日本森林学会誌
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95 巻, 1 号
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論文
  • 北里 春香, 井上 昭夫
    2013 年 95 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    モウソウチクを対象として, 賦存量を資源量へと変換するために, 竹稈レベルおよび竹林レベルでの利用率を決定した。まず, 200本のモウソウチクの伐採データを用いて, 利用可能直径ごとに竹稈レベルでの利用率を決定した。竹稈レベルでの利用率は, 胸高直径が大きくなるにつれて, また, 利用可能直径が小さくなるにつれて高くなった。決定した利用率と既報において調製した一変数材積表とを組み合わせて, モウソウチクにおける一変数利用材積表を調製した。次いで, 求めた竹稈レベルでの利用率をもとに, 30個のプロットデータを用いて, 竹林レベルでの利用率を決定した。竹林レベルでの利用率も, 利用可能直径が小さくなるにつれて高くなった。また, 竹林レベルでの利用率は, 竹林の平均胸高直径によって変化する点に注意すべきであることが示唆された。本研究において決定した竹稈レベルおよび竹林レベルでの利用率は, モウソウチク林における賦存量を資源量へと変換する上で有効である。
  • 田村 淳
    2013 年 95 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    電子付録
    ニホンジカの採食圧で1980年代後半からスズタケが退行したブナ林において, 同一斜面上で1997年と2002年に隣接して設置された植生保護柵 (以下, 1997柵, 2002柵) 内で, スズタケの回復と高木性樹種の更新のしやすさを, 柵を設置して7年後のデータから考察した。スズタケの稈高は1997柵内と2002柵内の両方で56∼75 cmであり同程度であった。スズタケの被度は1997柵内では経年的に増加する傾向を示したが, 2002柵内では増加しなかった。相対優占度でみると1997柵内ではスズタケと高木, 低木が18∼35%で競合したのに対して, 2002 柵内では低木が82%を占めていた。スズタケ稈高よりも高い更新木の密度は両柵ともに1,250本/haであった。以上のことから, スズタケの回復を目的として柵を設置するなら, 退行しはじめた段階で設置することが望ましいと考えた。一方, 樹木の更新にとっては柵を早期に設置する必要はないと結論づけた。どの樹種が林冠の後継樹となるかは引き続き追跡調査が必要である。
  • —北海道における多様性と地域性—
    真坂 一彦, 佐藤 孝弘, 棚橋 生子
    2013 年 95 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    養蜂業による北海道での蜜源植物の利用実態について, 北海道養蜂協会が毎年集計している「みつ源等調査報告書」をもとに分析した。主要な蜜源植物は, 蜂蜜生産量が多い順に, ニセアカシア, シナノキ, クローバー, キハダ, アザミ, ソバ, そしてトチノキの7種である。これら7種の蜂蜜生産量に占める樹木蜜源の割合は約70%で, これに森林植生であるアザミを加えると80%弱にのぼり, 森林が蜜源域として大きく貢献していた。地域性を評価するため, 振興局 (支庁) ごとに蜜源植物の利用状況についてクラスター分析したところ, 太平洋型, オホーツク型, 道北型, 道央型, そして道南型と, 北海道の地理的区分に対応した5群に分類された。シナノキとキハダについて, 各樹種の蓄積とそれらを対象にした蜂群数の関係をみたところ, 蓄積が多い地域ほど蜂群数も多い傾向が認められた。各地域の主要7蜜源植物の多様性と全蜂群数の間には有意な相関関係があり, 蜜源植物が多様な地域ほど生産性が高いことが示唆された。
  • 五味 高志, 宮田 秀介, Sidle Roy C., 小杉 賢一朗, 恩田 裕一, 平岡 真合乃, 古市 剛久
    2013 年 95 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    40年生ヒノキ人工林に覆われた0.3 haの小流域 (ヒノキ植栽密度4,500本/ha) を対象とし, 分布型流出モデルを用いたホートン地表流の発生と降雨流出解析を行った. 分布型流出モデルの基礎となる流域地形の解析を行うために, 従来のグリッドによる分割ではなく, 等高線による地形分割 (TOPOTUBE) を用いた. 振動ノズル型散水試験器を用いた計測から植生被覆量と浸透能の関係が得られ, 植生被覆量分布から流域の浸透能分布を推定し, モデルパラメータとした. 浸透能の不均質性を考慮し, ホートン地表流の発生の空間的不均質性をモデル上に再現でき, 流域全体に均質な浸透能を与えた場合と比べてプロットの地表流量の計算値は実測値に近い値となった. 森林流域における流出解析を行うためには, 土壌特性の不均質性や空間分布を考慮したモデル化を行う重要性が示唆された.
