日本森林学会誌
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96 巻, 6 号
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論文
  • 小野 賢二, 中村 克典, 平井 敬三
    2014 年 96 巻 6 号 p. 301-307
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    津波を受けた海岸防災林では海水浸水により大量の塩類が土壌に付加され集積したため津波による物理的破壊被害以外にも樹木の針葉変色・萎凋,衰退・枯死など塩害症状が東北太平洋沿岸で発生した。津波浸漬土壌は除塩する必要があるが,森林を対象とした除塩の実施はその立地条件等から困難であり,梅雨や台風など自然の降雨に期待せざるを得ない。本研究では宮城県仙台湾沿岸(吉田浜)と青森県太平洋岸地域(市川)において津波被災海岸防災林の土壌を対象に降雨による除塩効果を評価した。被災後約1年で堆砂層を中心に除塩が進み,pH(H2O)や交換性Ca2+,K+含量は低下した。EC や交換性Mg2+,Na+など,一部の層位,特に市川の2A 層では,時間の経過とともに値の上昇傾向が認められた項目もあったが,これは降雨による堆砂層から下層への塩の移動を反映したと推察された。以上から,海岸平坦面にある海岸防災林の砂質未熟土でも,時間の経過とともに津波浸漬に由来する土壌中の残留塩類は降雨に伴う自然排水によって移動,流去し土壌における津波影響の痕跡は低減されたことが明らかとなった。
  • ―立地環境に基づく林業適地の抽出にむけて―
    長島 啓子, 土田 遼太, 岡本 宏之, 高田 研一, 田中 和博
    2014 年 96 巻 6 号 p. 308-314
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    本研究では三重県大台町の管理不足人工林を対象に,林業適地の抽出を視野に,立地環境分析によってスギノアカネトラカミキリによる材質劣化被害と立地環境,および林地生産力を指標する成長との関係を把握した。スギノアカネトラカミキリの被害程度は現地調査によって樹幹解析用に採取した円板をもとに,元玉,二番玉の製材可能性を基準に判定した。成長の指標には優勢木,介在木の 40年生時の樹高と胸高直径を用いた。解析の結果,スギ林は堆積様式が残積土で凸斜面の場所で被害が大きく,成長が良い立地環境ほど被害が少ないことがわかった。一方,ヒノキは堆積様式が崩積土で被害が多く,表層土粒径が粘土質の場合に少ない傾向がみられた。また成長との関係は不明瞭であった。このことから,スギは堆積様式が崩積土で凹または平衡斜面の水分条件が良く成長が良い立地環境が,ヒノキは植栽される傾向にある斜面上部の中でも粘土質の立地環境が適地であると考えられた。これらの環境は各々の自然立地環境や古くから適地とされている環境であり,収穫後の再造林にあたり適地適木が図られれば,被害を軽減できる可能性が示された。
  • 長塚 結花, 五味 高志, 平岡 真合乃, 宮田 秀介, 恩田 裕一
    2014 年 96 巻 6 号 p. 315-322
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    林道の水流出量を評価するために,散水試験による路面浸透能測定(1 × 1 m),林道プロット(5 × 15 m)による路面地表流と切土法面からの流出(林道遮断流)の観測を行った。林道プロットは,斜面地形により谷地形,尾根地形,平行斜面の3カ所に設置し,路面地表流と林道遮断流を分けて観測した。散水試験で得られた路面浸透能は平均33.3 mm/h(SD = 8.8 mm/h)であり,植生被覆や土壌物理性との相関はみられなかった。林道プロットの路面地表流流出率は14~21%であり,林道からの総流出量に対して85~89%寄与していた。路面地表流の観測結果から得られた路面浸透能は5.0 mm/h以下となり,散水試験の結果より低かった。林道上の車両痕(わだち)において地表流の流下経路となり,路面長の長い林道プロットでより多くの地表流が生じたためと考えられた。林道遮断流の林道流出に占める割合は10%以下と小さく,切土法面に露出する土層面が大きい場合のみ,初期土壌水分量と林道遮断流に正の相関がみられた。林道路面の水流出量と流出経路は,路面状態(わだちの長さ)や切土法面状態(基岩の位置や断層の有無)と関連しているが示された。
  • 山路 貴大, 駒井 古実, 逢沢 峰昭, 大岡 智亮, 大久保 達弘
    2014 年 96 巻 6 号 p. 323-332
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    本研究では,太平洋型ブナ林の高原山および日本海型ブナ林の水上において,(i) ブナ・イヌブナの落下前堅果を摂食する小蛾類幼虫の形態とミトコンドリア (mt) DNA の COI 領域の塩基配列に基づいて,両地域の小蛾類の多様性を明らかにすること,(ii) 各小蛾類種と堅果食痕の対応関係を明らかにすることを目的とした。高原山のブナ・イヌブナ,水上のブナの樹冠より直接落下前堅果を採取し,幼虫を捕獲した。そして,形態的特徴に基づいて幼虫のタイプ分けを行い,各タイプについて DNA の塩基配列を決定・比較した。その結果,太平洋型ブナ林では,ブナまたはイヌブナ堅果を摂食する小蛾類は 9 種おり,ハマキガ科が多く,優占種はブナヒメシンクイであった。一方,日本海型ブナ林の小蛾類は 2 種のみであり,両型のブナ林で小蛾類の多様性に違いがみられた。各小蛾類に種特異的な堅果食痕はみられず,食痕による種同定は困難と考えられた。また,太平洋型ブナ林では, 9 種のうち 7 種はブナ・イヌブナ両種の堅果を摂食しており,既往研究にある太平洋型ブナ林での高い虫害率は両樹種の堅果を摂食する種の存在と関係している可能性が示唆された。
