日本森林学会誌
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91 巻, 4 号
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論文
  • 花岡 創, 袴田 康子, 向井 譲
    2009 年 91 巻 4 号 p. 239-245
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    近距離に分布するブナの母樹間において, 両親間距離と累積交配頻度との関係や花粉プールの対立遺伝子の豊富さ (allelic richness), 有効花粉親数に差異が生じるのかを調査した。本研究では, 互いに近接しているがわずかに環境の異なる6個体の母樹を調査対象とした。マイクロサテライト7遺伝子座を用いてそれらの母樹から採取した堅果由来の実生823個体の遺伝子型を決定し, 父性解析を行い, 花粉散布に関連するパラメータを算出した。父性解析の結果, 近距離で交配頻度が高くなる傾向が共通して観測されたが, 両親間距離に対する累積交配頻度の上昇傾向は母樹ごとに異なり, 4 haの調査プロット外からの花粉の移入率は15.7%から33.8%の間で変動した。花粉プールにおける対立遺伝子の豊富さの値は8.524から12.803と全母樹を通して同程度となったが, 有効花粉親数 (Nep) 値は2.941から16.340と大きく変動し, Nep値の低い母樹では不健全堅果の生産される割合が高かった。これらの結果から, 花粉散布のパターンや堅果充実率は近距離母樹間である程度一致するものの, 母樹の立地環境により変動する可能性が示された。
  • 平岡 裕一郎, 倉本 哲嗣, 岡村 政則, 大平 峰子, 谷口 亨, 藤澤 義武
    2009 年 91 巻 4 号 p. 246-252
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    (独) 森林総合研究所林木育種センター九州育種場と福岡県で選抜されたハゼノキ優良候補個体について, 9プライマーによる31のISSRマーカーと, 2プライマー対による26のAFLPマーカーの併用によるクローン識別を行った。供試した77個体のクローン識別の結果, 45クローンに分類され, そのうち主要在来品種と同一となった個体数は, 昭和福が9個体, 伊吉が24個体, 王が2個体であった。大矢野1号と鹿屋1号はISSR分析において同一のDNA型を示したが, AFLP分析では異なるDNA型を示し, この2個体は異なるクローンと判断された。これらのクローンの遺伝的類縁関係を把握するため, ISSR, AFLPおよびRAPD分析で得られた, 合計204マーカーの情報を基に, クラスター分析および主成分分析を行った。その結果, 大きく二つのクラスターに分かれたが, 分岐のブーツストラップ確率は高くなかった。また個体間の遺伝的関係と選抜地の地理的な関連性は見出されなかった。このことはハゼノキ栽培の普及に伴う, 人為的な移動や在来品種等に由来する実生個体の混在が要因と推察された。本研究結果は, ハゼノキの交雑育種を進める上での基礎情報となると考えられる。
  • 岸 洋一, 山内 聖史, 鈴木 明日香, 村田 健輔, 田ノ上 真司, 石坂 晃美, 谷脇 徹
    2009 年 91 巻 4 号 p. 253-258
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    東京農工大学府中キャンパスの3 ha (平地) と唐沢山演習林の1 ha (緩傾斜地) の樹林地において, 上層木の落雷被害を調査した。両調査林において, 主に樹皮に落雷痕跡 (外部痕跡) を持つ被雷木は114本あったが, それらは枯れずに生育を続けた。府中調査林において, 被雷木の本数率は調査木593本中の18%であり, 樹種別ではアカマツで52%と最高であった。 唐沢山調査林では, 33本を玉切り, 各木口面を調査した。落雷により黒く変色した年輪 (内部痕跡) はアカマツの62%, コナラの10%に確認されたが, ヒノキでは確認されなかった。 落雷外部と内部痕跡は内樹皮の繊維に沿って形成され, それらのほとんどは樹冠下の樹幹に観察された。落雷外部痕跡の14中13痕跡は落雷内部痕跡の真上の樹皮部にあったが, 1痕跡は癒傷組織の被覆に隠された。アカマツの13落雷内部痕跡の, 長さは平均2.2 (レンジは1∼4.5) m, 最大弧長は平均8 (レンジは4∼18) cm, 癒傷組織による巻き込み弧長は年0.1∼1.3 cmであった。 落雷内部痕跡周辺の腐朽は, コナラでのみ確認された。
  • 草野 僚一, 松永 孝治, 森口 喜成, 白石 進
    2009 年 91 巻 4 号 p. 259-265
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    クローンコンプレックスであるスギさし木品種シャカインについて, CAPS (cleaved amplified polymorphic sequences) マーカーを用いてクローン分析を行うとともに, 各構成クローンの樹幹特性 (真円性, 完満性, 樹幹形) と材質特性を調査し, 品種としての特性評価と今後のクローン管理について検討した。熊本県内の22年生から82年生のシャカイン8林分の220個体を調査した結果, 19クローンが出現し, 上位3クローンが全体の87.7%を占めた。標準伐期齢 (40年) に近い4林分における主要3クローンの諸特性について分散分析を行ったところ, 形状比, 最大矢高の位置およびFAKOPP値でクローン間に有意差が認められた。しかし, これらの差は実際の木材利用上, 区別して扱う必要がない程度のものであり, 主要3クローンを同一のものとして扱っても問題がないと考えられた。今後, シャカイン材の品質均一性を高めるためには, シャカインに内在するマイナークローンを採穂源から除去し, 主要3クローンからなるクローンコンプレックスに誘導していく必要があると考えられた。
  • 大平 峰子, 倉本 哲嗣, 藤澤 義武, 白石 進
