日本森林学会誌
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89 巻, 3 号
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論文
  • 小柳 信宏, 久保井 喬, 戸田 浩人, 生原 喜久雄
    2007 年 89 巻 3 号 p. 151-159
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    高齢化したスギ・ヒノキ人工林小流域における斜面位置別土壌中の水溶性イオンの動態を明らかにするために,野外培養による土壌中のN無機化速度(NH4-N+NO3-N)と水溶性イオン生成速度,樹体の養分吸収量などを調査した。脚部および中腹部のスギ林は,尾根部のヒノキ林に比べて土壌中のNO3-N生成速度が大きく,水溶性NO3濃度および水溶性Ca2+濃度が高かった。NO3-N生成に伴い水溶性NO3はほぼ同じ割合で増加したが,水溶性SO42-は培養後に減少した。生成した水溶性陽イオンに占める水溶性Ca2+の割合は,脚部および中腹部で8割程度,尾根部で5割程度であった。尾根部では林木への養分供給量と樹体の養分吸収量が同程度であった。一方,脚部および中腹部では,養分供給量が吸収量より多かった。脚部のような渓流沿いの場所で植栽木の高齢化により養分吸収量が低下すると,水溶性NO3と随伴陽イオンが流亡し渓流水質に大きな影響を及ぼす可能性が指摘された。
  • 辻 貴文, 石井 弘明, 金澤 洋一
    2007 年 89 巻 3 号 p. 160-166
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    高齢林の林分構造と斜面位置の関係を明らかにするために,無間伐の90年生ヒノキ高齢林を対象に斜面位置と立木のサイズ分布および空間配置の関係を解析した。調査地が急傾斜であったために斜面上部から下部にかけて比較的短い距離(45 m)で林分構造に大きな違いがみられた。斜面上部では立木の空間配置が集中分布を示し,立木密度が高く,個体サイズおよび材積合計が小さくなった。また,斜面上部では広葉樹が侵入し,ヒノキと競合していた。斜面中部および下部においては自己間引きが進行した結果,立木の空間配置が一定間隔分布を示し,斜面上部と比較して立木密度が低く,個体サイズおよび材積合計が大きかった。また,広葉樹の本数が少なく,ヒノキよりも小さかった。急峻な立地の高齢林では,狭い範囲であっても斜面位置に応じて立木の成長量や自己間引きの進行速度,広葉樹の侵入する様相に著しい差が生じることから,斜面位置を考慮に入れた施業・管理計画を実施する必要があると考えられる。
  • 中島 徹, 広嶋 卓也, 白石 則彦
    2007 年 89 巻 3 号 p. 167-173
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    本研究は民有林のうちの人工林(以下,人工林と記す)において,京都議定書3条4項に規定された森林(以下,FM林と示す)の齢級別,普通林・保安林種別面積を推定し,それをもとに今後FM林面積を拡大するための方策を検討した。齢級別,普通林・保安林種別にFM林面積を推定する際には,森林簿と1990年から2000年までの施業履歴を使用した。さらにFM林を拡大する方策を検討するうえでは,齢級ごとに支給された補助金額も参考にした。推定されたFM林は一部の保安林を除いて若齢級に偏った分布を示した。また,8齢級以上の森林施業に支給される補助金はわずかであり,補助金によるFM林の誘導は10年以内に限界に達することが明らかになった。一方,現行の全国森林計画には,複層林施業,長伐期施業による高齢林の育成を目指すという方向性が記載されている。そこで,通常の間伐事業に加え,森林施業計画の実施を条件とした団地単位の補助事業によってFM林を算入し,森林計画制度の実効性を高めてゆくことが効果的な方策であると結論された。
  • 宇都木 玄, 飯田 滋生, 阿部 真, 田内 裕之
    2007 年 89 巻 3 号 p. 174-182