短報
  • 鈴木 覚, 後藤 義明, 北村 兼三, 高梨 聡, 岡野 通明, 野口 宏典, 大谷 義一, 坂本 知己
    2013 年 95 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    平成24年5月6日に茨城県常総市からつくば市にかけて竜巻が発生した。つくば市山木地区と平沢地区の森林被害を調査した。平沢地区の標高50∼130 mの斜面に, 直径250∼300 mの円形の被害発生領域がみられ, この円形領域で竜巻が消滅したと考えられた。この竜巻が消滅した地点を除き, 次の特徴がみられた。 (1) 壊滅的な被害は100 m前後の幅で発生し, これは竜巻のスケールを反映していると考えられた。 (2) 広葉樹を主体とした森林や強風被害を受けにくい条件を備えた森林とも壊滅的な被害を受けたことから, ひとたび竜巻の経路にあたれば, 林況にかかわらず壊滅的な被害が生じると考えられた。 (3) 倒木は竜巻経路の中心に向かって倒れる傾向がみられた。これは竜巻による強風の特徴である風の収束を反映していると考えられた。
  • 久保田 多余子, 坪山 良夫, 延廣 竜彦, 澤野 真治
    2013 年 95 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    スギ・ヒノキ人工林における間伐が, 流域の蒸発散量に及ぼす影響を明らかにするため, 茨城県北部の常陸太田試験地HV流域 (0.88 ha) において2009年3月と5月に合計の間伐強度が本数で約50%, 材積で約30%の間伐を行った。HVと無間伐のHA流域 (0.84 ha) に対し, 短期水収支法により日蒸発散量を算出した。間伐前のHVとHAの日蒸発散量の関係について回帰式を求めた。回帰式からHAの蒸発散量をもとに無間伐だった場合のHVの蒸発散量を推定した。対照流域法により, この推定値と実際のHVの蒸発散量を比較して間伐による蒸発散量の変動を明らかにした。また, プリーストリー・テーラー法により大気条件から推定される蒸発散量を求め蒸発散量値の目安として用いた。HVの年間蒸発散量は間伐に伴い間伐前より約17 %減少した。間伐の影響は間伐半年後から徐々に表れ, 間伐2年目により顕著になった。また, 間伐の蒸発散量に対する影響は 6月から 10月に大きく現れていた。
特集「北陸3県におけるクマ大量出没予測のためのブナ科樹木の豊凶モニタリング調査の取り組み」
巻頭言
論文
  • 小谷 二郎
    2013 年 95 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    ニホンツキノワグマ (Ursus thibetanus) の餌資源として堅果の豊凶を予測するために, ブナ科3種 (ブナ・ミズナラ・コナラ) の雄花序数と堅果数の関係を調べ, 雄花序の落下数から健全 (成熟) 堅果数を推定することを試みた。ブナでは, 雄花序の落下数の年変動は, 総堅果, 健全堅果の落下数と同調し, 雄花序数と健全堅果数との間での回帰式は高い決定係数を示した。一方, ミズナラとコナラにおいては, ブナほど同調性は強くなく, 雄花序数と成熟堅果数との間での回帰式は低い決定係数を示した。しかしながら, 雄花序数によって推定された健全 (成熟) 堅果数から判定した豊凶は, 各年度での3種の着果度のモニタリング調査による結果とほぼ一致した。以上の結果から, 雄花序の落下数を把握することは, 初夏のうちにおおよその豊凶の傾向を提供するためには有効と考えられる。
  • —隔離集団と連続分布集団の結実率の差異—
    中島 春樹, 小谷 二郎
    2013 年 95 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    雄花序落下数によるブナの結実予測手法を北陸地方で検討した。隔離集団に属する5林分のブナと連続分布集団に属する9林分のブナについて開花結実の年変動を7∼13年間調べた。雄花序落下数から雌花開花数を5∼6月に推定できることがわかった。不稔堅果となる割合 (不稔率) には当年の雌花開花数が, 虫害堅果となる割合には当年と前年の雌花開花数が関係しており, 北海道で開発された手法と同様に健全堅果となる割合 (結実率) を推定できた。しかし, 豊作となるのに必要な雌花開花数は北海道や東北地方での数と異なっていた。隔離集団では連続分布集団より不稔率が高く結実率は低くなり, 集団の立木本数の少なさによる花粉制限や遺伝的多様性の低さが関係している可能性が考えられた。これらより, 結実率の推定式を地域や分布の連続性の有無ごとに作成することの重要性が示された。雄花序落下数から雌花開花数を推定し, さらに結実率推定式から予測した作柄は, 実測した作柄とよく一致し, 雄花序落下数による結実予測手法の有効性が示された。この手法は, 当年の初夏に結実予測でき, 秋のクマの出没予測や堅果採取の可否の検討などに有効だろう。
  • 水谷 瑞希
