日本森林学会誌
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89 巻, 1 号
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論文
  • 中井 亜理沙, 木佐貫 博光
    2007 年 89 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    水際からの比高に応じて異なる砂礫堆の浸水時間と基質の粒径組成がネコヤナギ実生の成長に及ぼす影響を解明するために,当年生実生の樹高,根の深さ,乾重,地上部と地下部の乾重比を宮川沿いの砂礫堆における複数の比高間で比較した。浸水時間が生育期間の半分以上を占めた低い比高の実生の乾重が小さかったことは,長い浸水時間が実生の成長を抑制することを示唆する。出水時の撹乱もまた低比高の実生の成長を抑制していた。浸水時間が数日間だけで短かった高い比高の実生は,高い樹高,深い根の深さ,重い乾重,低いTR率(地上部/地下部)を示した。高比高の基質は,細かな粒径の砂が占める割合が低比高の基質よりも高かったことから,保水性が高いと考えられる。高い比高の実生は,低い比高の実生よりも地下部への資源配分割合が大きいこととより深い根を持つため,基質の水分不足に耐えることができると推察された。比高ごとに異なる浸水時間,基質の粒径組成および撹乱は,ネコヤナギ実生の成長に影響すると推定された。
  • 松井 哲哉, 田中 信行, 八木橋 勉
    2007 年 89 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    温暖化した2100年における白神山地のブナ林の分布適域を,分類樹モデルと二つの気候変化シナリオ(RCM20とCCSR/NIES)によって予測し,ブナ林の将来変化について考察した。4気候変数と5土地変数を用いたブナ林の分布予測モデルENVIによると,白神山地地域のブナ林の分布は冬期降水量(PRW)と暖かさの指数(WI)で制限されている。二つの気候変化シナリオのPRWは将来も変化が少ないので,将来ブナ林分布へ影響を与える主要因はWIである。分布確率0.5以上の分布適域は,現在の気候下では世界遺産地域の95.4%を占めるが,2100年にはRCM20シナリオで0.6%に減少し,CCSR/NIESシナリオでは消滅する。ブナ優占林の分布下限のWI 85.3に相当する標高は,現在は43 mだが,RCM20シナリオでは588 m,CCSR/NIESシナリオでは909 mに上昇する。現地調査と文献情報にもとづいて求めたブナ林の垂直分布域は,標高260~1,070 mであった。施業管理計画図によると自然遺産地域の約8割が林齢150~200年生であるので,2100年には多くのブナが壮齢期から老齢期を迎える。温度上昇により,ブナ林下限域から,ブナの死亡後にミズナラやコナラなどの落葉広葉樹が成長し,ブナの分布密度の低下が進行する可能性がある。
  • 長谷川 幹夫, 平 英彰, 吉田 俊也
    2007 年 89 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    積雪寒冷地のスギ不成績造林地の修復を目的に当地の極相種であるブナを植栽した林分において,下刈り期間を変えた試験区(10年間継続した部分を下刈り区,3年間で中止した部分を放置区とする)を設定し,処理の違いが植栽木と侵入した広葉樹の消長に与える影響を検討した。ブナは放置区では侵入木等によって庇陰されていたが,その死亡率は下刈り区より低かった。植栽後8年を経たブナの胸高直径,樹冠直径は下刈り区で大きく,樹高は放置区で大きかった。ブナの雪圧による被害率は下刈り区で高かった。侵入木についてみると下刈り区では萌芽力の小さいウダイカンバ,ダケカンバは試験期間中に消失したが,萌芽力の大きいウワミズザクラは下層で生存していた。放置区では植栽木に侵入木などが加わって林冠が閉鎖し,階層構造を形成していた。このような修復施業では,下刈り期間を短縮することで,植栽木と侵入広葉樹が混交する周辺の自然植生に近い森林を育成できると考えられた。
  • 中島 徹, 白石 則彦
    2007 年 89 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    伊勢神宮宮域林は20年ごとに神宮すべてを新造する式年遷宮に対し,木材を自給することを計画している。本研究では,システム収穫表をこの宮域林に適用し,持続可能かつ大径材生産に適した間伐計画を提案することを目的とした。システム収穫表には,Local Yield Table Construction System (LYCS) を使用し,伊勢神宮宮域林育林工程表と紀州地方ひのき林林分収穫表から成長モデルのパラメータを推定した。さらに,そのパラメータを用いたモデルを,35年生から100年生にかけて適用したところ,宮域林の平均樹高,平均胸高直径の成長の推移とよく適合した。これによって,低密度,長伐期施業という宮域林独自の施業体系において,多様な間伐計画に対応した収穫表の調製が可能となった。最後に,優良大径木生産に労働力・コスト削減を考慮に入れた間伐計画を策定し,この計画によって20年ごとの式年遷宮に大径材が持続的に供給可能であることがわかった。
