日本森林学会誌
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91 巻, 5 号
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論文
  • —2004年台風18号による北海道美唄市の例—
    佐藤 創, 鳥田 宏行, 真坂 一彦, 今 博計, 澁谷 正人
    2009 年 91 巻 5 号 p. 307-312
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    2004年台風18号により風倒被害を受けた, 北海道美唄市内の防風保安林の風倒要因を解析した。この台風による最大風速は21 m/sであった。調査を行った防風林はヨーロッパトウヒ, カラマツ, シラカンバ, ヤチダモ人工林である。防風林に21箇所の方形区を設定し, 各個体の胸高直径と「根返り」, 「幹折れ」, 「無被害」別の被害状況を記録した。また, 深さ別の土壌の硬さを簡易貫入試験機により測定した。さらに, 樹種別に風倒被害の異なる要因を知るために, 幹を側方に引き, 根返りを発生させる際の最大抵抗モーメントを測定した。数量化2類による解析の結果, カラマツが最も被害を受けやすく, 次いでヨーロッパトウヒ, シラカンバ, ヤチダモの順に風倒被害を受けにくくなった。胸高直径は30 cmをピークに被害を受けやすかった。被害の種類については, カラマツとシラカンバは根返りしやすく, ヨーロッパトウヒは幹折れしやすかった。土壌の硬さは被害にあまり影響していなかった。根返り抵抗モーメントはヤチダモ>シラカンバ≒カラマツ≒ヨーロッパトウヒとなり, 樹高や葉量の違いとともに, 樹種別の風倒被害の違いを引き起こす要因となっていると考えられた。
  • 曽根 晃一, 岩永 裕, 畑 邦彦
    2009 年 91 巻 5 号 p. 313-317
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    昆虫病原性糸状菌Beauveria bassianaを材から脱出直後のマツノマダラカミキリ成虫に感染させ, 野外のケージ内でクロマツ苗木とともに飼育し, 成虫の生存期間, 後食活動, および苗木の枯死率を調査し, B. bassianaによる成虫感染のマツ枯損防止効果を推定した。感染により, 成虫の1週間以内の死亡率が21%から55%に, 2週間以内の死亡率が43%から97%に増加し, 平均生存期間は36.5日から7.5日に短縮された。実験開始後1週間以内に後食を停止した成虫の割合は38%から92%に増加し, 実験を通して後食された供試木の割合 (後食率) は81%から61%へ, 供試成虫の後食面積は1/10以下に減少した。その結果, 供試木の枯死率は77%から51%へ低下した。ところが, 実験開始後1週目の供試木の後食率や枯死率の著しい低下はみられなかった。以上のことから, B. bassianaによる成虫感染は, 成虫の生存期間や後食期間の短縮と後食活動の抑制を通してマツの枯死をある程度抑制しうるが, 感染の効果はすぐには現れないので, マツノマダラカミキリ成虫からのマツノザイセンチュウの離脱が成虫の脱出後早くから生じる地域では, 効果は大きくないと考えられた。
  • —福島県と岐阜県における事例—
    三浦 真弘, 野村 考宏, 河崎 久男, 藤澤 義武
    2009 年 91 巻 5 号 p. 318-325
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    スギには日本全国に七つの種苗配布区域があり, 福島県と岐阜県には, 第二, 三区の二つの配布区域が県内に存在する。われわれは, 同一県内の配布区域外へ種苗を配布した場合の妥当性を検討するため, 福島, 岐阜の両県について, 両配布区域の一般次代検定林に植栽された精英樹クローンの生存率と樹高のデータを用い, 産地の生存率および樹高の解析を行った。遺伝子型と環境の交互作用において, 福島県の生存率についてのみ有意差が認められ, 福島県の樹高, 岐阜県の生存率および樹高については有意差が認められなかった。積雪に対する生存率と樹高の相関において, 福島県の二区産クローンでは相関がなかったが, 福島県の三区産クローンの一部および岐阜県の二, 三区産クローンの一部では有意な負の相関が認められた。今回の結果より, 福島県と岐阜県における積雪に対するクローンの反応は異なり, 林業種苗法に基づく林業種苗の配布に関する規制は, 福島県では適切であるが, 岐阜県では必ずしも適切でないことが示唆された。
