日本森林学会誌
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90 巻, 6 号
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論文
  • 保坂 太郎, 尾張 敏章, 後藤 晋
    2008 年 90 巻 6 号 p. 357-363
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    北海道の針広混交林の主要樹種であるトドマツを対象に, 択伐天然林内での更新木の分布と立地環境との関係を検討した。林内の50調査区に計200コドラートを設定し, 当年生実生, 実生(≥2年生, H <30 cm), 稚樹(30≤H <130 cm), 幼樹(H ≥130 cm, DBH <5 cm)のトドマツ個体数を調査した。また立地環境として, ササ被覆率, トドマツ上木の胸高断面積合計, 林冠開空率, 斜面傾斜度, 斜面方位を測定した。当年生実生, 実生, 稚樹, 幼樹のha当たりの各平均個体数は4,800, 11,980, 805, 285であり, 実生-稚樹間で大きく減少した。ササ被覆率が低くトドマツ上木が多い立地環境ではすべての生育段階の更新木が多かった。一方, 実生以下のサイズは北東斜面に, 稚樹以上は南西斜面に多く, 生育段階により分布に適する立地環境は異なっていた。トドマツの後継樹を継続的に確保するためには, 実生の消失を抑えて稚樹以上のサイズに移行させる施業体系の確立が必要と考えられた。
  • 佐藤 輝明, 中田 誠
    2008 年 90 巻 6 号 p. 364-371
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    耕作放棄後約40年が経過し, 現在は森林になっている新潟県佐渡島の中山間地にある放棄棚田において, 森林の成立に関わる要因を調査した。本調査地では, コナラやクリを主とした樹木の侵入が棚田の放棄前後から始まり, その後20年くらいの間に徐々に進んでいた。放棄棚田における森林の成立には, 斜面位置による地下水位と, 棚田面・畦・法面といった微地形による土壌の水分環境が強く影響していた。斜面上側では地下水位が低いために土壌含水率が高くなく, 棚田面・畦・法面にともに樹木が生育していた。しかし, 斜面下側ほど地下水位が高いために棚田面の土壌含水率が高く, 樹木は過湿な土壌環境が緩和された畦や法面におもに生育し, それらによって林冠が閉鎖されていた。法面では傾斜が土壌含水率や樹木の生育に影響を与えていた。棚田の微地形間での樹種分布の違いには, 種子の散布様式や土壌の水分環境に対する生理的な耐性も関係していると考えられた。
  • —治山植物としての可能性の検討—
    長谷川 幹夫, 相浦 英春, 高橋 由佳, 吉田 俊也
    2008 年 90 巻 6 号 p. 372-377
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    ミヤマカワラハンノキの治山植物としての可能性を探るため, 成長と樹形を使用頻度の高いミヤマハンノキ・ヤマハンノキと比較しつつ検討した。豪雪地の山腹工施工地において, 3種の植栽木の樹高・樹冠直径を9∼18年間, ミヤマカワラハンノキとミヤマハンノキの萌芽幹の樹幹長と根元直径を18年間にわたって調査した。ミヤマカワラハンノキは他種に比較して樹高成長より樹冠の拡張を優先する傾向が強く, 植栽から3年後で樹高130cmに対し, 樹冠直径は110 cmに達した。ヤマハンノキが9年後までに雪圧害を受け衰退したのに対し, ミヤマカワラハンノキは被害が少なく施工地で優占していた。この違いは, ミヤマカワラハンノキが多くの萌芽幹をもち, 雪圧害を受けにくい樹形を形成することによるものと考えられた。ミヤマハンノキは両種の中間的な樹形であった。以上のことから, ミヤマカワラハンノキは豪雪地での治山植物として有用であると判断した。
  • —丹沢山地堂平地区のシカによる影響—
    若原 妙子, 石川 芳治, 白木 克繁, 戸田 浩人, 宮 貴大, 片岡 史子, 鈴木 雅一, 内山 佳美
    2008 年 90 巻 6 号 p. 378-385