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    長伐期施業等,人工林の高齢級化による下層植生現存量の変動を明らかにするために,施業履歴の明確なトドマツ林を21林分選択し,林内の下層植生現存量(樹高3 m以下)と光環境条件を調査した。下層植生直上の相対光強度(ISF)は5.2∼22.3%であり,ISFは上層林冠構成木の立木密度の逆数(Dsi)を用いて推定することができた。下層植生現存量は0.01∼4.3 Mg ha-1であり,また最大の葉面積指数(3.37 m2m-2)は落葉広葉樹林のそれに匹敵した。下層植生現存量は光環境条件,Dsiおよび除間伐作業後の経過年数に影響されていた。ISF 20%以下の下層植生地上部現存量は7 Mg ha-1に満たないと推定されたが,これは国内の既存の報告と一致した。このことは長期間施業が行われない場合でも下層植生現存量は上層林冠木現存量の0.01∼4.1%に過ぎず,下層植生の炭素貯留機能には大きな期待を持てないことが示唆された。しかしながら,既存の研究を概観すると,土砂流出防備等の水土保全機能に対しては十分に機能を発揮できると考えられた。
  • 南 佳典, 渡邊 功
    2007 年 89 巻 3 号 p. 183-189
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    富士山亜高山帯の雪崩発生から数十年経過した調査地Aと雪崩発生から間もない調査地Bにおいて,イタドリパッチのカラマツ実生の定着場所(マイクロサイト)としての機能を明らかにすることを目的とし,イタドリパッチの分布とカラマツ実生の定着状況について比較検討を行った。調査地Bにみられたイタドリパッチは調査地Aに比べ大きなものが多く,その内側には樹齢の高いカラマツ実生が定着していることが示された。このことから,調査地Bのイタドリはカラマツ実生の撹乱跡地への侵入を助けるナースプラントとしての機能があると考えられる。一方で,調査地Aのイタドリはパッチサイズが小さく,次の遷移段階の構成種の侵入におけるナースプラントとしての機能を十分に果たしているとは考えられない状況であった。
  • 浦川 梨恵子, 戸田 浩人, 生原 喜久雄
    2007 年 89 巻 3 号 p. 190-199
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    火山灰土壌は変位荷電による陰イオン交換容量(AEC)を有し,非特異吸着により陰イオンを吸着する。この特性が森林土壌におけるNO3動態に及ぼす影響を明らかにするため,バッチ法およびカラム法で火山灰の混入した森林土壌のA層およびB層のNO3吸脱着の特性を調べた。バッチ実験より,B層土壌は添加溶液(KNO3溶液)の濃度上昇に伴いNO3吸着量が増加し,変異荷電によるイオン吸着の特徴がみられた。A層のNO3吸着量はB層に比べて非常に少なかった。土壌の全C濃度とNO3吸着量との間には強い負の相関がみられ,正荷電量は有機物含量に規制されていた。一方,A層にはpHとNO3吸着量との間に負の相関が認められ,腐植による変異荷電が存在し,B層とは正荷電の主体が異なることが示唆された。カラム実験の結果,現地土壌水の伐採前後のNO3濃度の変動,およびB層厚より,伐採後の下層土のNO3吸着保持の増加は60 kgN ha-1と算出され,伐採後に林床で分解・放出された多量のNを一時的に保持し,渓流のNO3濃度の急激な上昇を抑制していると考えられた。カラム実験より,NO3溶液で平衡に達したB層カラムに脱イオン水を通すと,最終的には添加したNO3の全てが脱着することから,現地伐採流域における渓流へのNO3-N流出増加量は少ないが,流出増加は長期にわたると予測された。また,カラム実験および現地土壌水の陰イオン量の測定から,将来はNO3流出に引き続き,SO42-の流出の増加も予測された。
  • 澤田 智志, 西園 朋広, 粟屋 善雄, 野堀 嘉裕
    2007 年 89 巻 3 号 p. 200-207
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    高蓄積の秋田スギ天然林を構成する天然スギ10本(樹齢162∼255年生)について,樹幹解析の手法により個体の成長解析を行った。胸高断面積定期平均成長量の変化から,天然林内では1802年前後に大規な撹乱があり,その後は1924年の間伐まで無撹乱の状態が続いたものと推察された。樹高と胸高断面積の定期平均成長量はすべての個体とも50年生前後まで低く,それ以降の樹高成長が盛んな時期は,スギ人工林と同等の高い定期平均成長量を示した。樹高の定期平均成長量が減退しても,胸高断面積の定期平均成長量は80年生以降ほぼ一定の成長を続けた。胸高断面積定期平均成長量は1924年の間伐時は優勢木を除く9本で間伐後10∼20年間成長量が増加し,さらに上層木6本で1802年前後から以後30∼100年間成長量の増加が認められた。解析木の形状比は成長とともに優勢木では70より低く,平均木以下では90前後の高い状態で推移した。幹材積定期平均成長量は70∼100年生頃から最大になり,その後も最大成長を保った個体が多く,優勢木では100年以降に0.12 m3 yr-1を超え,伐採されるまで最大の成長量を続けていた。
