日本森林学会誌
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92 巻, 3 号
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論文
  • 鳥田 宏行, 渋谷 正人, 小泉 章夫
    2010 年 92 巻 3 号 p. 127-133
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    本研究では, カラマツの人工林の長伐期化に対する風害リスクを検討するため, 植栽密度や本数密度管理の違いが強風に対する抵抗性へ及ぼす影響を, 力学モデルによって評価した。抵抗性の評価には, 風害 (幹折れ, 根返り) が発生するときの高度10 mにおける風速を限界風速とし, この値を指標に検討を行った。その結果, 被害形態は, すべて根返りとなった。全体的な傾向として, 施業タイプとしては, 中庸仕立て (収量比数0.7∼0.8) よりも疎仕立て (収量比数0.6∼0.7) タイプが強風に対する抵抗性が高く, 疎植タイプで抵抗性が高いことが示された。また, すべての施業タイプにおいて, 強風に対する抵抗性は経年変化を示し, 成長過程の一時期 (林齢20∼30年) に低下傾向を示すが, その後, 樹高成長速度が鈍るころから抵抗性が回復する傾向が示唆された。強風に対する抵抗性がもっとも低下する時期は, 樹高成長が旺盛な時期でもあり, 形状比がもっとも大きくなる時期とほぼ一致した。本研究では, 施業タイプの差異が抵抗性に及ぼす影響は, 地位指数が高い立地で大きい傾向が示された。
  • 松本 武
    2010 年 92 巻 3 号 p. 134-138
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    ヒノキ間伐林分において, 残存2立木間でかかり木になった場合の接触抵抗力を測定した。接触抵抗力の平均値は1.0 kNであり, 過密化した林分においては立木と立木との間で発生したかかり木の処理には大きな力が必要となることが明らかとなった。かかり木のサイズは接触抵抗力に影響せず, かかり木の角度は強く影響した。かかり木が通過する残存2立木の間隔は接触抵抗力に大きく影響し, 残存2立木の間隔が狭くなるにつれ接触抵抗力はべき乗的に増加した。
  • 井田 秀行, 庄司 貴弘, 後藤 彩, 池田 千加, 土本 俊和
    2010 年 92 巻 3 号 p. 139-144
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    日本有数の豪雪地帯である長野県飯山市の農村において, 民家の建材と近隣植生との関連性を, それぞれの構成樹種の対照により検証した。築後少なくとも115年以上の民家1棟に使用されていた構造材 (スギ, ブナ, コナラ属, ケヤキ; 合計302部材, 総体積15.75 m3) のうち, 使用部材数, 体積共にスギが最大を示し (226部材, 9.49 m3), 1部材当たりの体積でみるとブナが最大となった (1,005 cm3/部材) 。近接する里山林は現在, おもにブナ二次林, コナラ-ミズナラ二次林, スギ植林地で構成され, 建材の樹種組成と類似していた。ブナ林分に認められたさまざまな発達段階からは, かつてのブナの持続的利用の形跡が示唆された。なかでも, 直径60 cm以上, 樹高24 m以上という大きなブナが優占する林分は, 水源林としての機能に加え, 建材を得る場としての役割をもっていた可能性がある。また, ブナが主要構造材に多用されていたことは, 大径木としてブナが優占林分を形成しやすいという豪雪地帯特有の風土にかなった建築様式であると考えられた。
  • 平岡 真合乃, 恩田 裕一, 加藤 弘亮, 水垣 滋, 五味 高志, 南光 一樹
    2010 年 92 巻 3 号 p. 145-150
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    ヒノキ人工林における地表の被覆物が浸透能に及ぼす影響を明らかにするために, 急峻な斜面の14地点で振動ノズル式散水装置による浸透能試験を行って最大最終浸透能を測定し, 下層植生をはじめとする地表の被覆物との間で回帰分析を行った。得られた最大最終浸透能は5∼322 mm h−1 であり, 最大最終浸透能と下層植生量, 植被率との間に有意な正の線形関係が認められた。植被率が50% を下回ると最大最終浸透能は45 mm h−1以下と低くなり, 自然降雨下においてホートン型地表流の発生する可能性の高いことが示された。また, 植被率をブラウン-ブランケの被度指標で読み替えた場合でも, 被度3以下で最大最終浸透能が急激に低下することが示された。本研究の結果から, 急峻なヒノキ林斜面では下層植生で被覆された地表面で高い浸透能を維持できること, また下層植生の被度区分を浸透能の指標とできる可能性が示唆された。したがって, ホートン型地表流を抑制する観点から浸透能の目標値を設定し, 下層植生の被度調査によってヒノキ林の荒廃度を評価できる可能性があり, 下層植生を指標とした水土保全機能の評価に基づいた, 施業計画の策定につながることが期待できる。
