日本森林学会誌
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92 巻, 6 号
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論文
  • 坂本 朋美, 芝 正己
    2010 年 92 巻 6 号 p. 285-291
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    日本は世界有数のCoC認証件数を誇っており, 現在その中心は紙製品業界である。本研究では, 紙製品業界に並ぶ木材消費部門である建設業界における, 森林認証製品をめぐる現状と展望について調査した。2009年6月に建設業者を対象にアンケートを送付し, 東京都, 大阪府, 愛知県に所在する非認証企業203社, および全国のCoC認証企業39社から回答を得た。非認証企業の間でも環境に配慮した木材調達の動きは拡大しつつあるがその対象は主にリサイクル材や間伐材であり, 森林認証や関連諸制度への認識も低かったことからこうした動きが森林認証製品の需要拡大にただちにつながる可能性は低いことが示唆された。非認証企業に比べ認証企業は, 環境に配慮した木材利用の重要性を高く評価していること, 木材調達の際に環境面を重視していること, 木材の選定に関して自社が強い決定権を有しており, 認証取得以前から木材のサプライチェーンをよく把握していたこと等が確認された。業界における認証製品の普及には, 情報提供システムの改善や供給体制の確立が急務である。
短報
  • 新山 馨, 小川 みふゆ, 九島 宏道, 高橋 和規, 佐藤 保, 酒井 武, 田内 裕之
    2010 年 92 巻 6 号 p. 292-296
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    人工林の「広葉樹林化」を検討するため, 日本語で1978∼2006年に発行された広葉樹関連文献を, 林業・林産関係国内文献データベース (FOLIS) で検索した。研究上の必要性を評価し, S, A, B, Cのランク付けを行った。また県別の文献数の違いやキーワードの時代変遷を国内の施業の歴史とあわせて検討した。検索は「広葉樹」と, 「間伐」, 「除伐」, 「人工林」などを組み合わせ, 総書誌数185誌, 総文献数648件を抽出した。S評価の文献は14件, A評価の文献は59件だった。文献は岐阜県 (16件), 宮崎県 (15件) で多かった。文献内容は時代により変遷し, 「広葉樹施業」や「天然林施業」といったキーワードが減少する一方で, 「多様性」をキーワードに含む論文が増加してきている。「不成績造林」や「間伐」をキーワードとする論文は, いくつかのピークを示しながら, 1980年代から連続的に発表されてきた。「広葉樹林化」は新しい概念であり, これまでの研究を十分に参考にしながら慎重に取り組む必要がある。
特集 スギ花粉発生源対策のために
巻頭言
論文
  • 金指 達郎, 鈴木 基雄
    2010 年 92 巻 6 号 p. 298-303
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    著者らが開発したスギ花粉飛散予報モデルを応用して, 首都圏への寄与度の高いスギ花粉放出源の推定を試みた。評価の指標として, 花粉飛散期間中の平均花粉濃度と, 花粉濃度と当該地域の人口の積(花粉暴露指標とする) の二つを用いた。花粉放出源を含まない狭いターゲット領域 (東京駅を中心とした半径10kmの円内, 領域内人口500万人強) を対象にした場合にはいずれの指標でも類似した結果であった。一方, 広域首都圏 (東西約90km, 南北約80km, 領域内人口約3,000万人) を対象とした場合には花粉濃度を指標に用いると, その内部にある花粉放出源メッシュの効果が非常に強く推定された。また, 推定対象年によって推定結果が異なった。そのため, 花粉放出源対策地域の優先順位選定にこの手法を適用する際には, 複数年の結果を総合的に判断することが重要であると考えられた。
総説
  • 篠原 健司
    2010 年 92 巻 6 号 p. 304-309
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    スギは我が国を代表する林業樹種である。しかし, スギ花粉症患者が激増し, 日本の社会問題になっている。全国的な疫学調査では, 花粉症の発症率は国民の25%を上回っているという。自然条件下では, スギの花芽分化は6∼8月に開始し, 7∼9月には未分化の雄花が観察できる。スギが花を咲かせ花粉を飛ばすまでには通常20年以上かかるが, 植物ホルモンの一種であるジベレリンで処理すると, 1年生の芽生えでも花芽形成が確実に誘導できる。しかし, スギの雄花形成や花粉形成についてはあまり理解されていない。最近, 森林総合研究所はスギ雄花の完全長cDNAを10,463種類収集している。この完全長cDNAには, 実験植物シロイヌナズナの雄ずいや花粉で特異的に発現する遺伝子が含まれ, その中には新規のアレルゲン遺伝子, 転写因子として働くMADSボックス遺伝子や花成制御遺伝子, 雄性不稔遺伝子など重要な機能をもつ遺伝子が多数存在した。これらの遺伝子は雄花の発達過程を理解するための重要な武器になる。本総説では, スギ雄花形成の機構解明に向けた研究の現状, ジベレリン生合成阻害剤を用いたスギ雄花形成の抑制技術の開発, 遺伝子組換え技術を用いたスギの花成制御技術や不稔化誘導技術の開発について紹介する。
  • 清野 嘉之
    2010 年 92 巻 6 号 p. 310-315
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    スギ花粉に関する文献をレビューし, スギ林の花粉生産量を削減するためにどのような森林管理を行ったら良いか, 長期的な予測のもとに森林経営者のための指針 (案) を作成した。都府県を単位とすると, 土地面積当たりの花粉生産量の多い都府県でスギ花粉症有病率が高い傾向があることから, 花粉症対策のための森林管理の目標はスギ林面積の削減ではなく, 花粉生産量の多いスギの削減とするのが合理的である。間伐や枝打ちに大きな花粉生産量削減効果は期待できない。モデルの予測結果によると, スギ林の伐期短縮やスギ花粉を生産しない樹種への転換には大きな削減効果を期待できる。気候変化シナリオが予測する21世紀の夏の気温上昇と, 気候変化を緩和するための国策の一つとして全国的に実施されている人工林間伐の影響とにより, 花粉生産量が1割程度増加する可能性が指摘されている。この増分の削減は, 気候変化による悪影響への対策の目標になる。増分対策としてはスギ林の皆伐が有効であり, 皆伐を増やすことにより増分の相殺時期を早められる。また, 花粉生産量の多いスギ林を優先的に皆伐し, 花粉生産量の多いスギの再造林を減らすことによっても時期を早められる。
  • 斎藤 真己
    2010 年 92 巻 6 号 p. 316-323
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    スギ花粉症に対する育種的な対策として, 着花量の少ない少花粉, 花粉中のCry j 1量が少ない低花粉アレルゲン性, 花粉を生産しない雄性不稔性に着目した。着花量の少ないスギ精英樹は全国で135クローン選抜された。この性質は複数箇所の検定林で再現性が確認され, 親子回帰による遺伝率も0.34と比較的高い値であった。花粉中のCry j 1量を全国の精英樹420クローンについて調査した結果, 0.38∼10.23 pg/個と大きな変異を示し, その狭義の遺伝率は, 1.0と高い値であった。このことから次世代での選抜効果が顕著に現れると期待された。無花粉になる雄性不稔性は一対の劣性遺伝子支配であることが明らかになり, その遺伝子をヘテロ型で保有した精英樹が4クローン発見された。優良な無花粉スギの作出に向けて, これら精英樹同士の交配家系が育成されている。スギ花粉症対策品種は, 現在, さし木等によるクローン増殖やミニチュア採種園による種子生産が図られており, これらを上手く活用することによって従来の木材生産性を損なうことなく, 花粉飛散量の軽減に繋がると考えられた。
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