    2009 年 91 巻 4 号 p. 266-276
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    クロマツのさし木による高品質で廉価なマツ材線虫病抵抗性苗の生産方式を確立するため, 抵抗性品種の実生苗を採穂台木として, 密閉ざし (ビニールハウス内および露地) とミストざしの生産性を比較した。その結果, 密閉ざしでは発根率が急激に上昇したため, 梅雨までに根系が十分発達して床替え活着率が高くなる傾向がみられた。また梅雨に床替えしたさし木苗は, 翌春に床替えした同齢のさし木苗より大きく成長することが明らかとなり, 育苗期間が1年短縮された。しかし, 露地での密閉ざしでは, 6月以降に発根率が上昇せず, 高温による障害を受けたと考えられた。また, 抵抗性規格苗1万本を生産するのに必要な経費を試算した結果, ビニールハウス内で密閉ざしを行い, 梅雨に床替えを行う生産方式が経済的に優れ, 現行の接種検定つき実生苗生産方式に比べ約10%の経費を削減できることが示された。
  • 山川 博美, 伊藤 哲, 作田 耕太郎, 溝上 展也, 中尾 登志雄
    2009 年 91 巻 4 号 p. 277-284
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    小面積皆伐による異齢林施業が下層植生の種組成およびその構造に及ぼす影響を解析した。下層植生は, 樹木の生育環境および生活形の違いや垂直的な構造の違いによって特徴付けられた七つのタイプに分類できた。下層植生の垂直的構造に着目すると, 複数の階層が同時に発達するタイプは少なく, 亜高木層が発達する箇所の多くで, 低木層および草本層が未発達であった。また, 分類された下層植生タイプのなかで, 種多様度および垂直的構造の発達度合いの両方をともに高く維持しているタイプは検出されなかった。特に, 40年生以下のパッチでは, 一つの下層植生タイプがパッチ内に優占しており, 単純な構造であった。したがって, 小面積皆伐による異齢林施業の実施は, 林齢の異なるパッチをモザイク的に配置することで, さまざまな種組成や構造の異なる下層植生タイプを林分内に分布させることができ, 林分全体として多様な種組成および構造の複雑さを維持していると評価できた。
短報
  • 稲葉 誠博, 林 拙郎, 沼本 晋也
    2009 年 91 巻 4 号 p. 285-289
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    流況曲線に基づいて規準流出量を設定した短期水収支法により, 森林総合研究所竜の口山森林理水試験地の1960年から1965年を対象に, 森林が衰退していた南谷と, 森林が健全であった北谷の日蒸発散量を算出した。その結果, 全対象期間を通して両流域の日蒸発散量が算出された。また, 1水年から22水年の異なる平均流況曲線を作成した場合, 日蒸発散量から得た年蒸発散量と流域水収支法による損失量との差は1.5%から3.2%であった。本解析法が森林衰退期を含む竜の口山理水試験地のデータにも適用できたことにより, 本解析法の汎用性の一端が示された。
  • 三浦 沙織, 森口 喜成, 平 英彰
    2009 年 91 巻 4 号 p. 290-294
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    新潟県で選抜されたスギ雄性不稔11個体の, 樹高, 胸高直径, 傾幹幅, 樹幹ヤング率などの諸形質や雪害の被害形態を調査し, 同一林分の可稔個体と比較した。雄性不稔個体が選抜された林分は典型的な不成績造林地で, 幹折れ, 根元割れ, 斜立・倒伏などの致命的な雪害が認められ, 樹高, 胸高直径, 立木密度は著しく小さかった。しかし, すべての形質および雪害の被害形態において, 雄性不稔個体と可稔個体との間に大きな違いは認められなかった。このことから, スギ雄性不稔性は花粉の形成過程に異常を生じるが, 成長などの他の形質においては可稔個体と変わらないことが示唆された。
  • 西尾 恵介, 兜森 早智, 菅原 泉, 上原 巌, 佐藤 明
    2009 年 91 巻 4 号 p. 295-298
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    オオバアサガラの果実の特徴, 発芽特性の解明をするため, 東京農業大学奥多摩演習林内に自生している約12年生のオオバアサガラの母樹から果実を採取し, 果実の精選, 発芽試験を行った。採取した果実をふるいにかけ, 夾雑物を除去した果実から得られた種子の充実率は59.0%であった。風選は充実率を高めることはできなかったが, シイナの除去効果は認められた。各種比重選を実施したが, 果実のほとんどが沈下しなかった。発芽試験では結実年に発芽力が認められ, 5カ月間低温湿層貯蔵したものも採取直後と同様の発芽率を示したが, 低温乾燥貯蔵では種子に活力は認められたものの発芽は認められなかった。
  • 早川 悟史, 上山 剛司, 林田 光祐
    2009 年 91 巻 4 号 p. 299-302
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/30
    ジャーナル フリー
    CCD カメラによって撮影した画像を用いて樹洞内部の深さの値を推定し, 内部容積を算出する方法を考案した。内径の異なる円筒状の模型を使って, 実際の模型の底面積に対する画像に写った底面の面積の比と円筒の内径との関係から, 樹洞内部の深さを推定する回帰式を得た。深さが実測可能な自然林の樹洞を対象にこの回帰式を用いて深さの推定値を算出し, 実測値に比べどの程度の差があるかを検証した。その結果, 19個中16個 (84.2%) が推定値よりも実測値の深さの方が深く, 推定値は実測値を過小評価していた。算出した内部容積についても実測値に比べ推定値は小さい値を示す傾向にあったが, この推定方法は大まかな内部容積の把握には有効であることが示唆された。
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