  • 宮下 智弘, 中田 了五
    2010 年 92 巻 3 号 p. 151-156
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    スギの根元曲がりに対してダイアレル分析を行った。5親を供試した四つの自殖抜きフルダイアレル交配セットを対象に, 林齢10年次の調査データを用いて解析した。分散分析の結果, 三つのデータセットにおいて一般組合せ能力 (GCA) は交配親間に有意差が認められたが, すべてのデータセットにおいて特定組合せ能力は交配家系間に有意差が認められなかった。各交配家系について, 検定林平均値と両親のGCAの関係を検討した結果, GCAに有意差が認められた三つのデータセットにおいて, 各交配家系の平均値は両親のGCAから高い精度で推定できた。分散分析の結果, 一般組合せの正逆交配間差はすべてのデータセットに認められなかった。さらに, 交配親ごとに検定林平均値から算出した雌親平均値と雄親平均値がほぼ同じ値を示し, その関係が切片0, 傾き1の回帰直線で表されたことからも, 正逆交配間差はほとんど存在しないと考えられた。
短報
  • 山川 博美, 池淵 光葉, 伊藤 哲, 井藤 宏香, 平田 令子
    2010 年 92 巻 3 号 p. 157-161
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    急傾斜地の照葉樹林におけるネズミによる堅果の散布に与える地形の影響を明らかにするため, 林内の頂部斜面および下部斜面に磁石を挿入した堅果を設置し, 金属探知機を用いて堅果の散布先を調査した。多くの堅果は, 設置場所より斜面下方に散布された。また, 頂部斜面では設置場所から半径14 m程度の範囲に分散して散布され, 下部斜面では4 m程度の範囲に集中して散布されていた。林内の階層構造や地表の状態は, 下部斜面で設置場所より斜面下方に岩の露出や谷部が多く分布していた。これらの結果から, 急傾斜地でのネズミによる堅果散布の大多数は, 傾斜によって斜面上方への散布を制限され, さらに下部斜面では谷によって斜面下方および対岸への散布を制限されると考えられた。しかしながら, 少数の堅果は, 下部斜面から斜面上方へ散布されており, 単年での散布確率は低いが, 下部斜面に生育する樹木の堅果散布者としてのネズミの重要性が示唆された。
  • 松井 哲哉, 飯田 滋生, 河原 孝行, 並川 寛司, 平川 浩文
    2010 年 92 巻 3 号 p. 162-166
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。
  • —三重県度会郡大紀町における事例—
    高崎 洋子, 竹中 千里, 吉田 智弘
    2010 年 92 巻 3 号 p. 167-170
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    ヒノキ人工林において, 間伐が林床の土壌動物相に与える影響を調査した。間伐され下層植生の繁茂する林分 (間伐区) と, 間伐がほとんど行われず下層植生の衰退した林分 (間伐遅れ区) において, 土壌動物の群集構成と個体数密度を比較した。両調査区のリター層と土壌層からサンプルを採取し, ツルグレン装置により土壌動物を抽出・分類した。その結果, 土壌動物の分類群数は, リター層・土壌層ともに間伐区よりも間伐遅れ区で有意に少なかった。また, 個体数で優占していたササラダニ亜目 (Oribatida), トビムシ目 (Collembola) の個体数密度は, リター層・土壌層ともに間伐区よりも間伐遅れ区で有意に低かった。以上の結果より, ヒノキ人工林では, 間伐施業の不足が土壌動物の群集構成を単純化させ, 個体数密度を低下させる可能性が示された。
  • 大野 泰宏, 落合 博貴
    2010 年 92 巻 3 号 p. 171-175
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    近年, 森林土壌表層部の落葉層や根系が高密度に存する層等を「バイオマット」と呼んで区別する考え方が提唱されている。一方, 森林土壌には土砂流出防止機能の一環として流入した濁水を浄化する働き (濁水ろ過機能) があるとされているが, 当該機能の評価にあたっては, この透水性に富むバイオマットの果たす役割を正しく評価することが重要であると考えられる。しかし, そのような研究はこれまで行われていないため, 今回, バイオマットがもつ濁水ろ過機能の定量的評価に向け, 当該機能に影響を及ぼす因子が何であるのかを把握するための予備実験を行った。その結果, バイオマットがもつ濁水ろ過機能と単位面積あたりのバイオマットの量は正の相関関係にあること等が確認された。
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