日本森林学会誌
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95 巻, 3 号
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論文
  • 今治 安弥, 上田 正文, 和口 美明, 田中 正臣, 上松 明日香, 糟谷 信彦, 池田 武文
    2013 年 95 巻 3 号 p. 141-146
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/07/25
    ジャーナル フリー
    タケが侵入したスギ・ヒノキ人工林の衰退・枯死原因を検討するため, 水分生理的な観点から調査した。モウソウチクあるいはマダケと木-竹混交林となったタケ侵入林に生育するスギ・ヒノキのシュートの日中の水ポテンシャル (Ψwmid) は, タケ未侵入林に生育するスギ・ヒノキよりも低くなる傾向があった。タケ類のΨwmidは, スギ・ヒノキよりも著しく低い値を示したが, モウソウチクのシュートの夜明け前の水ポテンシャル (Ψwpd) はほぼ0となり, 夜間の積極的な水吸収を示唆した。さらに, すべての調査地でタケ類の根密度はスギあるいはヒノキよりも5∼14倍程度高かった。タケ侵入林のスギでは, Ψwmid はシュートの細胞が圧ポテンシャルを失うときの水ポテンシャルと同程度の値を示した。これらの結果は, タケ侵入林に生育するスギ・ヒノキは, 地下部の競争によってタケ未侵入林のスギ・ヒノキよりも水不足状態になることがあり, それらの中には, シュートの細胞が圧ポテンシャルを失うほど厳しい水不足状態に陥っている場合があることを示唆した。
  • −レジームとしての特性に着目して−
    福嶋 崇
    2013 年 95 巻 3 号 p. 147-155
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/07/25
    ジャーナル フリー
    本論文は, 途上国での植林を通じたGHG削減政策である吸収源CDMレジームの形成過程について分析することを目的とした。吸収源CDMレジームの形成過程では, 吸収源のGHG削減策としての活用の是非を含め様々な点で各国の意見の対立が大きく, GHG吸収における不確実性の高さや非永続性, 途上国にとって優先順位の高い排出源CDMへの投資額の減少に対する懸念, といった理由からEUや中国, ブラジルなど多くの国が吸収源CDMの導入に反対した。また, レジームの形成要因として「利益」, 「力」, 「知識」の観点から分析した結果, 三つの要因はいずれも吸収源CDMのレジームとしての有用性を低減させ, また政策の推進を阻む方向に作用していたことを明らかにした。さらに, 吸収源CDMは専門性や複雑性の高さもあり, 交渉の優先順位も低く, このことは結果として事業の登録の遅れを招いていた。以上のレジーム形成過程の分析から, 「現行ルールにおける吸収源CDM推進の限界」の背景が明らかになった。吸収源CDMの推進のためには, 厳格な要件の緩和や複雑なルールの簡易化などが求められる。
  • 坪村 美代子, 武津 英太郎, 渡辺 敦史
    2013 年 95 巻 3 号 p. 156-162
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/07/25
    ジャーナル フリー
    関東育種基本区内スギ精英樹765クローン2,205本 (茨城県日立市植栽) のジベレリン処理による雄花着花量の評価を行い, 評価手法について検討した。全ての調査個体のジェノタイピングを行い, 9人の評価者による反復を設けた目視による指数評価 (全く着花していないか, 非常に少ないものを指数1, 非常に多いものを指数5とする5段階評価) を行った。SSRによるジェノタイピングによりミスラベルを排除したクローンの評価結果は山型の分布を示し, 平均値は3.06であった。評価者の人数と評価値の推定精度の関係を求めたところ, 経験の少ない評価者の参加により推定精度が低下すること, 人数の増加とともに推定精度が上昇しそのばらつきも小さくなることが示され, 雄花着花性のクローン評価に評価者の反復を設けることの重要性が示された。ジベレリン処理による着花は自然着花と比較して総じて高い値を示し, 2年間の値の相関は高く, 雄花着花量評価にはジベレリン処理を行うことが適切であることが示唆された。