  • 伊藤 拓弥, 松英 恵吾, 内藤 健司
    2009 年 91 巻 5 号 p. 326-334
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は, 森林資源量推定と林分管理システムへの応用を目的として, LiDARデータによるスギ, ヒノキ単木の樹冠形状の再現性, 樹冠表面積の推定精度を検証した。検証では, まず解析対象木をLiDARにより計測した後伐倒し, 樹冠を詳細に計測した。計測結果からワイヤーフレームモデルを作成し, 数量的, 視覚的に再現性を検証した。また, 樹冠の再現性に対する本数密度の影響を考慮するため, 本数密度の異なる林分を解析対象地とした。検証の結果, スギ, ヒノキの樹冠をLiDARにより再現することが可能であることがわかった。スギに比べヒノキにおける樹冠の再現精度は低かったが, これはスギの樹冠形状が円錐形に近いのに対し, ヒノキの樹冠は円筒形をしていることが原因である。また, 被圧木等下層木が抽出されなかったが, 優勢木は抽出可能で, LiDARにより単木の集合としての林分を再現することが可能であることがわかった。
  • 松永 孝治, 大平 峰子, 倉本 哲嗣
    2009 年 91 巻 5 号 p. 335-343
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    効率的なクロマツさし木苗の生産方法を確立するため, 二つの実験を行った。まずさし木発根性に及ぼす穂のサイズの影響を調べるため, 5家系の5∼6年生クロマツ採穂台木各1個体から穂を採取してさし付けた。その結果, 穂が長いほど, また穂の直径が太いほど発根性が低下する傾向があった。次に, 採穂台木の剪定後に得られる萌芽枝数とそのサイズに影響する要因を明らかにするために, 5家系各3個体の4年生クロマツ採穂台木について, 剪定した枝とそこから発生した萌芽枝数とサイズの関係を調べた。その結果, 剪定枝あたりの萌芽枝数は剪定枝上で萌芽枝が発生している部位 (萌芽帯) の長さと剪定枝の直径, 萌芽枝のサイズは剪定枝の直径に強く影響された。また分散分析の結果, 萌芽枝数, 剪定枝の直径および萌芽帯の長さは家系間に有意差があった。これらの結果は家系の選抜により萌芽枝数の改良が可能であることを示唆した。
短報
  • 渡邉 次郎, 小澤 創, 宮本 尚子, 壽田 智久, 蛭田 利秀, 今井 辰雄, 高橋 誠
    2009 年 91 巻 5 号 p. 344-347
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    さし木が困難な高齢なブナで, 当年生シュートを用い, さし木増殖を検討した。平均胸高直径が75.6 cmの7個体から穂木を採取した。採穂したシュートは, 4個体では展葉後シュート伸長が終わっていたが, 他の3個体では展葉後シュートは伸長が完全に終了していなかった。乾燥に配慮して穂を運搬後, 48時間流水に浸漬させ, 24時間オキシベロン液剤で浸漬処理した。伸長が未完了であったシュートはすべてさし付け前に枯れ, さし穂として適さなかった。さし床を通気性不織布と遮光率70%の黒色寒冷紗で覆うことによって, 育成期間のさし床の平均気温は24.1ºC, 平均湿度は97.9%となり, 高湿度に維持された。さし付けた穂94本中, 40.4%が発根し, 41.5%でカルスが形成されたことから, 本手法を用いることによって, これまでにない高い発根率が得られ, 高齢なブナでのさし木増殖が可能であることが示された。
  • 大平 峰子, 松永 孝治, 倉本 哲嗣, 白石 進
    2009 年 91 巻 5 号 p. 348-353
