日本森林学会誌
Online ISSN : 1882-398X
Print ISSN : 1349-8509
ISSN-L : 1349-8509
98 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論文
  • 平野 悠一郎
    2016 年98 巻1 号 p. 1-10
    発行日: 2016/02/01
    公開日: 2016/04/06
    ジャーナル フリー
    日本では1980~90年代にかけて,林内,林道,里道,登山道等を「野外トレイル」として走行するマウンテンバイカーが増加してきた。しかしその過程では,森林所有者や他の利用(ハイキング・林産物採取等)との軋轢が増し,林内の走行を規制されるケースも目立ってきた。このため,2000年代以降,「野外での走行を継続的に楽しむには,周囲の理解が不可欠」というバイカー側の危機意識を主に反映して,特定の地域に密着しつつマウンテンバイク用のトレイルを確保する動きが生まれている。本稿で扱うB.C. Porter,西多摩マウンテンバイク友の会,Trail Cutter,西伊豆古道再生プロジェクト・山伏トレイルツアー,王滝村の事業においては,このトレイルの確保にあたって,レジャー施設への併設,地元集落・森林所有者との合意形成,地方自治体との連携が積極的に進められ,バイカーを組織して自治体・集落レベルの森林整備に積極的に協力する事例もみられる。この動きは,森林の荒廃や過疎化に悩む山村にあって,自治体・集落や所有者にも受け入れられつつあり,他の利用者との競合を回避した森林の有効利用の可能性をも提示している。
  • 井上 真理子, 大石 康彦
    2016 年98 巻1 号 p. 11-19
    発行日: 2016/02/01
    公開日: 2016/04/06
    ジャーナル フリー
    電子付録
    戦後の専門高校「森林科学」関連科目(育林分野)について,学習指導要領と教科書をもとに教育目標と内容の変化を分析した。科目名は,「森林生産」から「育林」,「森林科学」へと変わってきた。科目の目標は,森林育成の知識と技術の習得を基本に,森林の生産性を高めることから,1980年代に森林保護や多面的機能が加わり,2000年代の「森林科学」では,森林の保全と利用を図ることになった。教育内容を整理すると,「概論」(森林と育林),「森林の環境」(森林生態,林木の特性と生育環境),「森林の育成」(育苗,育種,造林,保育,保護),「社会との関係」(特用樹栽培,風致または総合的な利用)の4分野10項目が挙げられた。教育内容の変化には,生産性を高める育林の実務的な知識や技術から,森林生態の内容が増え,森林の役割や育林の意義や社会との関係が加わったことがみられた。木材生産を中心とした内容から,多面的機能を含む森林の保全,利用へ変化した傾向は,科目「森林経営」と共通していた。今後の課題には,育成すべき人材像を踏まえて2科目の内容の再検討を行い,「森林科学」の内容を再構築することが挙げられた。
  • 野宮 治人, 山川 博美, 重永 英年, 平田 令子, 伊藤 哲, 園田 清隆
    2016 年98 巻1 号 p. 20-25
    発行日: 2016/02/01
    公開日: 2016/04/06
    ジャーナル フリー
    160cmを超えるスギポット大苗を無支柱と支柱あり(1本支柱・3本支柱)で植栽し,1年間の主軸の傾きの推移と活着率を比較した。無支柱の場合,主軸の傾きは植栽から2カ月後に最大となり,樹高は主軸長よりも59cm短くなったが,1年後には70%の個体で30°以内に回復した。1本支柱と3本支柱の場合の主軸の傾きはわずかで,それぞれ83%と95%の個体が1年間を通して30°以内に維持された。無支柱の場合,形状比が大きくなると主軸の傾きが大きくなる傾向があり,形状比120を超えると半数以上の個体が一時的に60°より大きく傾いた。大きく傾いた個体の一部は周辺の雑草が絡まって起き上がれずに枯死したため,無支柱の場合の活着率は83%であったが,支柱ありの場合の活着率は93%以上だった。以上の結果から,支柱は大苗の傾きを抑制し活着率を向上させるために有効であった。一方で,無支柱で大苗が傾いても潜在的には傾きが回復する可能性がある。形状比の小さな大苗を使って主軸の傾きを抑制できれば,支柱は必ずしも必要でないといえる。