  • ―シカを排除した12年間の調査から―
    田村 淳
    2014 年 96 巻 6 号 p. 333-341
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    電子付録
    シカが高密度で生息する 90 年生のスギ・ヒノキ人工林において,同一林分内で林床植被率の異なる 3 試験区(低,中,高植被区)に択伐と同時に植生保護柵を設置して,択伐後2 年目から 5 年目までと 12 年目に柵内外で天然更新により発生した高木性樹木の更新木を調査した。択伐後には光環境の改善とともに柵内の各試験区の林床植被率は高まり,択伐前の植被率が80% の高植被区と同程度に林床植被率が高まるまでに低植被区は4 年,中植被区は 1 年を要した。択伐後の更新木の種数と個体数は調査した期間を通して低植被区で多く,択伐後12 年目の樹高 1 m 以上の更新木は低植被区で 11,873 本/ha,中植被区で 7,499 本/ha, 高植被区で 2,083 本/ha であった。これらの結果は,植被率が低い試験区ほど択伐後に更新木が多く発生,定着,成長したことを示している。一方,柵外では択伐後 12 年目には試験区による更新木の種数と個体数に差異はなく,柵内と比較すると種数と個体数ともに少なかった。シカが高密度で生息する高齢級人工林内に高木性樹木を更新させるには,上層木の密度管理だけでなく,低木の除伐や林床植生の刈り払いとシカ採食圧の排除が必要である。
短報
  • ―現地踏査と植生調査の解析―
    野口 正二, 金子 智紀, 北田 正憲, 鈴木 秀典
    2014 年 96 巻 6 号 p. 342-347
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    作業道における表面流発生の実態を明らかにするため,秋田県長坂試験地に開設された作業道を対象として,植生調査と表面流の発生状況の現地踏査を行った。作業道の切土のり面と山側わだちにおいて,植生の被度が低く出現種数が少なかった。これらの結果は,切土のり面では凍上融解や融雪および雨滴による侵食が要因で,山側わだちでは継続的な表面流の発生が要因と考えられた。表面流の発生源として,切土のり面から流出する遮断された地中流や河道から流入する渓流水が確認された。また,その地中流の流出によって,断片化している作業道の表面流が連続することが示唆され,降雨終了後も流域内では作業道の総延長の 21.2% で表面流が発生していた。また,積雪期に表面流が発生する場所は,無積雪期に表面流が発生する場所と一致していた。以上から,作業道の開設時は,流域内の地中水の流出箇所や河道分布状況などを考慮することが重要であると考えられた。
  • 斎藤 真己
    2014 年 96 巻 6 号 p. 348-350
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    スギ花粉症対策の一環として,メタセコイア雄花の発育限界温度と有効積算温度を明らかにした。メタセコイアの雄花の発育限界温度はほぼ0°C となりスギと同様の値になったが,開花に要する有効積算温度は,計算上175.4°C・日となり,スギ(184~240°C・日)よりも低い値になった。次に,10°C に設定した人工気象器を用いてメタセコイアとタテヤマスギ,ボカスギで開花試験を行った結果,メタセコイアが最も早く開花した。これらの結果から,メタセコイアの花粉はスギよりも早く飛散が始まっており,その花粉はスギと共通抗原性があることから,居住区の近隣にメタセコイアがある場合,スギ花粉症患者はスギ花粉の飛散予測よりも早く花粉症を発症する可能性があると考えられた。
総説
  • ―総合的理解に向けて―
    篠原 慶規, 久米 朋宣, 市橋 隆自, 小松 光, 大槻 恭一
    2014 年 96 巻 6 号 p. 351-361
    発行日: 2014/12/01
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    本研究では,既往の研究を整理することで,モウソウチク林拡大の実態,現存量を把握すると共に,モウソウチク林の拡大が,林地の水土保全に関する公益的機能を低下させる可能性について検証した。モウソウチク林の面積拡大は数多くの研究により報告されており,年間拡大率の平均は 1.03 ha/(ha year)であった。また,隣接する場所が開けている方が,開けていない場所と比較し,モウソウチク林の拡大速度が大きいことが示唆された。モウソウチク林の地上部現存量は,62.6~224.3 t/ha であり,その最大値はスギ林・ヒノキ林の最大値よりも小さいと予想された。一方,地下部現存量は研究例が少なく,今後のさらなる研究が必要である。林地の水土保全に関する公益的機能について既往の研究成果を取りまとめたところ,これまでの推察に反して,モウソウチク林は,他の森林タイプと比較し,洪水,渇水,表層崩壊,表面侵食のリスクが低いことが示唆された。しかし,この結論は十分な計測例に基づくものではない。今後,様々な林分条件,気象条件のモウソウチク林で数多くの計測が行われ,上記の結論を再検討することが望まれる。
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