  • 畢力格図, 石川 芳治, 白木 克繁, 若原 妙子, 海 虎, 内山 佳美
    2013 年 95 巻 3 号 p. 163-172
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/07/25
    ジャーナル フリー
    神奈川県丹沢山地では, シカの増加に伴って, 採食圧が増加し, ブナ林の林床植生が衰退し, 土壌侵食が発生して深刻な問題となっている。本研究では, 丹沢堂平地区のブナ林の森林内の斜面に林床植生量およびリター堆積量の異なる試験プロットを5カ所設置し, 2008年4月∼2010年11月の樹冠通過雨量, 地表流流出量と土壌侵食量 (雨滴侵食量+布状侵食量) を測定し, 降雨に関する3要因 (降雨量, 降雨係数, 地表流流出量) と土壌侵食量 (雨滴侵食量+布状侵食量) ・雨滴侵食量・布状侵食量との相関を検討した。その結果, 土壌侵食量全体として, 相関の高い順に地表流流出量, 降雨量, 降雨係数となり, 雨滴侵食量については降雨係数と相関が最も高く, 布状侵食量については地表流流出量と相関が最も高いことがわかった。特に, 森林斜面においては雨滴侵食量より布状侵食量が卓越しているため布状侵食量に大きな影響を与える地表流流出量や降雨量が降雨係数より土壌侵食量に強い影響を与えていることを明らかにした。これにより, 森林斜面における土壌侵食量の推定にはUSLEで使用されている降雨係数よりも地表流流出量や降雨量を用いた方が良いことがわかった。
  • 木村 恵, 中村 千賀, 林部 直樹, 小山 泰弘, 津村 義彦
    2013 年 95 巻 3 号 p. 173-181
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/07/25
    ジャーナル フリー
    電子付録
    多面的機能が注目される社叢林の保護と管理を行うには, その成立要因を理解する必要がある。本研究では長野県戸隠神社奥社参道のスギ並木を対象に林分構造と遺伝的多様性・特性を調べた。二山型を示す直径階分布から多くの個体は限られた時期の植林によって成立しており, 現在の樹高成長量は低く今後は補植が必要になると考えられた。核マイクロサテライトマーカー8遺伝子座での遺伝解析から多くのクローンが検出され, 挿し木による植林の可能性が示された。また奥社参道における遺伝的多様性の指数は天然林と同程度だが, 遺伝距離に基づく主座標分析では天然林とは異なる特異な遺伝的特性を示した。さらに周囲の社叢林のスギ, 在来挿し木品種クマスギを加えた解析では血縁関係 (親子, 兄弟) が検出された。天然林との特異な遺伝的関係も検出され, 限られた母樹からの苗木による創始者効果の可能性が示された。現在の遺伝的多様性・特性を維持するには, 挿し木や血縁関係にある幹の重複を避けて母樹を選定し, 苗木を生産することが有効である。また信仰的な理由で挿し木されたと考えられる個体もみられており, 戸隠神社の歴史を反映するこれらの遺伝子型の保存も重要である。
短報
  • 高橋 由佳, 長谷川 幹夫, 図子 光太郎, 相浦 英春
    2013 年 95 巻 3 号 p. 182-188
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/07/25
    ジャーナル フリー
    多雪地帯のスギ人工林皆伐跡地における実生更新過程を明らかにするため, この地域で一般的にみられる前生樹が少ない林分において, 伐採後に発生した高木性木本の消長を5年間追跡調査した。伐採後5年間に発生した高木性木本は総出現種数30種, 99,400±64,200本/haで, そのうち8割以上が伐採当年に発生した。当年発生実生の86%はアカメガシワとカラスザンショウの2種が占めたが, これらの先駆性樹種は, 伐採5年目までに著しく生存本数が減少し, 樹高成長も停滞するなど, 短期間で衰退する傾向を示した。替わって生存率が高く, 樹高成長も著しかったのが, オニグルミ, ミズキ, ホオノキ, ウワミズザクラなどのギャップ種であった。本調査地のように積雪が多く, ススキなどの下層植生の繁茂が著しい条件下では, 早期に先駆性樹種の衰退が起こり, このようなギャップ種を優占種とする林分がまず成立する可能性が高いと考えられた。
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