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    神奈川県東丹沢の堂平地区では, ニホンジカ(Cervus nippon)の採食の影響でブナ林の林床植生が衰退し, 土壌侵食が山腹斜面で広範囲に進行している。林床植生被度の異なる3個の試験区画を設置し, 2004年7月から2006年12月まで土壌侵食量等を現地にて測定した。その結果, 林床植生被度が小さいほどリター堆積量は少なく, 土壌侵食量は増大し, 林床植生被覆面積率約1%の試験区画(被度小)の土壌侵食深は年間数mmにも達した。調査対象地ではブナ林のリターが林床に供給・堆積するが, リターは地表流や風で斜面下方に移動するとともに, 分解で減少し堆積量は季節変化する。そのため被度小では, リター堆積量の少ない夏期(7∼9月)は堆積量の多い春期(4∼6月)・秋期(10∼11月)に比べ雨水の表土層への浸透率が低下して地表流の流出率が増加し, 降雨量が同一でも土壌侵食量は増大した。夏期は降雨量が多く, 土壌侵食の大半は夏期に生じることが明らかとなった。
  • 橋本 徹, 三浦 覚, 池田 重人, 志知 幸治
    2008 年 90 巻 6 号 p. 386-390
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    土壌CO2フラックスの空間変動パターンとその要因を明らかにするために, 岩手県・安比高原のブナ二次林内に 35 m×35 mの調査区を設置し, その中で49カ所にチャンバーを埋め, 土壌CO2フラックスを測定した。調査区域内には土壌CO2フラックスの凹凸パターンがみられた(変動係数:15.8∼26.7)。立木位置・サイズで表される樹木地上部特性の指標でこれらの空間変動の約1割を説明できた。また, 土壌CO2フラックスの空間変動には土壌体積含水率と負の相関がみられた。一方, 土壌体積含水率は樹木地上部特性の指標と負の相関があった。これらの結果は, 森林内の土壌CO2フラックス空間変動に立木のサイズ・分布で表される林分構造が土壌体積含水率を通して間接的に影響している可能性を示唆する。
  • 江崎 功二郎
    2008 年 90 巻 6 号 p. 391-396
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    コナラ林およびミズナラ林においてフェニトロチオン乳剤(以下, MEP)をカシノナガキクイムシ成虫の発生前に1回, 地上から6mまで樹幹散布した。コナラ林の成虫発生密度は, ミズナラ林より5倍以上高かった。コナラ林において, イニシャルアタック防止率は散布後1∼3週間は100%であったが, 散布5週間後には50%に低下した。さらに, イニシャルアタック防止効果を示す未穿入木での♂捕獲数7頭以上は22回出現し, 20回は散布1∼5週間後に集中していた。また, マスアタック防止効果もこの期間示された。ミズナラ林において, イニシャルアタック防止率は散布5∼7週後まで100%であったが, それ以降は約80%に低下した。コナラ林において薬剤散布高までの穿入密度は無処理木より低く, 地上高0.5∼1.5 mの範囲で最も差が大きかった。これらのことより, MEPの樹幹散布はカシノナガキクイムシの穿入防止に有効で, MEPを1回散布すると, 3週間以上にわたり高い穿入防止効果を維持できることが明らかになった。
  • 原田 茜, 吉田 俊也, Resco de Dios V., 野口 麻穂子, 河原 輝彦
    2008 年 90 巻 6 号 p. 397-403
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    北海道北部の森林では, ササ地を森林化させるために掻き起こし施業が広く行われてきた。施業から6∼8年が経過した樹冠下の掻き起こし地を対象に, 9種の高木性樹種を対象として樹高成長量と生存率を調べ, それらに影響する要因(植生間の競争・促進効果)を明らかにした。成長量と生存率が高かったのはキハダとナナカマド, ともに低かったのはアカエゾマツであった。多くの樹種の成長は, 周囲の広葉樹または稚樹以外の下層植生の量から促進効果を受けていた。ただし, シラカンバについては, 施業後3∼5年目の時点では促進効果が認められていたものの, 今回の結果では競争効果に転じていた。一方, 生存率については, 多くの樹種について周囲の針葉樹による負の影響のみが認められた。密度または生存率の低かった多くの樹種に対して, 周囲のシラカンバやササの回復が負の要因として働いていないことから, 多様な樹種の定着を図るうえで, 除伐や下刈りの実行は, 少なくともこの段階では有効ではないと考えられた。
