日本森林学会誌
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93 巻, 3 号
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論文
  • 斎藤 琢, 玉川 一郎, 村岡 裕由
    2011 年 93 巻 3 号 p. 105-112
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    冷温帯常緑針葉樹林を対象とした渦相関法による3年間に渡る長期連続CO2フラックス計測データを用いて, CO2貯留変化量 (Fs) の有無が生態系呼吸量 (RE), 総一次生産量 (GPP), 純生態系交換量 (NEE) の推定にどの程度誤差を生じさせるかを評価し, Fsの算出に必要なCO2濃度プロファイル計測の必要性について議論した。RE, GPPFsなしで推定した場合, Fsを考慮した“対照値”と比較して無降雪期間 (5∼10月) で, 年積算値に対して10%以上に達する大きな過小評価が生じた。これらの過小評価のおもな原因は温度-夜間NEE回帰式の外挿によって得られた日中の呼吸量であった。渦相関法計測高度におけるCO2濃度変化から得られる簡易CO2貯留変化量 (Fsc) を考慮した場合, RE, GPPは推定精度が大幅に改善され, RE, GPPの誤差は年積算値の2.0%以下となった。また, Fscを考慮したRE, GPP, NEEの季節変化, 経年変化は“対照値”の季節変化, 経年変化とよく一致した。これらの結果からFsFscがよく一致するサイトであればCO2濃度プロファイル計測なしであっても, サイト間比較研究に耐えうる精度で炭素収支量の推定を行える可能性が示唆された。
  • 守口 海, 植木 達人, 井上 裕
    2011 年 93 巻 3 号 p. 113-122
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    KhilmiのGompertz型自己間引き曲線は林分の自己間引き過程を記述するモデルであるが, その自己間引き係数の値を直接的に求めるのは一般的に困難である。そこで本論では既存の資料を用いて自己間引き係数を推定する方法を考えた。まず林分密度管理図上に表現された自然枯死線を求めるときと同じ仮定からGompertz型自己間引き曲線の自己間引き係数の導出を試みた。求められた自己間引き係数は樹高成長曲線の係数のみと関係していた。樹高成長がGompertz式で表現される場合には樹高成長曲線の林齢の係数と等しく, 樹高成長がRichards式に従う場合も, ある仮定に基づけば林齢の係数に一致した。次にSpurrら, Usoltsevのデータを用いて適合性を検討した。成長曲線の変数を独立にして本数密度, 樹高を当てはめると係数間の関係は認められなかったが, 係数間の関係を等しいと仮定し, 値を固定して当てはめてもAICの大きな増加はみられなかった。最後に, 本論に従って国内の林分データにおける本数減少の予測結果を行い密度管理図上の自己間引き曲線 (只木モデル) と比較したところ, 同程度の精度が得られるものと考えられた。
短報
  • 加藤 正吾, 細井 和也, 川窪 伸光, 小見山 章
    2011 年 93 巻 3 号 p. 123-128
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    付着根型つる植物であるキヅタ (ウコギ科) の匍匐シュートの伸長方向と光環境の関係を実験的に解析した。匍匐シュートに傾度のある光環境条件を与えた場合, 10 mm以上伸長したすべてのシュートで, キヅタは負の光屈性を示した。また, その負の光屈性は, シュートの先端が水平方向と垂直方向の光強度が均一に低下するような空間をめざして伸長するように生じていた。シュートの伸長量は光量の減少にしたがって低下したが, 20 μmol/m2/sという弱光環境においても負の光屈性は生じていた。つまり, キヅタの匍匐シュートの負の光屈性は, 単なる強光を避ける反応ではなく, 三次元空間的な光環境で暗所方向へ伸長する反応であった。この負の光屈性は, つる植物が林床の不均一な光環境下で, 支持体として有効な樹木を匍匐シュートによって探索する際に, シュート先端が登攀開始点となる暗い樹木の根元に到達する有効な生態的特性であると考えられる。
  • 中井 亜理沙, 木佐貫 博光
    2011 年 93 巻 3 号 p. 129-132