  • 吉井 エリ, 平 英彰
    2007 年 89 巻 1 号 p. 26-30
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    新潟県内で選抜したスギ雄性不稔個体(新大1号,新大5号)の小胞子形成過程と遺伝様式を明らかにするとともに,富山不稔個体(富山MS)との差異について検討した。新大1号,新大5号の雄花および針葉の形態は正常個体と同じであった。しかし,形成された小胞子は,どちらも正常に発達せず,収縮して互いに癒着し,花粉飛散期には塊状となった。新大1号,新大5号の小胞子の退化過程はそれぞれ異なるとともに,小胞子が膨張し退化する富山MSとも異なった。新大1号,新大5号のF1苗は全て正常な花粉を形成したが,F2苗では正常個体と不稔個体が3:1に分離した。新大1号の戻し交配苗では,正常個体と不稔個体が1:1に分離した。また,新大1号と富山MSのF1および,新大5号と富山MSのF1,および新大5号と新大1号のF1との交配によって得られた苗のすべてが,正常な花粉を形成した。このことから,新大1号,新大5号,富山MSは,それぞれ異なる一対の核内劣性遺伝子に支配された雄性不稔性であると判断された。
  • —森林資源予測モデルを用いた愛媛県久万町での検証—
    松本 美香, 泉 英二, 藤原 三夫
    2007 年 89 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    持続可能な森林経営の実現には,量的に安定した木材供給が可能な森林への移行が必要不可欠である。本論では,そのための森林施業方式について,法正林誘導と伐期変更の二つを想定して検証した。対象地は愛媛県久万町の民有スギ林とし,森林資源予測モデルを用いて森林蓄積量および素材生産量の経年変化を推計し,それらの結果を比較した。モデルは森林を林分群として捉えて林分密度管理図を用いて構成しており,想定した施業下での森林推移を予測する。施業シナリオは,対象森林の齢級構成を法正配置へ誘導する場合としない場合の2方針のもとで,伐期の異なる2施業(50年伐期,100年伐期)を実施する,4シナリオを設定した。検証の結果,木材の安定供給を図る上で,法正林誘導の高い有効性と,伐期変更の影響の少なさが明らかになった。以上から,今後の久万町民有スギ林の取扱いにおいては,法正林誘導を基本に,森林蓄積量や素材生産量などの目標値は伐期で調整する方針を選択すべきと考えられる。
  • 鳥田 宏行, 武田 一夫
    2007 年 89 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    森林の雨氷害を軽減する知見を得るため,2004年2月に北海道日高町で発生した雨氷害の調査データを解析したところ,直径階ごとの本数被害率の分布形状は,大きく五つのタイプ((1)中庸木に被害が多い,(2)劣勢木に被害が多い,(3)優勢木に被害が多い,(4)立木のサイズに関係なく被害率の変動が激しい,(5)直径階の大小に関わりなく被害率が一定)に分類された。分布形状に差異がみられるのは,風や着氷量などの気象因子が少なからず影響したためだと推察される。また,密度管理図上で軽害林分と激害林分間の判別分析を行った結果,的中率は75%であった。判別分析で得られた判別式と収量比数0.9線を用いて安全域と危険域の境界線を描き,被害軽減が期待できる範囲を密度管理図上に示した。次に,林分平均樹高との限界形状比の関係をロジスチック式で近似して限界形状比曲線を求めたところ,生育段階で限界形状比は異なることが示された。これらの結果は,森林の雨氷害を軽減するためには,植栽密度に沿った適切な間伐が重要であることを示唆している。
  • 中村 仁, 林田 光祐
    2007 年 89 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    林床に散布されたカスミザクラ種子を吸汁し,それによって種子の腐敗を引き起こしているツチカメムシの繁殖期の生態を調べた。実験室でツチカメムシの飼育を行ったところ,種子を土の中に1 cm程度埋める貯蔵行動が認められ,貯蔵した後に吸汁を行うことが明らかになった。ツチカメムシの1齢幼虫に吸汁された種子でも腐敗し,1頭の1齢幼虫に1個のカスミザクラ種子を与えた場合,43%の個体が成虫まで生存した。また,カスミザクラの散布時期である6月中旬∼7月中旬にカスミザクラ樹冠下で活発に活動しており,7月下旬∼8月下旬に幼虫も認められた。以上より,ツチカメムシはカスミザクラ樹冠下で繁殖しており,カスミザクラの種子の重要な種子捕食者であると推察される。また,調査地で採集された8種の種子をツチカメムシに与えたところ,6種の種子で吸汁が認められ,カスミザクラ以外の種についても,散布後の種子の腐敗を引き起こしている可能性がある。
