日本森林学会誌
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90 巻, 4 号
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論文
  • 小山 敢, 落合 博貴, 三森 利昭, 多田 泰之, 奥村 武信
    2008 年 90 巻 4 号 p. 213-222
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    飽和するとコラプス沈下によって強度を失う脆弱層が多く存在する斜面で,崩壊現象を議論するために必要な降雨・土壌水分・斜面移動量の観測を行った。観測期間中に崩壊は生じなかったが,豪雨時にわずかな斜面移動が観測され,小さな亀裂も生じた。斜面移動は上部,中部,下部の順で開始し,上部は引張ひずみ,中部はほぼ平行移動,下部は圧縮ひずみとなるすべり変位が生じた。この移動時に斜面内で飽和帯が不均一に生じた。試験地には,複数の露岩帯が同一走向で分布し,既発生の15個の崩壊位置を区分している。この露岩帯が中間流の流下を遮り飽和帯の不均一な分布を生じさせていた。調査・観測結果を組み込んだ臨界すべり面解析結果は観測結果とよく一致し,すべり面は脆弱層の底面深度になり,すべり面頭部は露岩帯下方の実際に亀裂が生じた位置に計算された。以上より,本試験地では脆弱層の存在がすべり面深度を決定しており,露岩帯の存在が斜面上下方向の崩壊発生位置を規制していることがわかった。
  • 白石 洋一, 岡田 佑樹, 吉澤 光三
    2008 年 90 巻 4 号 p. 223-231
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    風倒木の発生と樹幹内部の空洞,腐朽などの欠陥には関係があることが知られている。しかし従来の樹幹内部の欠陥推定方法,および装置は,推定精度と非破壊検査の観点から実用レベルに達しているとはいえない。本方法では,樹幹を木製ハンマで打ち,ウェーブレット解析によって打音に含まれる周波数成分の時間変化をスペクトル画像で表し,その特徴から欠陥の有無を推定する。まず,丸太15本と実際に状態調査が実施された生立木702本のサンプルを使用して本方法における欠陥推定基準を作成した。次にこの欠陥推定基準をもとに本方法を生立木23本に対して適用,評価した。その結果,すべてに対して樹木医による欠陥ありの判定結果と一致し,うち17本で実際に欠陥がみられた。これとは別に,欠陥なし1本を含む生立木6本に対する適用では,すべての断面の状態と本方法の判定結果が一致した。
  • 西園 朋広, 田中 邦宏, 粟屋 善雄, 大石 康彦, 林 雅秀, 横田 康裕, 天野 智将, 久保山 裕史, 八巻 一成, 古井戸 宏通
    2008 年 90 巻 4 号 p. 232-240
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    秋田地方のスギ人工林に設置された29の試験区における長期継続調査データを分析し,林分成長量の経年変化を調べた。林分材積総平均純成長量は林齢とともに増加した後に,80~90年で減少に転じるか,もしくは一定の値を保っていた。林分材積総平均粗成長量が最大となる林齢は純成長のそれよりも高齢であった。上層樹高総平均成長量は,ほとんどの試験区で調査開始時点(林齢27~39年)よりも前に最大に達しており,林齢とともに減少した。断面積合計総平均純成長量は林齢とともに増加した後に,40~80年で減少に転じていた。以上より,次の結論を得た。1)密度管理や地位の違いにかかわらず,林齢60年生以上まで林分材積総平均成長量は増加する。2)間伐等の実施によって,被圧や災害による枯死量を少なくできれば,平均成長量が最大に達する林齢が高くなる。3)平均成長量が最大に達する林齢は上層樹高,断面積合計,林分材積の順に高齢に推移する。
  • 正木 隆, 阿部 真
    2008 年 90 巻 4 号 p. 241-246
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    ミズナラの豊凶を簡便にかつ迅速に判定する方法を検討するため,Koenig et al.(1994)の方法を試行した。2007年の秋に13本のミズナラを対象に水井(1991)の方法による結実度(枝先50 cmの平均着果数;以下,水井式結実度)を測定すると同時に,双眼鏡で樹冠を30秒間観察して堅果数をカウントした(以下,Koenig式結実度)。水井式結実度は1個体あたり6本の枝をサンプリングして平均して求めた。Koenig式結実度は,のべ8人の観測者が1個体あたり観測を9回繰り返して測定した。水井式結実度を目的変数(y),Koenig式結実度を説明変数(x)として,べき乗関数(y =axb)を非線形回帰分析で各観測者にあてはめた結果,a =1.4~1.8,b =0.32~0.37と推定され(自由度調整済み決定係数=0.44~0.56),ある観測者はカウント数が他の観測者よりも有意に少ないという現象がみられた。また,他の付随する誤差として,ある観測者は拡大率の高い(=実視界の狭い)双眼鏡を用いたときにカウント数が有意に低下する傾向もみられた。本研究で試した方法を実地へ応用する際,1個体あたりの観測回数は6回程度でよいが,個人差や用いる双眼鏡の差を補正し,観測値を標準化するように注意を払う必要がある。
  • 原 有香里, 張 文輝, 杜 盛, 玉井 重信, 山中 典和
    2008 年 90 巻 4 号 p. 247-252