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    マツ材線虫病抵抗性クロマツのさし木の発根率を向上させるため, 抵抗性クロマツ5家系の実生由来の7年生採穂台木から得たさし穂に, 異なる濃度のIBA, NAAおよびウニコナゾール-Pを単独および併用で処理し, 発根に及ぼす影響を検討した。さし穂を0∼10,000 mg/LのIBAあるいはNAA水溶液で処理した結果, 全家系を込みにした平均発根率は5,000 mg/L IBAの処理で最も高かった。0∼100 mg/L ウニコナゾール-Pの単独の処理は発根をほとんど促進しなかったが, 5,000 mg/L IBAと100 mg/L ウニコナゾール-Pの処理を併用すると, 5,000 mg/L IBA単独の処理より有意に発根率が高くなった。この処理によって発根性の低い家系でも発根率が向上する傾向がみられ, 両者の併用処理はクロマツのさし木の発根促進に有効な方法であるといえる。
  • 加藤 珠理, 石川 啓明, 太田 泰臣, 服部(小川) 紗代子, 向井 譲
    2009 年 91 巻 5 号 p. 354-359
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    ソメイヨシノのような園芸品種の大規模植栽はサクラ野生種の遺伝子撹乱を引き起こす可能性がある。本研究ではソメイヨシノからサクラ野生種への遺伝子流動を調べるため, 自家不和合性 (S) 遺伝子の高い多型性に注目して, ソメイヨシノ由来のS対立遺伝子を検出する遺伝マーカーを開発した。サクラ野生種個体から採取した種子を分析したところ, サクラ野生種個体の中にソメイヨシノと同じS対立遺伝子をもつ個体が存在していたため, 開発した遺伝マーカーだけではそれらの個体とソメイヨシノに由来するS対立遺伝子を区別できなかった。しかしながら, SSR分析を組み合わせることでソメイヨシノ由来のS対立遺伝子を判別することは可能であり, 開発した遺伝マーカーとSSRマーカーを併用することはソメイヨシノ由来のゲノムの拡散パターンを調べる上で有効な手段であると考えられる。
  • 能勢 美峰, 白石 進, 河合(宗原) 慶恵, 河崎 久男, 川崎 圭造
    2009 年 91 巻 5 号 p. 360-365
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    ザオウカラマツの純系保存を行うにあたって, 信頼性の高い管理技術としてSNPマーカーの開発を行った。これまでの研究で得られたザオウカラマツあるいはニホンカラマツのいずれかで特異的に増幅される17のRAPDフラグメントのシークエンス情報をもとに, プライマー対を設計した。これらを用いてザオウカラマツとニホンカラマツのフラグメントを増幅, シークエンスを行った。得られた塩基配列情報から, ザオウカラマツに特異性の高いSNPを探索し, これらをSNPマーカーとした。本研究において開発した二つのSNPマーカーと既往の三つのSCARマーカーを用いた場合, 危険率 (誤識別の可能性) 2.28×10−4で純系ザオウカラマツと雑種 (ザオウカラマツ×ニホンカラマツ) を識別することが可能になった。これら五つのDNAマーカーを用いて現地外保存されている現地ザオウカラマツ由来の子供群294個体の純系鑑定を行ったところ, すべての個体が純粋なザオウカラマツであった。
  • —切り竹における吸水量と樹液流量の比較—
    小野澤 郁佳, 久米 朋宣, 小松 光, 鶴田 健二, 大槻 恭一
    2009 年 91 巻 5 号 p. 366-370
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    林分蒸散量の算定において樹液流計測は有力な手法だが, 竹に樹液流計測が適用可能であるかは明らかでなかった。本研究では竹林蒸散量算定の第一歩として, 樹液流計測による竹の個体レベルでの蒸散量の算出方法の確立を目的とし, モウソウチクにおいて自作の長さ1 cmのGranierセンサーによる樹液流計測, 切り竹による吸水量計測を行った。その結果, 自作センサーにより桿内の水の上昇 (以下, 樹液流と呼ぶ) の検出が可能であり, 計測された樹液流と吸水量の時系列変化は良好に対応した。量的には, 従来の樹液流速換算式によって計算される単木あたりの樹液流量が吸水量より過小となることが示され, 新たな樹液流速換算式を提示した。以上より, 樹液流計測によるモウソウチクの個体レベルでの蒸散量の測定が可能となった。
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