  • 山路 貴大, 逢沢 峰昭, 駒井 古実, 大岡 智亮, 大久保 達弘
    2016 年98 巻1 号 p. 26-30
    発行日: 2016/02/01
    公開日: 2016/04/06
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,北関東の高原山の太平洋側ブナ林において,堅果食性小蛾類の最優占種ブナヒメシンクイに対してブナの豊凶が飽食効果として働いているかを調べることである。そのために,ブナの豊作年を含む2008~2012年におけるブナヒメシンクイの個体数変動に関連する三つの指標(ブナヒメシンクイ幼虫密度,ブナヒメシンクイ虫害率および林分虫害率)と総落下堅果数との関係を解析した。ブナヒメシンクイの幼虫密度と虫害率は,ブナの落下前の樹上果実から得られたデータを基に算出した。ブナの豊凶程度と林分虫害率は,調査林分に設置されたシードトラップのデータを用いた。三つのいずれの指標値とも豊作年で低下し,豊作翌年で最も高くなり,その後,次の豊作年まで漸減した。また,これらの値と総落下堅果数の前年比の間には負の関係がみられた。これらのことから,太平洋側のブナ林において,ブナの豊凶はブナヒメシンクイに対して飽食効果があると考えられた。
  • 守口 海, 植木 達人, 大塚 大, 斎藤 仁志
    2015 年98 巻1 号 p. 31-38
    発行日: 2015/02/01
    公開日: 2016/04/06
    ジャーナル フリー
    所与の収益モデルにおいて,森林経営者が制御可能な変数を最適化したときに採算が取れる造林・育林費用の上限は,その許容上限と定義できる。この簡易な計算方法があると,補助金制度の設計や妥当性の検証に有用である。本論では,制御可能な変数を伐期齢のみとし,間伐利益および管理費を考慮しないという簡略化のもとで,経営基準が土地期望価(SEV)および収穫木の正味現在価値(NPV)のいずれの場合も適用できる,造林・育林費用の許容上限の簡易な計算式を誘導した。この式は,面積当たり主伐利益の成長がRichards関数またはGompertz関数に従うとの前提の下で導かれる。上層樹高の成長がいずれかの成長関数に従い,面積当たり収穫材積と上層樹高が冪乗関係にあり,さらに収穫材積当たり主伐利益が一定という三つの仮定の下で,誘導された計算式が利用できる。長野県の主要造林樹種4樹種について,地位級ごとに造林・育林費用の許容上限を計算したところ,本論の設定値では,スギ,ヒノキの地位級1以外では造林・育林費用を100万円/ha以下に抑える必要があり,地位級1のカラマツを除いて50%以上の造林補助率が必要との結果になった。
短報
  • ―各州の動向と今後の方向性―
    香坂 玲, 石崎 涼子, 風 総一郎
    2016 年98 巻1 号 p. 39-43
    発行日: 2016/02/01
    公開日: 2016/04/06
    ジャーナル フリー
    ドイツで進展する州有林の管理形態の変化の現状について,ドイツ各州にわたる把握・整理を行うとともに,新たな州有林管理形態の公企業としての性格の把握を試みた。その結果,(1) 2000年代当初に一部の州でみられた州有林管理形態の変更は既にドイツ全州へ広がっており,より企業性の高い会計方式が採用されるようになった,(2) その背景には州政府全体の行政改革の展開がある,(3) ドイツ各州が採用した州有林管理形態は,州公企業もしくは公法上の営造物(公社)のいずれかであり,私法人化は選択されなかった,(4) これらの州有林管理形態の変化は,統一森林行政の採用の有無とは直接には対応していない点が明らかとなった。
feedback
Top