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    河川沿いに生育するネコヤナギの生残と成長に及ぼす要因を明らかにするために, 長さ20 cmの1年生枝を河川沿いの砂礫堆に挿し木し, 挿し木苗の生残および生育期間終了時のシュート長, 植食者による食害の有無を調べた。地表面の冠水時間は植栽直後には挿し木苗の生残に負の効果を示したが, 3カ月後では正の効果を示した。苗の生残に対して昆虫害は正の効果を呈したが, ウサギ害は影響していなかった。萌芽性樹木に対する枝葉の食害は, 樹木の蒸散面積を減少させるため, 挿し木苗の生残に間接的に貢献するかもしれない。生育期間終了時のシュート長には冠水時間だけが正の影響を呈した。ネコヤナギ挿し木苗は, 初期では冠水時間の長い低比高の立地ほど生残が困難であるが, 3カ月後には冠水時間が長いほど生残と成長が促進されるものと考えられる。食害は, 河川沿いの立地に分布する萌芽能力の高い植物の生残を間接的に促進することと, 地表面の冠水時間が植物の生残に及ぼす影響は, 植物の成長の程度によって異なることが示唆される。
  • 佐野 哲也, 井 春夫, 吉田 貴紘
    2011 年 93 巻 3 号 p. 133-138
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    薪を利用して木質燃料加工用の生材を乾燥する場合の乾燥時間の目安を把握するために, 薪割り機で分割したヒノキとアラカシ生材を異なる分割サイズ (4, 8分割) や乾燥場所 (舗装の有無, 屋根の有無) で乾燥させ, その水分減少経過を比較した。ヒノキの方がアラカシより速く乾燥し, 含水率30% (乾量基準) に到達する日数は初期含水率約90%のヒノキが14∼80日, 初期含水率68.3∼78.3%のアラカシが30∼200日以上であった。乾燥場所別にみると未舗装土場で乾燥させた材の方が含水率30%に到達するのが遅く (ヒノキで80日, アラカシで200日以上), 舗装土場と屋内で早かった (ヒノキで14日, アラカシで40∼140日) 。分割サイズが乾燥経過に与える影響はアラカシの方が大きくなる傾向がみられた。雨にさらされる屋外での長期乾燥の効果は小さく, どの条件でも乾燥開始から1, 2カ月の乾燥が遅くなる時期を見計って乾燥を打ち切った方が効果的であると推察された。
  • 山田 浩雄, 久保田 正裕, 磯田 圭哉
    2011 年 93 巻 3 号 p. 139-142
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    クヌギ精英樹F1実生採種園の家系内選抜によって得られる改良効果の期待値と実現値について検討した。F1実生採種園は, クヌギ精英樹の自然交配F1実生苗22家系を用いて造成され, 4年次の樹高成長による50%の家系内選抜によって, 3.4%の改良効果が期待された。F2実生採種園は, 自然交配のF2実生苗6家系に改良効果を確認するための対照用F1実生苗6家系を加えて造成され, 5年次の樹高成長を比較した結果, 4.0%の改良効果が確認された。改良効果の期待値と実現値は良く一致し, F2実生家系集団の平均樹高はF1実生集団の平均樹高よりも有意に大きかった。クヌギの育種を行う上で, 実生採種園の家系内選抜による改良方法が有効であることが確認された。
総説
  • 田中 伸彦
    2011 年 93 巻 3 号 p. 143-156
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/31
    ジャーナル フリー
    1980年代から1990年代における森林に関わるわが国の観光レクリエーション (以下: レクと表記) 研究を, 文献データベース (FOLIS)を用いて収集し, 時系列的にとりまとめ, 研究トピック別に類型化を行った。その結果, 観光レクに関わる研究トピックを12に分類することができた。それらは, 1. 森林観光レクに関わる林野施策に関する研究, 2. 森林観光レクに関わる海外調査研究, 3. 自然の保全と森林観光レクに関わる研究, 4. 森林観光レク地の利用者に関する研究, 5. 森林観光レク地や施策の歴史的発展過程に関する研究, 6. 森林のもつ観光レク機能の評価に関する研究, 7. リゾートブーム下の森林観光レクに関する研究, 8. 所有者・管理者・地域住民などからみた観光レクに関する研究, 9. 公益的機能としての森林観光レク機能の経済評価研究, 10. 森林空間に対する心理的, 生理的な調査研究, 11. 森林に関わる観光レク種目に関する個別的研究, 12. 療養およびユニバーサルデザインに関する研究, であった。
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