  • 釜田 淳志, 安藤 正規, 柴田 叡弌
    2008 年 90 巻 6 号 p. 404-410
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    大台ヶ原においてニホンジカによる樹木剥皮被害が激しいウラジロモミとトウヒを対象として, 45カ所のプロットを設置し, 樹木サイズによる剥皮頻度, 樹木部位(幹・根張り)での剥皮頻度と剥皮痕のサイズおよび以前の剥皮痕の存在位置と新しい剥皮の発生位置の関係という三つの観点から樹木剥皮様式を明らかにした。両種ともに, 樹木サイズによる剥皮の選択性はみられなかった。両種において, 幹よりも根張りでその剥皮痕の数は有意に多く, シカは幹よりも根張りを高頻度に剥皮していた。両種とも約10カ月間に発生した剥皮は, 以前の剥皮痕や角とぎ痕に隣接したものが大半であった。すなわち, シカは以前に剥皮された傷痕に隣接した部分を選択的に剥皮し, 徐々にその剥皮部位を広げていることが示唆された。
短報
  • 市原 恒一, 豊川 勝生, 松永 裕俊, 栢分 宏理
    2008 年 90 巻 6 号 p. 411-414
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    POMS(Profile of Mood States)により, 森林作業がボランティアの心理に与える影響について検討した。調査対象は, 鳥取県の森林ボランティアグループの下層間伐作業および学生による利用間伐作業である。作業が始まる直前と終了した直後にPOMS試験を行い, その変化量について分析した。その結果, 以下のことが明らかになった。日常的な運動習慣がある人や森林作業に慣れている人は, 森林作業によって有酸素運動特有のリフレッシュ効果やリラクゼーション効果を得る。一方, 森林作業に慣れていない人や日常的な運動習慣がない人は, 無理せずに自分のペースで作業を進めることができれば, これらの効果を得る可能性がある。来るべき高齢化社会において, 中高年の森林ボランティア作業による心身の健康維持および成長量が大きい健全な森林の造成が期待できる。
  • 濱田 洋平, 田中 正
    2008 年 90 巻 6 号 p. 415-419
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    土壌中に高濃度で存在するCO2は水質形成や風化作用に寄与する因子の一つであるが, 濃度測定のために土壌深層の空気を採取する簡易な手法が存在しなかった。そこで, 複数の深度において土壌空気の採取と地温の測定を同時に行うことができる測器を, 市販の安価な部材を用いて製作した。本測器を最大で5 mに達する厚い土層をもつ源流域斜面に適用した結果, 地温は典型的な季節変化を示したが, CO2濃度については夏季に地表面付近でピークに達し, 秋から冬にかけてピーク深度が下方へ移動する現象が観測された。本測器を用いることで, 土壌深層における特徴的なCO2動態とそれが地下水の水質や基岩の風化に及ぼす影響についての解明が進むことが期待される。
総説
  • 鍋嶋 絵里, 石井 弘明
    2008 年 90 巻 6 号 p. 420-430
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    樹高成長は, 樹種や立地条件に依存して変化し, ある高さ以上になると停止する。決定された最大樹高は, 光をめぐる資源獲得競争での優位性や群落の階層構造の発達, 森林の生産性を規定する要因として重要である。近年, 樹冠へアクセスするシステムや技術が発達し, 数十メートルにも及ぶ高木の樹冠における生理学的測定が可能となった。その結果, 土壌からの水輸送の限界による個葉光合成速度の低下や, 重力による水ポテンシャルの低下によるシュートや葉における細胞の伸長抑制などといった生理学的要因によって樹高成長が制限される可能性が示された。また理論研究や操作実験などから, 自重や風圧に対する力学的支持機能や老化による遺伝的な変化に関しては, 樹高成長の制限要因としての寄与は低いことが示唆されている。今後は樹高成長制限が天然林での遷移過程や個体間の相互作用, 群落の発達機構などにどのように影響しているかを明らかにすることで, 樹高成長の包括的な理解と森林の生産性予測などへの応用が可能になると考えられる。
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