    2013 年 95 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    非熟練調査者でも簡便にコナラの豊凶を評価できる方法 (以下, 簡易評価) を考案し, 試行した。簡易評価は樹冠部の着果状況を観察し, その豊凶を記述的基準に従って段階的に評価するが, このうち (1) 着果の有無と (2) 並作以上と不作以下の判断に, 定量的基準を設定した。のべ392本のコナラを対象に , (A) 複数の非熟練調査者が簡易評価によって, (B) 1人の森林研究者が枝先 50 cm当りの平均着果数を指標とした既存の定量的評価によって, それぞれ同時に豊凶を評価した。 (A) と (B) との間で, 3段階に再分類した豊凶評価が一致した個体の割合は75%で, 簡易評価の方が過小評価になる傾向があった。しかし (A) について複数の調査者による評価の最大値を採用した場合, (B) との評価の一致率は86%に向上し, 評価の偏りも解消した。簡易評価は複数の調査者が同時に実施することにより, 非熟練調査者でも信頼性を確保しながら簡便に豊凶を評価できることが示唆された。複数の調査者が簡易評価によって豊凶を調査する方法は, ナラ類の豊凶モニタリング調査に適していると考えられる。
短報
  • 野上 達也, 吉本 敦子, 中村 こすも, 小谷 二郎, 野崎 英吉
    2013 年 95 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    石川県ではクマ大量出没予測のため, ブナ, ミズナラ, コナラの豊凶予測調査を県内で自然解説活動を行っているボランティア団体, 石川県自然解説員研究会に委託して実施している。調査への参加で, どのように意識が変わり自然解説活動にどのような効果を及ぼしているかを明らかにするため, 調査参加者にアンケートを実施した。その結果, 調査への参加でクマ大量出没とブナ科樹木の豊凶に関して自身の理解が深まり, そのことが自然解説活動にも役立っていることが示唆された。クマによる人身事故防止のためにはクマ大量出没やその背景について広く理解と関心を得ることが重要であるが, 自然解説員への豊凶予測調査の委託は, 副次的にクマ問題に関する知識の普及に寄与していると思われる。また豊凶調査をボランティアに委託する際には, 調査しやすい調査手法の採用, 調査の研修, 調査地や対象木の選定を一緒に行うといった専門家との協働が重要と考えられた。
  • —富山県におけるブナの豊凶とツキノワグマの出没の関係—
    中島 春樹
    2013 年 95 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    富山県の5林分においてブナの枝を採取して雌花序痕と冬芽を調べ, 開花結実の年変動を過去に遡って推定した。枝レベルでの開花の年変動パターンは多様であり, 樹体の資源収支が関係している可能性が考えられた。林分レベルで推定した結実の作柄はシードトラップ調査や文献調査結果とよく一致した。ブナの作柄が良いほどツキノワグマの有害捕獲数が少なくなる傾向があり, ブナの豊凶は富山県におけるクマの人里への出没の多寡に関係していることが示唆された。ブナの豊作年は有害捕獲数が極端に少なく, クマのブナ堅果に対する選好性の強さが関係していると考えられた。クマが人里へ大量出没したのはブナの凶作年だったが, 凶作年に必ずしも大量出没するとは限らず, ミズナラなど他樹種の豊凶も大量出没に関係していると推察された。
論文
  • 水谷 瑞希, 中島 春樹, 小谷 二郎, 野上 達也, 多田 雅充
    2013 年 95 巻 1 号 p. 76-82
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/30
    ジャーナル フリー
    富山県, 石川県および福井県における, 2005年から2011年までの7年間の豊凶モニタリング調査の結果を用いて, 北陸地域におけるブナ科樹木の豊凶とツキノワグマの人里への出没との関係について検討した。北陸3県ではいずれも, 高標高域に分布するブナとミズナラの県全体の結実状況に大きな年変動があり, とくに北陸地域でクマ大量出没が発生した2006年と2010年には, 極端な結実不良となっていた。低標高域に分布するコナラでは県全体の結実状況の年変動は小さく, 極端な結実不良の年はなかった。このことから北陸地域では, ブナとミズナラの結実不良が広域的に同調して発生したことに起因する山地の餌不足が, クマ大量出没の引き金になっていたと推察された。クマ大量出没に影響するこれら「鍵植物」の豊凶は, 県をまたがる広い地域で同調していた。このことから現在各地で実施されている豊凶モニタリング調査を, 相互に比較可能な方法で連携して実施すれば, 効果的な豊凶把握やクマ大量出没の予測精度の向上に役立つと考えられる。
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