日本森林学会誌
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89 巻, 5 号
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特集「日本におけるLTERの稼動:森林科学からのアプローチ」
巻頭言
論文
  • 柴田 英昭, 小澤 恵, 佐藤 冬樹, 笹賀 一郎
    2007 年 89 巻 5 号 p. 314-320
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/19
    ジャーナル フリー
    北海道北部の森林生態系において,掻き起こしによる地表処理が土壌窒素動態に与える影響と経年変化のメカニズムを解明するために,土壌の溶存窒素,微生物バイオマスおよび植生の窒素蓄積,土壌窒素無機化について調べた。掻き起こし処理区における土壌NO3-Nプールは処理後1∼3年目までは対照区よりも多く,その後は徐々に減少した。処理後3年目まで土壌NO3-N現存量が高くなるのは,処理による植生の窒素吸収の減少のみならず,表土除去が土壌微生物へのエネルギー源である炭素の不足を引き起こし,正味窒素有機化が減少し,正味硝化速度が増加したことが要因であった。処理後の年数経過に伴う土壌NO3-N現存量の減少は,処理後2∼3年目までは土壌からのNO3-N溶脱が主因と推察され,それ以降は回復した植生への窒素蓄積の影響が高まっていた。処理後5年においても,土壌の正味硝化速度は依然として高く,土壌窒素動態に対する掻き起こし処理の影響は数年間スケールで持続されていた。
  • —綾のLTERサイトにおける複数の台風撹乱の比較解析—
    齊藤 哲, 佐藤 保
    2007 年 89 巻 5 号 p. 321-328
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/19
    ジャーナル フリー
    照葉樹林の主要樹種の台風被害の特性を把握するため,LTERで蓄積された強さの異なる3回の台風撹乱のデータを比較,解析した。風速2乗,前の撹乱からの経過年数,空間分布の偏りを独立変数にしたステップワイズ法による重回帰分析の結果,5種は風速2乗のみで被害割合((根返り幹数+幹折れ幹数)/台風直前生存幹数)を説明できた。その5種の風速2乗と被害割合の回帰直線の傾きは種間で有意に異なった。数種では風速2乗以外も有効な変数として採択されたが,多くの種で風速2乗が最も大きい影響を示した。また,被害のうち幹折れの割合が種や台風に関わらず高い値を示した。以上の結果から,1)種特性としての風害に対する抵抗性(高いイスノキなどや低いタブノキなど),2)上記抵抗性以外の要因が被害量に及ぼす影響の種間差,3)幹折れが多いのはサイトの特徴であることの3点が明らかになった。本研究で示したように,稀なイベントに対する森林の反応の評価には,LTERは有効といえる。
  • 榎木 勉
    2007 年 89 巻 5 号 p. 329-335
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/19
    ジャーナル フリー
    沖縄島北部の亜熱帯常緑広葉樹林の樹木の分布パターンにおける地形依存性の変化をさまざまなスケールで検討した。地形の傾斜と起伏は,地形を評価する方形区のサイズの変化に応じて変化するとともに,その空間的なパターンも変化したが,異なるスケール間には有意な正の相関があった。樹木各種が分布する方形区の傾斜および起伏の中央値の順位はスケールが変わってもあまり変化しなかった。一方,種ごとの分布パターンのスケール間比較を行った結果では,空間スケールの違いによって一部異なる分布傾向が認識されることが示された。イタジイはどの空間スケールでも凸状地に偏った分布が認められたが,35 m×35 mのスケールでは谷や尾根のどちらにも広く分布し,その大きな谷や尾根の中にある5 m×5 m程度の小さな凸状地に集中する分布が検出された。イジュはいずれのスケールでも,イタジイが分布する地形に比べ急傾斜の凹状地に分布する傾向が検出された。イタジイは個体サイズが大きくなるほど,傾斜がより緩く,より凸状の斜面に偏る分布傾向が認められたが,イジュでは個体サイズと分布する地形との間に明瞭な関係はみられなかった。以上のような樹木の地形依存的な分布パターンには,樹木個体群が地形に対応した結果により生じたものに加え,調査地の地形構造の特性を反映した結果により生じた可能性もある。
短報
  • 高木 正博, 森山 聡之
    2007 年 89 巻 5 号 p. 336-339
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/19
    ジャーナル フリー
    森林科学などの野外科学では,研究が行われた状況の基礎情報として,また時には研究対象となる現象の説明要因として,気象データは欠かせない。特に長期・広域比較生態系研究においては研究遂行上のインフラであり,各研究施設や試験地の気象観測データを使いやすい形で統一的に提供しうる公開システムの整備が望ましい。そこで,1)各組織の観測データの統一的な公開システムの提供,2)過去データが検索可能なデータベースの構築,3)研究者や観測者への公開システムの提供,4)観測データの品質管理,を目的として「全国森林気象データベース」を開発した。現在,XMLデータベースの採用およびデータ整形の一元自動化により,1から3までの目的を達成でき運用を開始している。今後は観測データの品質管理などが課題である。
総説
  • —森林動態データベース(FDDB)を例に—
    新山 馨, 武生 雅明, 河原崎 里子
    2007 年 89 巻 5 号 p. 340-345
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/19
    ジャーナル フリー
    森林総合研究所は毎木調査を中心とした長期測定データをデータベース化し,森林動態データベース(forest dynamics database: FDDB)として公開している。データベース(http://fddb.ffpri-108.affrc.go.jp/index.html)は北海道から九州まで8カ所の長期生態観察試験地(4∼6 ha)で測定された成木,稚樹,実生,種子,落葉落枝などのデータで構成されている。web上で公開データの中から樹種を選択すると,空間分布や直径分布をweb上で図表化できる。この総説では森林動態データベースを開発した経緯や研究上の功罪を記述し,今後の森林データ公開の方向性について議論した。大学や研究所で所有する森林データは公共性の高い情報である。国民に対し広く情報を公開し,森林への理解を求めることはきわめて大事である。そのための森林データの標準化・統合化と公開は避けて通れない。今後の森林科学の発展のため,多くのデータを公開し共有化する努力が必要である。
  • 小松 光, 久米 朋宣, 大槻 恭一
    2007 年 89 巻 5 号 p. 346-359
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/19
    ジャーナル フリー
    流域水収支計測は,森林蒸発散を調べる基本的な方法だが,近年,流域水収支データに基づく研究はあまり盛んではなく,フラックス計測や樹液流計測などに基づくプロセス研究の方が盛んである。本稿は,このようなプロセス研究優位の状況がどのような歴史的経緯によってもたらされたかを概観した上で,プロセス研究によって流域水収支データの存在を代替することができないことを,計測の精度と実行可能性の両面から指摘した。本稿ではさらに,プロセス研究と流域水収支データの協働によって新たな知見が生み出されることを,実例をあげて説明した。また,このような協働によって,今後検討されるべき研究テーマを列挙するとともに,協働促進のための環境整備について提案を行った。
解説
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