日本森林学会誌
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89 巻, 6 号
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論文
  • 宮下 智弘
    2007 年 89 巻 6 号 p. 369-373
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    スギ挿し木苗と実生苗の多雪地帯における造林初期の成育特性を比較した。互いに近距離に設定され,環境条件も類似している挿し木検定林と実生検定林の組合せを選択した。挿し木検定林には挿し木苗が,実生検定林には実生苗が植栽されている。選択された挿し木検定林と実生検定林の各組合せにおける同一系統の挿し木クローンと実生後代のデータをデータセットと定義し,三つのデータセットを用いて解析した。挿し木苗と実生苗の5年次生存率は同程度であったが,挿し木苗の10年次生存率は実生苗より明らかに低かった。枯死の原因の多くは,幹折れまたは根元折れであった。実生苗と比べ,挿し木苗の根元曲がりと樹高は小さかった。以上の結果から,挿し木苗は根元曲がりが少ないものの,成長にともなって多発する幹折れのために,生存率は低下することがわかった。挿し木苗の劣った樹高成長は,埋雪期間を長期化する。したがって,多雪地帯における挿し木造林は,雪圧による折損被害のため,生存個体数が少なくなる危険性が高いことが示された。
  • —既存の森林教育テキストの比較解析から—
    堀田 紀文, 広嶋 卓也, 坂上 大翼, 山本 清龍, 田中 延亮, 柴崎 茂光
    2007 年 89 巻 6 号 p. 374-382
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    森林の多面的機能を題材とする森林教育を実施する際に,指導者となる学校教員を対象としたテキストを活用することが有効であるとの立場から,既存の森林教育テキストの内容をレビューし,プログラムにおける多面的機能の取り上げ状況とテキストの構造に着目した整理を行った。結果として,森林の機能を題材とした森林教育プログラムはすでに多数存在することが示された。また,森林教育テキストは,プログラムとそれに対応するテーマ(主題・背景)によっていくつかの構造に類型化できた。今後,森林の多面的機能を題材としたテキストを作成する際には,既存のプログラムを参照することが可能であり,テキストには,プログラムとそれに対応した森林の多面的機能に関するテーマの組み合わせを複数盛り込むことで,インタープリテーションを通して森林の多面的機能に対する理解を促進できると考えられた。
  • 太田 敬之, 正木 隆, 杉田 久志, 金指 達郎
    2007 年 89 巻 6 号 p. 383-389
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    秋田県の佐渡スギ群落保護林において,その成立過程をスギ伐根の年輪解析によって推定した。25 ha内の3カ所のスギの風倒木43本の伐根から円板を採取した。伐根径の平均は62 cm,伐採面の年輪数は平均235年であった。伐採高に達するまでの年数を推定し,それを伐採面の年輪数に加えて求めた発生時期は西暦1681∼1731年と推定された。現在,保護林内に生育しているスギ成木(dbh 30 cm未満),幼樹(dbh 5 cm未満)の直径と肥大成長の関係から生育環境(ギャップ下,林冠下)を求める判別式を作成し,それを供試木43本に当てはめて過去の生育環境を推測した。その結果,スギは発生当初は良好な環境下にあったが成長が一度低下し,西暦1790年頃にほとんどの供試木の成長が改善するパターンがみられた。平均発生年,成長改善の平均年とも円板を採取した3カ所の間では違いがみられなかった。以上の結果から,この林分では過去に2回の広域で強度な撹乱があり,最初の撹乱で現存しているスギが発生し,2回目の撹乱で成長が改善されたと推察された。近隣の履歴などから,撹乱はいずれも伐採によるものと考えられ,最初はスギが,2回目ではその後に生育した広葉樹が主に伐採されたと推察した。
  • 竹内 郁雄, 永岩 健一, 寺岡 行雄
    2007 年 89 巻 6 号 p. 390-394
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    鹿児島県北部のヒノキ4林分で,台風による落葉量を調査した。調査地域には2004年に5個の台風が接近し,森林に最も強い影響を与えたのは台風18号で,瞬間最大風速40 m/s以上の東および南西の強風をもたらした。落下した落葉枝の長さは,4林分とも10 cm未満のものが大部分で,20 cm以上はわずかであった。落葉量は,南西向き斜面のP1,P2でそれぞれ1.0,0.8 t/ha,北向き斜面のP3,P4でそれぞれ0.7,0.2 t/haであった。4林分の落枝量は,落葉量の7∼15%と少なかった。林分での落葉量は,斜面方位や風上側の保護山体の有無などによる風速の強さを反映したものと推察された。落葉量が多かったP1,P2林分で現存量の調査を行った。台風前の葉現存量はP1,P2でそれぞれ13.8,15.5 t/haと推定された。台風前の葉現存量に対する落葉量の割合はP1が7.5%,P2が5.1%であった。このように,ヒノキ林では台風による幹折れなどの顕著な被害発生がなくても,落葉被害が発生することがわかった。
  • 今 博計, 渡辺 一郎, 八坂 通泰
    2007 年 89 巻 6 号 p. 395-400