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    乾燥処理区と対照区で北アメリカ原産のニセアカシアと黄土高原郷土樹種のリョウトウナラ,油松,側柏の一年生実生苗について,水消費量とP-V曲線から得られる葉の水分特性を調べ,造林樹種としての可能性を検討した。ニセアカシアの個体当たり水消費量は両処理区とも郷土樹種と比較して多かった。また郷土樹種は気孔閉鎖で,ニセアカシアは落葉することで水消費を抑えていた。対照区では油松と側柏のψwtlpとψssatがニセアカシアとリョウトウナラに比べて低く,膨圧維持に有利なことが示された。乾燥ストレスを受けると油松とリョウトウナラでは体積弾性率の変化が認められた。油松を除く3種ではψwtlpとψssat の低下が認められ,浸透調節が行われていると考えられた。またリョウトウナラと側柏はニセアカシアに比べて浸透調節能力が高いことが示された。このことから郷土樹種3種はニセアカシアに比べて乾燥に強いと考えられ,この地域の造林樹種として高い適性をもつと考えられた。
短報
  • 谷脇 徹
    2008 年 90 巻 4 号 p. 253-256
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    マツノマダラカミキリの蛹室内温湿度環境を調べるため,人工蛹室を内蔵したマツ材線虫病被害丸太を直射日光の当たる裸地および日陰の林内に設置し,それぞれの場所での人工蛹室内と外気の気温および湿度を測定した。平均気温,最低気温および曇天日の最高気温に丸太の設置場所や人工蛹室内外による違いはみられなかったが,晴天日の日中には裸地の人工蛹室内気温は高温になりやすく,最高39.9ºCに達した。人工蛹室内湿度に日周変動はみられず,日数の経過に伴う丸太の乾燥により徐々に低下した。これらの結果をもとに,材内の温湿度環境がマツノマダラカミキリの羽化脱出に及ぼす影響について考察した。
  • 袴田 哲司, 加藤 公彦, 山本 茂弘
    2008 年 90 巻 4 号 p. 257-261
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    抵抗性程度の異なるクロマツ6家系について,マツノザイセンチュウを接種した3年生実生苗の組織の変性と個体の枯死との関係を明らかにした。蒸留水を処理したクロマツ切り枝では褐変の程度が小さかったが,マツノザイセンチュウを接種した切り枝は接種の3~8日後に褐変が大きく進行した。最終的には,接種した切り枝はすべて褐変し,マツノザイセンチュウに組織レベルで完全な抵抗性をもつ苗木は存在しなかった。切り枝が完全褐変に至る日数と苗木が枯死に至る日数との間には,1%水準で有意な正の相関(Spearmanの順位相関係数0.607)が認められた。これらの結果から,マツノザイセンチュウを接種した場合,組織の褐変が遅いクロマツ実生苗は枯死が遅い傾向にあり,組織の抵抗性は個体の抵抗性に関与していると推察された。
  • 市川 裕子, 落合 博貴
    2008 年 90 巻 4 号 p. 262-266
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    森林斜面の濁水ろ過機能を評価するために,落葉と森林土壌を模した透水性のスポンジを用いた水路実験を行った。水路通過によって濁水濃度が減少する割合は,それまでに斜面に蓄積された浮遊土砂の量が増すに従って,ほぼ直線的に減少した。濁水ろ過が地表面と土壌内でそれぞれ起きると考えると,地表面における濁水ろ過機能は,勾配とリターの有無に影響され,流入する土砂濃度や土壌と見なしたスポンジの初期透水係数には影響されなかった。土壌と見なしたスポンジ内での濁水ろ過機能は,リターの有無等の地表の状態には影響されず,スポンジの初期透水係数のみに影響された。地表面においては,リターがある場合の方がない場合に比べて限界捕捉土砂量が2倍近くなったことから,森林斜面の濁水ろ過機能には,土壌のみならずリターも大きな役割を果たしていることが明らかとなった。
総説
  • 田中 伸彦
    2008 年 90 巻 4 号 p. 267-282
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    戦後日本における森林に関わる観光レクリエーション研究を時系列的にまとめ,1970年代までに着手された研究トピックを考察した。その結果,日本では戦後しばらく観光レクリエーションに関わる林学分野の研究は散発的にしかみられなかったが,(1)1960年代後半に自然休養林を対象にした研究が行われたことをきっかけにまとまった研究が行われ始めたことを明らかにした。そして,その後研究テーマは広がりをみせ,(2) 山村地域の総合的土地利用を視野に入れた観光レクリエーションに関する研究,(3) 都市地域・都市住民の森林観光レクリエーションに関わる研究,(4)森林の観光レクリエーション機能に関わる多面的機能の研究,(5)森林の風致施業に関する研究,(6)森林観光レクリエーション地域の施設や備品に関わる研究,(7)観光レクリエーション機能の地理的解析・地帯区分などに関わる研究,(8)県民の森や森林公園などの運営管理に関わる研究,(9)観光レクリエーションを通じた地域活性化に関わる研究などが,1970年代までに開始されたことを明らかにし,その内容を概括した。
  • 吉田 茂二郎
    2008 年 90 巻 4 号 p. 283-290
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    現行の日本の森林資源に関する情報は,林野庁と各都道府県がそれぞれ管理する国有林と民有林の森林簿データを基礎とした森林簿システムによって算出されている。一方,1999年から日本全国の森林を対象とした森林資源モニタリング調査が林野庁と各都道府県の協力により実施されている。このモニタリング調査は,1995年のモントリオール・プロセス,サンチャゴ宣言で定められた基準と指標を満たすために計画され,これまでの森林簿システムとは全く異なる方法,すなわち全国を対象とした標本調査法(サンプリング理論)を基礎とした方法で実施されている。この論文では,日本で第二次世界大戦後から現在までに全国レベルで行われてきた森林調査が,どのような考え,目的および方法によって実施されてきたかについてとりまとめている。
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