  • —堅果捕食に対する積雪の保護効果の検証—
    石井 健, 小山 浩正, 高橋 教夫
    2007 年 89 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    ブナ林の組成は日本海側と太平洋側で大きく異なり,稚樹バンクは前者においてより発達しやすい。この理由として,日本海側では積雪が野ネズミによる捕食から堅果を保護していると考えた。そこで,春先に消雪速度の異なる母樹の根元付近と根元から離れた場所において,消雪過程と稚樹の分布,および播種試験による堅果の持ち去り程度を観察した。根元周辺の消雪は他の場所よりも1ヵ月近く早かった。これに応じて,実生は根元周辺で少なく,離れた場所で多かった。野ネズミによる堅果の持ち去りも,根元周辺で多く発生し,残存数は離れた場所と有意な差が認められた。したがって,根元で稚樹が少ないのは,消雪が早いことで春先に堅果捕食が多くなったためと推察された。このことは,積雪は野ネズミの捕食から堅果を保護することで,ブナの更新に有利に働いていることを示唆している。したがって,日本海側でブナの更新が良好なことも,積雪の保護効果が一因ではないかと考えられる。
  • 江崎 功二郎
    2007 年 89 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    多種の広葉樹に被害を与えているクワカミキリの成虫駆除にフェニトロチオン乳剤の散布が有効であることを明らかにするために,フェニトロチオン4.4%乳剤を成虫の発生直前およびその3週間後に野外のエノキの枝条に散布した。その結果,発生時期を通じてクワカミキリ成虫を殺虫することができた。さらに,野外でフェニトロチオン0.44%乳剤を1回散布したエノキの枝条と3週間隔で2回散布した枝条を成虫に与えて飼育した結果,1回散布では散布4週間後まで,2回散布では2回目散布6週後までの枝条で飼育した全ての成虫が,飼育開始後3日以内に死亡した。これらの結果から,フェニトロチオン乳剤の散布はクワカミキリ成虫の駆除に有効で,フェニトロチオン0.44%乳剤を後食木に2回散布すると,9週間にわたり高い殺虫効果を維持できることが明らかになった。
短報
  • L関数を用いた定量的解析
    鈴木 大智, 石井 弘明, 金澤 洋一
    2007 年 89 巻 1 号 p. 66-70
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    大径材生産を目標とした長伐期施業の事例として比叡山延暦寺所有の90年生ヒノキ林を対象に,間伐に伴う立木配置の変遷をL関数を用いて解析した。過去2回の間伐によって最短の隣接木間隔は0.15 mから1.91 mまで増加し,立木配置がより規則的な一定間隔分布へと変遷した。立木配置の変化は前回間伐時に利用間伐を施した斜面中部において最も顕著であった。過去2回の間伐によって立木の生育空間が確保されたものの,強度の間伐によって林分成長量が減少している可能性が示唆された。空間統計学を応用した立木配置と林分成長量の定量的解析から,高齢林における体系的な長伐期施業法を確立することが期待される。
  • 田村 典子, 相京 千香, 片岡 友美
    2007 年 89 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/10
    ジャーナル フリー
    山梨県富士北麓標高約1,050 mの溶岩台地に生育するアカマツ林において,2003年6月から2005年8月まで,43 haの区域でニホンリスの捕獲を行った。また,同調査地の林床で,リスによって食べられたアカマツ球果の食痕数を毎月数えた。生息個体数と落下食痕数には有意な正の相関が認められ,食痕数によってリスの生息個体数の相対評価が可能であることがわかった。そこで,富士山北麓1,500 haの範囲内のアカマツ林において,30箇所の植生調査用の方形区を設置し,植生と食痕数の調査を行った。その結果,食痕数が多い方形区には,アカマツ林の中層を構成する樹種が多く,特に中層にソヨゴなどの常緑樹が多いことが明らかになった。ニホンリスにとって,中層の発達したアカマツ林がより好適な生息環境であると考えられる。
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