダジイ林分を対象に98本の試料木を採取し, 地際から主幹または枝に沿って同一の長さにおける主幹・枝直径の2乗和の平方根を一定間隔で求め, 相対幹曲線をあてはめた。その結果, いずれの試料木に対しても相対幹曲線はよく適合し, これまでおもに針葉樹の樹幹に対して用いられてきた相対幹曲線は, 広葉樹の全木に対しても適用可能であることが示唆された。最後に同一の林分・樹種からなる55本の試料木より平均相対幹曲線を求めて材積表を調製し, これを異なる林分・樹種に適用した際の正確度・精度を, 材積式を用いる従来の方法で調製した材積表と比較した。その結果, 相対幹曲線から調製した材積表は, 材積式から調製したものと比して正確度では劣るものの, 精度は概ね同等であることがわかった。
  • 村瀬 啓子, 山田 容三
    2006 年 88 巻 4 号 p. 264-273
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    既往の研究から明らかになっている段階的OffJTとOJTを組み合わせるという林業技能者養成システムの枠組みを土台に, 本研究では林業技能者の技術習得過程に合わせて着実に技術レベルのステップアップを図る養成システムの提案を目標としている。本論文では林業技能者の知識・技術の習得の実態を明らかにすることを目的としてアンケート調査を実施し, OffJTで習得する知識・技術とOJTで習得する知識・技術の分類や林業技能者が実際に知識・技術を習得していく過程の解明等を行った。その結果, OffJTは基礎中心, OJTはその実践と応用という役割分担の構図が浮かび上がり, 指導はおよそ3年のうちに造林作業中心の内容から林産作業中心の内容という流れで行われていることが明らかになった。また, 回答者を取り巻く諸事情が結果に与えている影響について考察したところ, 機械の保有台数の多少により指導を行うタイミングに有意な差があることが確認され, 林業事情に合わせた養成システムの提案を行った。
  • 赤石 大輔, 鎌田 直人, 中村 浩二
    2006 年 88 巻 4 号 p. 274-278
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    中部日本のコナラ・アベマキ二次林でのカシノナガキクイムシの初期加害状況を調査した。調査ルート内のコナラとアベマキの総本数は646本と645本で, 穿入を受けたコナラとアベマキは43本と49本であった。穿入木の分布は斜面よりも尾根により集中していた。両樹種とも胸高直径15cm以下のものには穿入孔はみられず, ロジスティック回帰の結果, 胸高直径が大きくなるほど, 穿入木の割合が高くなる傾向が認められ, また, コナラがより多く穿入される傾向が認められた。両樹種とも穿入木の樹液の滲出率が非穿入木よりも有意に高かった。本調査地のようにコナラ・アベマキが優占する場合には, 枯死する樹木は少ない。その原因の一つとして, 寄生を受けた多くの樹木が樹液を滲出させることが関係しているものと考えられた。枯死率は低いが, 高地ミズナラ林からのカシナガの避難場所となる可能性が示唆された。
  • 小池 伸介, 葛西 真輔, 後藤 優介, 山崎 晃司, 古林 賢恒
    2006 年 88 巻 4 号 p. 279-285
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    ツキノワグマの糞に飛来する食糞性コガネムシ (以下糞虫) を山梨県芦川村および東京都奥多摩町で調査した。18種が確認された。いずれも広域に分布し, 他の動物の糞でも確認されている種であった。種により季節消長は異なり, 5種は春から秋にかけて成虫が出現したが, 13種は特定の季節のみ成虫の出現が確認された。日周消長は, トラップで採集された10種のうち5種は昼間中心に, 4種は夜間中心に飛来する種, 1種は季節的に活動時間帯が変化する種であった。糞虫の活動場所は, 8種はdwellerで, 糞の表面および糞の内部でのみ確認された。10種はtunnellerで, 糞下部の土壌内からも糞とともに確認された。Tunnellerは, 産卵期以外も, 糞とともに土壌内から確認された。ツキノワグマの糞に数多く飛来した, コブマルエンマコガネ, クロマルエンマコガネ, マエカドコエンマコガネはいずれも, 昼間中心に飛来し, tunnellerタイプの糞虫であった。
短報
総説
  • 石井 弘明, 吉村 謙一, 音田 高志
    2006 年 88 巻 4 号 p. 290-301
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    樹形は光資源の獲得, 成長・繁殖器官の配置, 水分・栄養塩の輸送など樹木にとって重要な生理・生態的機能をもつと同時に, 空間獲得, 耐陰性, 繁殖量など樹木の生活史戦略や群落内における個体の生存, 適応度を反映している。樹形研究は生理学や形態学などの下位スケールの研究と森林群落の動態や生態系の生産性などの上位スケールの研究を結ぶ役割を果たす。樹形は光合成産物や水分・栄養塩, 植物ホルモンの輸送経路として個体内におけるモジュール (樹木の基本構成単位) の階層性を決定する。個葉や当年枝レベルで測定された生理パラメータを個体レベルに統合するには樹形の解析が不可欠である。一方, 群落を構成する個々の樹木の挙動から群落動態を明らかにするには, 個体の「時空間的優占度」やそれを規定する「潜在力」などの概念を樹形の解析を通して定量化する必要がある。今後は, 葉や当年枝などの形態的モジュール単位に加えて, 生理的な相互作用や樹冠の発達を担うシュート集団などの機能的モジュール単位の解明と動態解析が必要となる。
  • 平井 敬三, 阪田 匡司, 森下 智陽, 高橋 正通
    2006 年 88 巻 4 号 p. 302-311
    発行日: 2006/08/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    日本の代表的な造林樹種であるスギ林の養分循環に及ぼす森林管理や今後の環境変動の影響を予測する上で, 土壌の窒素無機化特性に関する知見は重要である。本総説は近年のスギ林土壌の窒素無機化に関する研究を解説するとともに, 今後の研究展開について検討した。まず, 窒素無機化の評価法と問題点について論述し, これまで得られた研究成果をもとに窒素無機化に及ぼす要因を検討した。次に既存文献および著者らのデータから室内培養によるスギ林の窒素無機化速度と無機化率および硝化率の平均値を求めた。4週間の室内培養による無機化速度は93.7mg kg-1, 無機化率は1.3%, 硝化率は70%であった。今後の研究として, トレーサーを利用した現地での窒素動態の追跡や樹木根系による有機態窒素の直接吸収と細根の栄養生理との相互関係に関する研究の進展が望まれる。さらに, 温暖化や窒素飽和など環境変動や施業による土壌窒素動態の解明のため, 物質循環に関する総合的な研究の必要性を提起した。
feedback
Top