日本森林学会誌
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89 巻, 2 号
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論文
  • 富元 雅史, 曽根 晃一, 畑 邦彦, 樋口 俊男, 岡部 武治
    2007 年 89 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    南九州でのBeauveria bassiana培養シート型不織布製剤 (不織布) によるマツノマダラカミキリ成虫防除の有効性を確かめるため,2003年5月に野外での防除を想定して約1m3の被害材を野外の網室内に集積し,処理区では材の表面に不織布を2,500cm2を固定して置き,対照区ではそのまま,材全体を二つの底辺50cm,高さ40cmの三角形の開口部があるブルーシートで覆った。各網室で捕獲したマツノマダラカミキリ成虫を個別飼育し,生存期間とB. bassianaの叢生を調査した。菌の感染は,成虫の1日あたりの平均後食面積に影響を与えていなかった。対照区と処理区の脱出個体のそれぞれ2%と34%で叢生がみられ,捕獲後15日間で対照区の脱出個体の20%,処理区の脱出個体の52%が死亡した。処理区の脱出個体の死亡率は,2001年に同じ場所で0.2m3の被害材に対して行った同様の試験結果ほぼ等しく,材積あたりの施用量が同じであれば,同等の防除効果が得られることが確かめられた。しかし,今回の叢生率と死亡率は,関東地方での試験結果より低かった。これらの結果をもとに,成虫の活動時期に気温が高く降水量の多い南九州における不織布によるカミキリ成虫駆除効果の向上に向けての問題点について考察した。
  • 阿部 俊夫
    2007 年 89 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    サクラマス幼魚に対する渓畔林喪失の影響を明らかにするため,北海道北部の森林小流域と本流渓畔域が草地化された小流域において,生息場所変量とサクラマス生息密度などを比較した。調査は,夏,初冬,春の3季に,本流と支流の両方で行った。生息場所変量についてみると,特に,草地化流域の本流は最高水温が高く,倒流木カバーが少ない傾向がみられた。サクラマス生息密度も草地化流域の本流で低い傾向が認められた。重回帰分析の結果,夏は最高水温が,初冬は倒流木カバー量が,最もサクラマス生息密度に影響する変量であった。さらに当年魚では,産卵域となっている川幅の狭い支流や本流上流部に多い傾向も認められた。以上のように,渓畔林は,サクラマス生息に重要であり,開発の際は,渓岸付近を緩衝林帯として保全する必要がある。小さな支流も,産卵や稚魚の生息に重要であり,渓畔域を撹乱しないよう配慮が必要である。
  • 鈴木 保志, 宮田 大輔, 秦野 瑶子, 山口 達也, 吉井 二郎, 後藤 純一
    2007 年 89 巻 2 号 p. 92-101
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    木質チップボイラで使用するために林地残材丸太を切削式チッパで粉砕したチップの寸法を計測し,寸法分布および樹種・丸太形状との関係を分析した。篩い分けと層別サンプリングにより求めた長辺・短辺・厚さの分布は対数正規分布でよく表現できた。樹種・丸太形状との関係では,長辺と短辺ではスギより比重の大きなヒノキで有意に大きい寸法となっていた。短辺については径の大きな丸太の方が寸法の大きいチップの割合が有意に多かった。厚さと長短比は樹種・丸太形状と有意な関係は認められなかった。丸太の長さはチップ寸法に有意な影響を与えていなかった。チップのスクリーニングでは,篩の呼び寸法以上のサイズのチップが篩を通過する場合があるが,寸法分布を考慮し篩寸法を適切に選択すれば長辺寸法の管理は可能であることが示唆された。
  • 酒井 康子, 小坂 肇, 秋庭 満輝
    2007 年 89 巻 2 号 p. 102-106
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    病原力の弱いマツノザイセンチュウ(以下線虫)の接種により,アカマツなどではマツ材線虫病に対して抵抗性が誘導される。リュウキュウマツにおいても,弱病原力線虫を接種することにより抵抗性が誘導されるかどうかを明らかにするため,成木を用いた試験を行った。弱病原力線虫(分離株名:C14-5)または蒸留水を接種し(前接種),その後,沖縄産強病原力線虫(分離株名:OK567)を接種した。その結果,蒸留水を前接種した場合と比べて弱病原力線虫を前接種すると強病原力線虫を接種しても枯れにくいこと,すなわち,リュウキュウマツにおいても弱病原力線虫により抵抗性が誘導されることを確認した。生き残った個体に対して,強病原力線虫を翌年再度接種して抵抗性の持続性も確認した。
