日本森林学会誌
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98 巻, 3 号
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論文
  • 井上 みずき, 石川 雄一, 星崎 和彦, 高階 史章, 松下 通也, 蒔田 明史
    2016 年 98 巻 3 号 p. 101-107
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    資源減少に伴い,天然スギ林では立木ごとの個体管理が重要となってきている。そこで,およそ300年生の天然秋田スギが生育する仁鮒水沢スギ植物群落保護林において,1-ha 調査区を設定し,2006年と2010年に毎木調査を行い,スギの肥大成長速度を把握し,土壌深(A層とAB層の厚さの合計値)・土壌水分(体積土壌含水率)・光(樹冠の相対凹凸度)・隣接木との競争(立木周辺の他のスギ立木の胸高断面積(BA)合計密度)が成長速度へ及ぼす影響を明らかにした。スギの胸高直径(DBH)は80.4±25.3(平均±SD)cm,DBH 成長速度は0.18±0.21cm/year であった。観測された水分条件範囲の大部分で,土壌水分の増加に対し,DBH 成長速度は減少していると一般化線形モデルから推定された。本調査地では一部の立木が過湿状態に置かれている可能性があるが,土壌水分と連動する他の土壌養分の影響の可能性もあるので精査が必要である。さらに,隣接木のBA合計密度が成長に負の影響を与える傾向にあったことから混み合った状態で隣接したスギと土壌水分以外の光や養分獲得の競争が起きている可能性もある。

  • ―北海道・占冠村における猟区設定過程と地域社会の関係に対する分析から―
    安田 章人
    2016 年 98 巻 3 号 p. 108-117
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    北海道において,エゾシカと人間社会との軋轢が深刻化している。その対策の一環として,猟区を設定しエゾシカを狩猟資源として活用する試みが始まっている。本研究では,2014年に設定された占冠村猟区を事例とし,猟区設定過程が地域社会にもたらす社会的な影響を分析した。占冠村は,猟区とレクリエーショナル・ハンティングがもたらす可能性のうち「安全な狩猟の実施」「個体数の管理」「地域経済への好影響」を挙げて,住民への説明を行い,猟区設定を進めてきた。これに対し,聞き取りを行った住民からは,「安全な狩猟の実施」を期待する声が多く聞かれたものの,農業被害対策が重視されていないことへの懸念が聞かれた。また,「地域経済への好影響」に対する期待はほとんど聞かれず,むしろ過去の観光開発のように猟区設定がトップダウン的に行われようとしていることに対する不安が聞かれた。このため,野生動物管理や地域活性化のツールとして猟区とレクリエーショナル・ハンティングを活かすためには,行政による十分な説明と住民主体の活動を軸として,住民生活や地域の歴史などと柔軟に「すり合わせ」を行うことが必要であると考えられる。

  • 山田 健四, 大野 泰之
    2016 年 98 巻 3 号 p. 118-123
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    大径材の生産が期待される北海道のカラマツについて,胸高直径9~56cm,樹高10~34m の幅広いサイズクラスから得られた630個体,4,562断面のデータをもとに相対幹曲線を作成し,材積計算を行った。相対幹曲線の関数として3次式とべき乗式を採用し,各パラメータが胸高直径と樹高の影響を受けると仮定して,根張りの影響を排除した測定高1.3m 以上のデータとすべてのデータを用いて相対幹曲線を決定した。直径の予測値の二乗平均平方根誤差が梢端と地際を除くほぼすべての各相対高階で最小となった,3次式で1.3m 以上のデータを用いたものを最適モデルと判断した。最適モデルでは3次のパラメータから樹高と胸高直径の影響が削除されたが,2次と1次のパラメータには残された。得られた相対幹曲線をもとに材積計算を行ったところ,中島の材積表や井上・黒川の理論的材積式より正確な予測値が得られた。

短報
  • 石黒 秀明, 相川 拓也
    2016 年 98 巻 3 号 p. 124-127
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    マツノザイセンチュウは,マツノマダラカミキリ雌成虫が産卵するために作った傷(産卵痕)を経由して枯死木へ侵入することが示唆されているが,野外でそれを確認した例はなかった。そこで我々は,マツ材線虫病以外の要因で枯死したアカマツを対象木とし,マツノザイセンチュウがマツノマダラカミキリの産卵痕を通じてマツ枯死木へ侵入するかどうかを明らかにするための調査を行った。枯死木にはマツノマダラカミキリが多数産卵し,その幼虫が作った穿入孔や蛹室が多数形成されていた。マツ材線虫病診断キットを用いて産卵痕直下の材片,産卵痕も幼虫の食痕もない無傷の材片,そして蛹室壁の材片におけるマツノザイセンチュウの存在を確認したところ,どの材片からもマツノザイセンチュウの陽性反応が確認された。本調査により,野外においてマツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリの産卵痕を経由してマツ枯死木に侵入することが初めて証明された。

  • 原口 雅人, 三宅 定明, 吉田 栄充, 大野 武
    2016 年 98 巻 3 号 p. 128-131
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー
    電子付録

    2011年3月の福島第一原子力発電所事故後,原木栽培ナメコは他の露地原木栽培きのこに比べ,子実体の放射性セシウム濃度が高い傾向であった。そこで,ヒノキ原木によるナメコ栽培に取り組んでいる埼玉県ときがわ町内において,2013年4月から場所・林相の異なる5カ所で栽培試験を開始した。各試験地には,無処理区,土壌表層0~5cm除去区,寒冷紗被覆区を設けた。2014年10~11月に子実体を収穫した。子実体の放射性セシウム(134+137Cs)濃度は無処理区の1本のほだ木で45Bq/kg生重であったが,無処理区の平均値は13Bq/kg生重であり,十分に安全であった。土壌表層0~5cm除去区の放射性セシウム濃度の平均値は8.5Bq/kg生重で他の2区に対して有意に低かった。また,子実体中の放射性セシウムの134Cs/137Cs値は,今回の事故により放出された放射性セシウムの値,もしくは調査地のリター層の値と一致しており,土壌表層や原木の値とは異なっていた。

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