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    トドマツ人工林を多様な広葉樹を含む針広混交林へと誘導する施業法を検討するため,間伐後8∼11年経過した39年生の間伐林分と28年生の無間伐林分において下層植生を調べた。間伐は3段階の異なる強度の列状間伐(1伐4残,2伐3残,3伐2残)を行った。間伐後の林内の相対光合成有効光量子束密度は,間伐強度が強くなるにしたがって明るくなる傾向があった。高木性・亜高木性広葉樹の種の豊富さと個体数は,無間伐区に比べ間伐区で高かったが,間伐区間では間伐強度が強いほど,個体数が少なくなる傾向があった。低木類と草本類の最大植生高と植被率は,間伐強度が強くなるにしたがい増加していた。2伐3残区と3伐2残区では,ウド,アキタブキなどの大型草本の回復が著しく,多くの高木性・亜高木性広葉樹はこれらの草本類により覆われていた。しかし,2伐3残区と3伐2残区では,大型草本の被圧を抜け出した樹高1 m以上の広葉樹が11種あり,その個体数は1 ha当たり2,500∼3,750本存在していたことから,十分な数の更新木が確保できたと考えられた。したがって,間伐によって,トドマツ人工林を多様な広葉樹を含む針広混交林へと誘導することが可能であり,間伐には誘導伐の効果を併せもつことが示された。
短報
  • 森 康浩, 宮原 文彦, 堤 祐司, 近藤 隆一郎
    2007 年 89 巻 6 号 p. 401-406
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    弱病原性のマツノザイセンチュウ(以下,弱線虫とする)をマツにあらかじめ接種するとマツ材線虫病の発病率や枯死率が抑制されるという誘導抵抗性現象を,クロマツの遺伝的要因を考慮して検証した。満1年生の5家系の実生苗を対象に,家系ごとに弱線虫接種区と滅菌蒸留水接種区(コントロール)を設け,強病原性のマツノザイセンチュウ(以下,強線虫とする)接種17週後の病徴を調べた。その結果,発病率や枯死率はクロマツの家系,強線虫の系統,苗高によって左右されたが,弱線虫接種の有無には左右されなかった。さらに,満2∼3年生の挿し木クローン苗を使って弱線虫接種区とコントロールのクロマツの遺伝的ばらつきを同じにした場合も,両区の発病率や枯死率に差はなかった。このように,コントロールとの遺伝的ばらつきを抑えた場合,誘導抵抗性は認められなかった。したがって,誘導抵抗性は弱線虫を接種したマツに普遍的にみられる現象ではないと考えられた。
  • 近藤 美由紀, 光田 靖, 吉田 茂二郎, 溝上 展也, 村上 拓彦
    2007 年 89 巻 6 号 p. 407-411
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    霧島山系のモミ・ツガ天然林の再生方法として人工林を天然林へと再転換する方法に着目し,種子源の配置が人工林林床におけるモミ稚樹の定着可能性に与える影響を検証するために,ロジスティック回帰分析により稚樹の存在確率の予測を行った。天然林パッチおよび母樹個体という異なる種子源の情報を用いて回帰分析を行った結果,天然林内の母樹からの距離と母樹の胸高断面積を考慮した場合が最もあてはまりがよく,大径の母樹にきわめて近い場所に稚樹は定着しやすいことが明らかとなった。また,稚樹の存在を精度よく予測するためには母樹の個体レベルの情報が必要であり,再転換候補地の選定にあたってはこのデータを整備することが望ましいことが示された。
  • —竜の口山森林理水試験地の場合—
    稲葉 誠博, 近藤 観慈, 沼本 晋也, 林 拙郎
    2007 年 89 巻 6 号 p. 412-415
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    森林総合研究所竜の口山森林理水試験地の公開データを使用し,同流域の低水・渇水解析に適した水年開始日として5月1日が示された。5月1日を開始日とする水年の流況曲線は,1月1日を開始日とする暦年の流況曲線に比べて低水・渇水期間の低減がスムーズになった。この水年設定に応じた流況曲線の相違は,流況の相関解析における寄与率に現れ,5月1日を開始日とする水年の寄与率は,暦年の場合に比べて高くなった。また,寄与率の上昇は低水・渇水期間で顕著であった。このことから,目的の流況解析に応じた水年を設定することの重要性が確かめられた。
総説
  • —人工林マトリックス管理の提案—
    山浦 悠一
    2007 年 89 巻 6 号 p. 416-430
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/27
    ジャーナル フリー
    広葉樹林の転換がパッチレベルおよびランドスケープレベルで鳥類に及ぼす影響を,人工林への転換に重きを置いて整理し,その影響の緩和手法を提案した。広葉樹林の人工林への転換に伴う,広葉樹林パッチ面積の縮小,広葉樹林の消失と分断化は,鳥類の種数・密度を減少させる。広葉樹林の消失と分断化の影響は,広葉樹林の消失が進行するほど強くなる。人工林はこれまで,生物にとっては同質な非生息地(マトリックス)としてとらえられ,生物多様性の保全上無視されてきた。しかし,林分構造と樹種組成が複雑な人工林は多くの鳥類の生息地として機能する。したがって,広葉樹林の人工林への置き換えによる鳥類への影響は,人工林の林分構造と樹種組成を複雑化することによって緩和することができると考えられる。人工林の林分構造と樹種組成の複雑化は,長伐期施業や強度の間伐,間隔を空けた植栽,広葉樹や粗大有機物の維持,保残伐によって達成することができるだろう。最後に,生物多様性の保全に配慮した森林管理手法を発達させるための今後の課題をいくつか挙げた。
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