  • 高橋 絵里奈, 竹内 典之
    2007 年 89 巻 2 号 p. 107-112
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    長伐期林における陽樹冠管理のための定量的な基準を提示する目的で,吉野林業地の38~210年生の林分において,個体の陽樹冠量(陽樹冠直径,陽樹冠長,陽樹冠表面積)と年平均胸高直径成長量(ΔDBH)の関係を解析した。陽樹冠直径および陽樹冠表面積とΔDBHとの間には良好な回帰直線式が得られた。得られた式の信頼性および測定の簡便性等を検討した結果,特に陽樹冠直径(Dsc)が残存木選木の指標として有用であると結論できた。また,DscΔDBHとの関係は林齢の増加にともなって変化しており,この結果は,単位陽樹冠量当たりの直径の成長効率が林齢に沿って変化することを示していた。したがって幅広い範囲の林齢や個体サイズを対象とする長伐期施業においては,林齢等の違いによるDscΔDBHとの関係の変化を考慮することが重要であることが明らかとなった。さらに,DscΔDBHの回帰直線式からΔDBHが0.25~0.54 cm/年(年輪幅が2 mm前後)となるDscの推定範囲を求めることができ,74~88%の精度でDscから年輪幅が2 mm前後であるか否かを判定できた。これらの結果から,これまで定性的に行われてきた残存木選木に対して,一定の精度を有する定量的な基準を林齢別に提示したといえる。
  • 平田 令子, 高松 希望, 中村 麻美, 渕上 未来, 畑 邦彦, 曽根 晃一
    2007 年 89 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    スギ人工林へのマテバシイの侵入に係わる野ネズミの働きを解明するため,2003年4月から2005年1月まで,鹿児島大学演習林内の常緑広葉樹林とそれに隣接するスギ人工林において,堅果の落下状況,野ネズミによる堅果の散布状況,マテバシイ稚樹の生育状況を調査した。自然落下による分散距離は平均2.4m,人工林への侵入距離は最大4.4mであった。2003年と2004年の秋に200個ずつ設置した磁石付き堅果のうち,それぞれ66個,58個を野ネズミは人工林内に運搬し,林分の境界から貯食場所までの距離は,2003年は最大34.5m,2004年は18.5mであった。2003年の貯蔵堅果のうち6個は翌春まで人工林内に残存した。人工林内のマテバシイ稚樹の生育密度は林分の境界から距離とともに減少したが,境界から10m以内は広葉樹林内と有意差がなかった。以上のことから,人工林へのマテバシイの侵入に野ネズミは種子散布者として大きく貢献していると考えられた。
  • 高尾 和宏, 大村 寛
    2007 年 89 巻 2 号 p. 121-125
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    17世紀,江戸時代の元禄期に,江戸町人の紀伊国屋文左衛門と駿府町人の松木屋郷蔵は,共同で幕府御用材の伐採と運材を請け負った。御用材の伐採場所は,静岡県中央部に位置する大井川上流部の森林であった。その伐採期間は元禄5年(1692年)から元禄13年(1700年)までの9年間で,幕府へ納入した材積は6万尺締(20,160m3)である。御用材は,駿河湾まで大井川を管流され,駿河湾から江戸湾まで船輸送された。大井川での管流は,木材の損傷が大きく,材引取りの合格率は低かった。また,労務者の賃金が低かったことから,収入を得るために細い立木までも伐採をしたとされている。このため,推定3,600haの森林が皆伐状態にされた。御用材の伐採場所は,3,000m級の高山に囲まれた急峻な森林地域で,静岡県内でも降水量の多い地域である。
  • 本田 剛
    2007 年 89 巻 2 号 p. 126-130