  • 井上 友樹, 村上 拓彦, 光田 靖, 宮島 淳二, 溝上 展也, 吉田 茂二郎
    2007 年 89 巻 3 号 p. 208-216
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    下層植生からみた剥皮害の発生傾向を明らかにすることを目的として,熊本県球磨地域のヒノキ人工林77地点を対象に,剥皮害木本数と下層植生との関連性を検討した。まず,下層植生の繁茂状況をデジタルカメラを用いて撮影し,定量化した。また,下層植生の種組成データを基に,TWINSPANにより調査点を三つの植生タイプに分類した(スズタケタイプ,先駆種タイプ,常緑高木種タイプ)。次に,下層植生が繁茂している調査点では剥皮害木本数が低く抑えられているのか,ブートストラップ法により検討した。その結果,常緑高木種タイプの調査点においてのみ,下層植生の繁茂状況が剥皮害木本数の多寡に影響していたことが明らかとなった。これは,下層植生による物理的,視覚的な遮蔽効果によるものであると考えられた。
短報
  • 小松 光
    2007 年 89 巻 3 号 p. 217-220
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    筆者は,日本の針葉樹人工林における遮断蒸発研究の12の計測例をまとめ,立木密度と遮断率の間に正の相関を見出した。その相関を回帰することで,遮断率[%] =0.00498×(立木密度[本ha-1])+12.0(R2=0.43)なる関係式を得た。立木密度以外,降水量・樹高・樹種との関係についても検討したが,これらと遮断率の間に明確な関係は認められなかった。したがって,上式は,立木密度とそれに伴う葉面積指数の変化が樹冠付着水分量を変化させることを通して,遮断蒸発量に与える影響を表現しているものと思われた。この式は,日本の針葉樹人工林の遮断蒸発量が,成長段階や森林管理によってどのように変化するのかを考える基礎となる。
  • 佐藤 重穂
    2007 年 89 巻 3 号 p. 221-224
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    スギ・ヒノキの材質劣化害虫であるヒノキカワモグリガの幼虫の単木ごとの食害部位数に影響を及ぼす要因として,スギを対象として寄主樹木の樹高および樹高の年成長量について検討した。林冠閉鎖前のスギ若齢林において,樹高およびその年成長量と本種幼虫の食害部位数について6年間にわたって調べた結果,樹高と食害部位数の間には6年のうち4年において正の相関があり,食害部位数の多い年ほど相関が高かった。幼虫数の多い年には,樹高が高く樹冠量の大きい樹木ほど寄生数が多くなるものと考えられた。一方,樹高成長量と食害部位数の間には6年のうち1年しか相関が認められなかった。
  • 野口 琢郎, 大谷 慶人, 服部 力, 阿部 恭久, 佐橋 憲生
    2007 年 89 巻 3 号 p. 225-229
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/07/15
    ジャーナル フリー
    熊本県阿蘇地方におけるスギ人工林の根株腐朽被害の原因となる菌を明らかにするため,40~83年生の12林分で腐朽伐根から菌株を分離し,主要な分離菌の諸性質について調査した。調査林分では,形態的特徴の異なる8種の担子菌が分離され,そのうち2種の担子菌(担子菌Aと担子菌B)が主要なものであった。担子菌Aは南小国町1の林分で比較的高い頻度で分離された。担子菌Bはすべての調査林分で高い頻度で分離されたことから,阿蘇地方で広範囲に分布しているものと推察された。腐朽力試験の結果,担子菌A,Bはともに木材腐朽力を有することが明らかとなった。これらのことから,阿蘇地方におけるスギ根株腐朽被害には,少なくとも担子菌Aと担子菌Bが関与していると考えられた。
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