日本森林学会誌
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97 巻, 2 号
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論文
  • 金指 努, 綾部 慈子, 竹中 千里, 肘井 直樹
    2015 年 97 巻 2 号 p. 95-99
    発行日: 2015/04/01
    公開日: 2015/06/02
    ジャーナル フリー
    東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する, 森林から渓流生態系への落葉を介した放射性セシウムの移動を明らかにするために, 福島県伊達郡川俣町の小渓流において, 渓畔域に分布するコナラの生葉, 林床の枯死・脱落葉 (落葉) および渓流 に堆積している落葉に含まれるセシウム 137 (137Cs) 濃度の関係を明らかにした。コナラの葉は, 生葉から落葉となり, 渓流に 堆積して分解される過程で, 137Cs 濃度が減少していた (2013年)。2012 年と 2013 年の落葉期 (11月) に, 林床に落下したコナラ葉と, 各翌年の3月に, 渓流に堆積しているコナラ落葉の137Cs 濃度を比較すると, 渓流のコナラ落葉の方が低くなった。 また, 林床に落下したコナラ落葉, 渓流に堆積しているコナラ落葉および渓流に堆積しているその他の落葉は, それぞれの各年における137Cs 濃度に大きな変化はなく, 今後も長期間, 渓畔林から渓流生態系へ落葉を介して137Csが移動する可能性が示唆された。
  • 斉藤 正一, 箕口 秀夫, 加賀谷 悦子
    2015 年 97 巻 2 号 p. 100-106
    発行日: 2015/04/01
    公開日: 2015/06/02
    ジャーナル フリー
    電子付録
    ナラ枯れ被害を軽減するためには, 媒介昆虫のカシノナガキクイムシ (カシナガ) の分散を抑制し, 密度を低下させることが有効である。カシナガはナラ類の生立木に穿入するので, ナラ類の生立木から採取した丸太を, 2010~2013年にかけて26カ所, 延べ47調査地において集積し, カシナガを誘引する実証試験を行った。丸太は, 被害地周辺の林道の待避所や土場跡, 林道と隣接するスギ林内に集積した。大量に集積した丸太 (大量集積型おとり丸太) は, 丸太が長いために乾燥しにくく, カシナガの繫殖に好適な部位が多くなり, カシナガを誘引するカイロモンも木口から大量に発生する。これらの丸太に, さらにカシナガの集合フェロモン剤を装着したところ, 10,000個体/m3を超える多数のカシナガを誘引できた。この方法により, カシナガの密度が高い, 激害から中害の林分においても, 多数の個体を誘引することができた。カシナガが穿入した丸太は, 新成虫が羽化する前に粉砕してチップ化すれば内部のカシナガを駆除することができるだけでなく, それらはそのまま, 燃料用や製紙用チップとして利用できる。さらに, 丸太採取のために伐採した林分は更新するため, 今回用いた方法は, 駆除・利用・更新を三位一体で進める実用化技術として期待できる。
  • 杉浦 克明
    2015 年 97 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2015/04/01
    公開日: 2015/06/02
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 発達段階を考慮した環境教育の目的の整理と現状での森林環境教育の実施状況の分析から, 効果的な森林環境教育のあり方を論じることである。森林環境教育の実態を把握するために, 各都道府県で行われた2009年度と2010年度の森林環境教育の162の実践例をまとめた林野庁の事例報告を用い, 森林環境教育の実施の対象者, 目的, 実施内容, 課題に関する語句の抽出と集計を行った。その結果, 森林環境教育の対象者は, 主に児童であり, 実施目的は森林・林業に関する知識・理解・啓発に関するものが103件と他の目的と比べて多かった。実施内容は, 観察 (観測) (73件), 木工 (71件), 間伐 (42件), 植樹 (33件) 等の体験型が多かった。森林環境教育は主に児童を対象に, 森林・林業に関する知識・理解を深めるために体験学習させることと捉えられている可能性がある。このように, 森林環境教育の対象者, 実施目的, 実施内容に偏りがあることから, 最終目標の「参加」につなげるためには青年期以上の対象者向けの実施を増やし, 発達段階にあわせた目的と内容で実施していく必要がある。
  • ―浙江省杭州市桐廬県を事例とする質的調査から―
    方 琳, 山本 信次, 山本 清龍, 藤崎 浩幸
    2015 年 97 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2015/04/01
    公開日: 2015/06/02
    ジャーナル フリー
    中国では国民生活水準の向上とともに, 農家楽 (農家民宿や農家レストラン) を代表としたグリーン・ツーリズムが人気となっている。本研究では中国における農家楽の実態および問題点を明らかにするため, 浙江省杭州市桐廬県の農家楽経営者並びに政策担当者を対象にヒアリング調査を行った。調査の結果, 現在中国の農家楽は政府主導や個人経営からさらに発展し, 集落や地区の協力で成功している事例が増加していた。しかし都市部を離れ, 周辺観光地がない, 集客の難しい農山村地域では, 農家楽の発展が難しいことも明らかとなった。これは, 農家楽を都市農山村格差等のいわゆる「三農問題」の解決手段と する際に, 大きな課題となっていることが明らかとなった。
短報
  • 秋田 寛己
    2015 年 97 巻 2 号 p. 123-126
    発行日: 2015/04/01
    公開日: 2015/06/02
    ジャーナル フリー
    電子付録
    本研究は, 今後の木堰堤の維持管理指針の策定のための基礎資料とするべく, 全国的な施工実態の聞き取り調査を行い, 近年における木堰堤の施工実績を明らかにした。昭和59年度~平成25年度までの全国の木堰堤施工基数は1,166基であり, 42道府県で実績があった。木堰堤の材料の樹種別はスギ材が最多で, 全体に対する割合は約60%であり, 次いでカラマツ材が約20%であった。木堰堤設置時の防腐剤の使用割合は平成21年度までに施工された木堰堤は20%を下回っていたが, 平成22年度から使用が増加し, 平成25年度施工では 70% 程度となった。経過年数分布では, 施工後10年が経過した防腐剤無の木堰堤は国有林で58基あり, 民有林で358基あった。地域別の維持管理計画において, 防腐剤の有無や基数, 経過年数の情報を加えて整理することで, 施設点検や将来的な部材交換のための指標になると考えられた。
  • ―長野県内における最大 9 年経過の調査結果より―
    秋田 寛己
    2015 年 97 巻 2 号 p. 127-131
    発行日: 2015/04/01
    公開日: 2015/06/02
    ジャーナル フリー
    電子付録
    本研究は最大9年経過した木堰堤の腐朽実態を明らかにするため, 長野県全域で成長錐による腐朽調査を実施し, 密度ρと含水率を求めた。今回のρの調査結果より, 中条や鴇久保では繊維飽和点未満でρが小さくなる部材が多いことから, 含水率が低下するほど腐朽が遅くなる可能性があった。ρと経過年の間には袖部と本体ともに直線関係があり, 年数を経過するほどρが減少し, 標準偏差σと経過年の関係からばらつきが徐々に大きくなる。ρが消失するまでの年数を計算したところ, 袖部で約20.0年, 本体で約25.5年となった。袖部と本体には5年程度の差が生じ, 部位による年数の違いが表れた。また, σと経過年の関係から示されるように, 木堰堤は設置環境や施設の構造条件の影響を受けるため, ρ が消失するまでの年数は施工地によって上下すると考えられた。
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