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    被害防止柵は野生動物による農業被害を防止するため,頻繁に利用される。この柵とは簡易的で一時的な柵と,堅牢な固定柵の2種類に大分される。固定柵は簡易柵よりも高い効果が期待されがちであるが,固定柵の効果は期待されるほど高くないとする報告は少なくない。そこで,どのような要因が固定柵の効果に影響を与えるのかを調査するため,さまざまな要因を対象としパス解析により分析した。柵の効果は管理や設置上の不良要因により影響をうけることおよび,これら不良要因は専門家による助言の有無,組織的活動といったヒューマンファクターにより影響をうけることが示された。以上のことから柵の効果を高め,野生動物による農業被害を減らすためには,これら人的要因により多くの注意を払う必要があると考えられる。
短報
  • 時光 博史
    2007 年 89 巻 2 号 p. 131-134
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    ヒノキ立木1本の生枝から採取した101の試料について,振り子式衝撃試験機によって衝撃曲げ仕事量を測定した。測定された仕事量は試料直径の3乗に比例した。また72試料は完全に折れ,これについての仕事量は枝の試料断面積に比例した。その結果,林内では小径の枝が折れ難いことが示唆された。強風によって枝が折れることは否定されなかった。
  • 松本 剛史, 佐藤 重穂
    2007 年 89 巻 2 号 p. 135-137
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    ニホンキバチ成虫に対する宿主由来の揮発性成分の誘引活性を解析する端緒として,揮発性成分に対する生物検定法であるオルファクトメーターを作成した。野外試験でニホンキバチを誘引することが確認されているα-pineneを標準化合物として試験を行った結果,ニホンキバチ雌成虫はα-pineneに誘引された。また,スギ新鮮丸太を誘引源とした試験の結果,ニホンキバチ雌成虫はスギ丸太由来の揮発性成分に誘引されることが明らかとなった。ところがニホンキバチ雄成虫に対して試験したところ,α-pineneおよびスギ新鮮丸太由来の揮発性成分の両者に対して誘引反応は認められなかった。このことから雄と雌で揮発性成分に対する反応が異なることが示唆された。本研究で作成したオルファクトメーターは,ニホンキバチの揮発性成分に対する生物検定装置として有効であると考えられる。
  • 後藤 晋, 津田 智
    2007 年 89 巻 2 号 p. 138-143
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    ウダイカンバの資源保続を目的として,山火事後に成立した二次林0.27haを2001年10月に皆伐し,バックホウを用いてA層やA0層をある程度残すようにしながら地はぎ処理を行った。ウダイカンバ実生の発生密度は2002~2004年までは20~30本/m2程度であったが,2005年に大きく増加して約120本/m2となった。クマイザサの平均被度は2005年の時点でも8%にとどまり,ウダイカンバの更新阻害要因にはなっていなかった.したがって,本研究で用いた手法は,ウダイカンバ実生の発生定着に有効であると考えられた。
  • 佐野 雅規, Pham Hong Tinh, 末田 達彦
    2007 年 89 巻 2 号 p. 144-148
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/21
    ジャーナル フリー
    インドシナ半島の山岳域に自生する針葉樹フォッキニア(Fokienia hodginsii)の年輪気候学的な可能性を検証するため,ベトナム北部で40個体の高齢木から年輪コアサンプルを採集した。これを解析した結果,供試木の 29個体については年輪の欠損と同一個体内での年輪成長の異方性のため,年輪の絶対年代を完全に決めることはできなかったが,残り11個体については厳密な年代が特定でき,年輪幅の変動も個体間でよく同調していた。これら11個体をもとに構築した標準年輪年代曲線は西暦1444年まで遡り,これまで報告されている東南アジアの標準年輪曲線では最長のものとなった。また,気候データに対する年輪幅の応答を解析したところ,前年雨期と当年雨期前の高温と寡雨がフォッキニアの肥大成長を抑制することがわかった。フォッキニアは,インドシナ半島北部の山岳部に残存しており,分布記載のあるラオスや中国南部のほか,ミャンマーにも分布している可能性が高いので,気候復元の地域的拡大も可能である。
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