日本森林学会誌
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94 巻, 2 号
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論文
  • —北海道の障害者施設を対象としたアンケート調査から—
    佐藤 孝弘, 比屋根 哲
    2012 年94 巻2 号 p. 59-67
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/06/14
    ジャーナル フリー
    森林での余暇活動の実施状況に関する知見を得るため, 北海道の障害者施設を対象としたアンケート調査結果を解析した。単純集計の結果によれば, 障害者施設は森林での余暇活動に高い関心を示し, 多くの施設が外出先に森林を選択していた。また, トイレや散策路などの設備を障害者にとって使いやすいものに改善することを求める意見が多かった。χ2検定の結果からは, 身体障害者や重複障害者がいる施設からは設備の改善が求められ, 知的障害者だけの施設からは森林体験のためのプログラムの充実が求められるなど, 障害の状況による森林での余暇活動に対する要望の違いが認められた。ノーマライゼーション思想の浸透, 余暇活動を通じた障害者の社会参加に向けた取り組みの顕在化, 森林浴の効用に関する情報の広まりを背景に, 障害者施設は森林を活用した余暇活動に期待を寄せている。今後, 障害者による森林を活用した余暇活動を促進するにはハード・ソフトの改善・充実と共に, 障害者福祉と森林林業, 両関係者による情報交換が必要不可欠である。
  • 小出 大, 持田 幸良
    2012 年94 巻2 号 p. 68-73
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/06/14
    ジャーナル フリー
    電子付録
    日本海側に比べて寡雪のため更新が不順とされる太平洋側のブナでも, 積雪が残る寒い地域であり, シカの影響が弱ければブナの更新は比較的順調と考えられる。そこで本研究は, 太平洋側におけるブナの更新を左右する要因の解明を目的とした。全国の太平洋側ブナ個体群における1 ha以上の面積での毎木調査データ (25箇所) を用いて, GLMMの総当り法を用いて最適モデルを選出した。解析の結果, 太平洋側のブナ幼木 (DBH<10 cm) 密度は, 最寒月平均気温と過去 (1979年) のシカ分布の有無の2変数で説明したモデルが最適モデルと判断された。当時シカがいなかった調査地では寒冷な場所ほどブナ幼木密度は高くなるのに対し, シカがいた調査地では寒冷地でも幼木密度は低かった。また温暖な調査地では過去のシカ分布によらず, 幼木密度は非常に低かった。ブナ幼木密度に対する気温変数の相関は, 夏季より冬季で高く, 降水量と最深積雪深, 親木 (>30 cm) 密度, シカ頭数密度では有意な相関はなかった。本研究から太平洋側ブナ個体群の更新は, 冬期の気温が低い場所で順調であるが, シカによってこの関係が一部で乱されていることが解明された。
  • 今村 直広, 田中 延亮, 大手 信人, 山本 博一
    2012 年94 巻2 号 p. 74-83
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/06/14
    ジャーナル フリー
    奥秩父の落葉広葉樹林の樹冠部における降水の移動に伴う溶存無機イオン物質の動態を調べるために, 同林分のブナ, イヌブナ, ツガの各1個体を対象にして, 主要無機イオン (Na+, Cl, SO42−, K+, Mg2+, Ca2+, H+, NH4+, NO3) の林外雨, 林内雨, 樹幹流による各沈着量を観測し, それらから求めた各個体の純林内雨沈着量の季節変化を検討した。樹冠における溶脱・吸収が無視できるとされる物質 (Na+, Cl, SO42−) の純林内雨沈着量の季節変化から, 各個体への乾性沈着量の季節変化のパターンは樹種によって大きく異なることが明らかとなった。また, ブナとイヌブナは, 林内雨や樹幹流によって樹冠下へ供給される1年間のK+の量がツガより多く, その原因は, 生育期におけるK+の活発な溶脱であると考えられた。常緑針葉樹であるツガの樹冠下に供給されるMg2+とCa2+とNO3の量は他の広葉樹2個体よりも大きかったが, その差は, 主に生育休止期におけるツガ樹冠への乾性沈着によりもたらされていると推察された。
  • 吉永 秀一郎, 伊藤 優子, 相澤 州平, 釣田 竜也
    2012 年94 巻2 号 p. 84-91
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/06/14
    ジャーナル フリー
    関東平野周縁に位置するいくつかの森林流域における渓流水の硝酸イオン (NO3) 濃度が, 日本各地の多くの森林流域と比較して特異的に高い傾向を示すことを明らかにするために, 茨城県南部において森林流域における渓流水のNO3濃度分布の特徴と地理的要因について解析した。関東平野周縁に位置する八郷地区 (東京都心より65∼80 km) と都心からより離れた城里地区 (東京都心より100∼120 km) を比較すると, 八郷地区では多くの流域で渓流水のNO3濃度が通年0.08 mmol L−1以上の高い値を示し, 城里地区における渓流水のNO3濃度よりも有意に高い傾向を示した。また, 都心からの距離の増加に応じて渓流水のNO3濃度が減少する傾向が認められた。林外降水による無機態窒素の流入負荷量は両地区間に顕著な差は認められないが, 樹冠通過降水による無機態窒素の流入負荷量は, 八郷地区では城里地区の2倍以上に達した。このことから東京近郊から移流する窒素化合物の乾性沈着の影響の違いが, 両地区の渓流水のNO3 濃度の違いとして現れている可能性が高い。
短報
  • Yuskianti Vivi, 管 蘭華, 後藤 栄治, Widyatmoko Anthonius YPBC, 白石 進
    2012 年94 巻2 号 p. 92-94
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/06/14
    ジャーナル フリー
    アジアの熱帯地域における重要な森林資源であるファルカタリア (Falcataria moluccana (Miq.) Barneby & J. W. Grimes) において, ligation-mediated suppression PCR法を用いて10個の4塩基繰返しマイクロサテライトマーカーを開発した。天然林由来の33個体を用いてこれらのマーカーの多様性評価を行った結果, 各マーカーの対立遺伝子数は9∼16 (平均値: 12.4), ヘテロ接合体率 (期待値) は0.752∼0.924であった。これらの多型マーカーはファルカタリアの遺伝的資源および遺伝的多様性の評価と保全に向けた集団遺伝学, 保全遺伝学, 分子生態学的研究に活用できる。
  • 河原崎 里子, 杉村 乾
    2012 年94 巻2 号 p. 95-99
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/06/14
    ジャーナル フリー
    山菜やきのこは誰もが採集できる森の恵である。これらの利用と生育環境条件との関係は必ずしも十分には明らかにされていない。本研究では, これらを個人が採集したり, または, 団体 (個人以外の企業や自治体など) が広報・販売等で利用したりすることの地域性と生育環境との関係性を把握した。インターネット検索エンジンを利用し, 全国133市町村を対象に所定キーワードを与え, ヒット件数とその内容から各地の採集頻度を表す指標を算出した。この指標を市町村の人口, 森林面積, 気温, 積雪日数などで説明する重回帰モデルで解析した結果, 年平均気温が低い, または, 積雪日数が多い地域で山菜, きのこともに採集頻度が高いことが示された。また, 個人は天然林面積が大きなところで採集するのに対し, 団体ではその傾向は見られず, 様々な森林を利用していた。個人は景観が美しい場所で採集し, 採集をレジャーと捉える傾向があるのに対し, 団体は確実な採集のため対象の種の生育適地で採集すると考えられた。
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