日本森林学会誌
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98 巻, 6 号
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論文
  • ―2014年林野庁の全国調査をもとにした分析―
    井上 真理子, 大石 康彦
    2016 年 98 巻 6 号 p. 255-264
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー

    森林・林業分野では,人材育成の視点から専門教育へ関心が高まっている。高校の森林・林業教育の現状について,「専門高校における森林・林業教育に関するアンケート調査」(林野庁研究指導課,2014年)をもとに,学科の状況,生徒数,教員数,演習林や施設,教育内容,進路を分析した。アンケートは,森林・林業関連学科・科目設置校を対象に郵送法で実施した。その結果,森林・林業関連(72校)の生徒数は4,987人(高校生総数の0.15%),男女比は8:2で,担当教員267人のうち森林・林業の大学等卒業者は約4割しか居なかった。演習林は70校が保有し,64校が活用していた。科目は,「森林科学」と「林産物利用」を9割,「森林経営」を6割の学校が設定していた。これら3科目ともに半分以上の項目を教えているのは42校(6割)で,13校(2割)は1科目以下であり,多様化していた。卒業生の進路は,森林・林業系に15% が進み(就職者195人,進学者75人,2011~2013年平均),9割の学校から森林・林業分野へ人材を輩出していた。今後の課題は,教育目的にあった教育内容の検討,大学や大学校との連携,教員研修が挙げられた。

  • 大平 峰子, 花岡 創, 平岡 裕一郎, 栗田 学, 井城 泰一, 三浦 真弘, 渡辺 敦史
    2016 年 98 巻 6 号 p. 265-272
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー

    スギのさし木発根性に関する高精度の形質データの取得に向け,発根性に影響する環境要因の一つである用土の検討を行った。ミスト灌水条件で12種類の用土に精英樹3クローンをさし木し,用土の理学的性質と発根率およびさし木苗の根長との関係を分析した。まず用土の理学的性質の主成分分析により,透水性および保水性という2軸によって用土を分類できることを明らかにした。これらの用土間で発根率および根長の差が認められた。さらに,用土の透水性と保水性を示す性質を説明変数としてDIC (偏差情報量基準) 値によるモデル選択を行った結果,気相と液相の比およびその二次項を説明変数としたモデルが最適モデルとして採択された。このモデルによって気相と液相の比が約1.0で発根率が最大となる負の二次曲線状の関係が予測され,気相と液相の比が発根率の変動を把握するための指標となることが示唆された。発根率の最適条件に該当するのが鹿沼土小粒およびココナツハスクであり,ココナツハスクより鹿沼土小粒で根長が大きかったことから,鹿沼土小粒がスギのさし木増殖ならびにさし木苗の根系形質評価に最適な用土であると考えられた。

  • 渡辺 直登, 岡田 知也, 戸丸 信弘, 西村 尚之, 中川 弥智子
    2016 年 98 巻 6 号 p. 273-278
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    ナラ枯れ被害林分の変化は,構成樹種の違いによって異なることが予想される。愛知県海上の森の三つの林分(発達した下層木を持つ林分,持たない林分,上層木にアラカシを交えた林分)における7年間の毎木調査の結果,ナラ枯れ被害は発生から5年の間で特に激しく,コナラとアベマキの死亡率は同程度であり,最終的には幹数にして両種ともに6割程度が枯死したことがわかった。これにより林分の胸高断面積合計は2割程度低下した。一方で,胸高直径(DBH) 5 cm 以上の上層木におけるタカノツメやヒサカキ,およびアラカシでは高い新規加入率を示し,ソヨゴやリョウブでは成長速度が速い期間が認められた。下層木(DBH 1 cm 以上5 cm 未満)でもタカノツメ,ヒサカキ,アラカシに加えてネズミモチやヤブツバキで高い新規加入率と成長速度が確認された。そのためナラ枯れ被害林分は,林相の違いによって,残存コナラが高木層をしばらくは維持しつつも亜高木層に落葉広葉樹が繁茂する,すぐには大きな変化はないものの将来的には高木層をほぼ欠いた低~中層に常緑広葉樹が繁茂する,もしくはアラカシが優占する林分へと移り変わっていくことが考えられた。

  • 田村 淳, 上山 真平, 松崎 加奈恵, 鈴木 哲平, 藤森 博英
    2016 年 98 巻 6 号 p. 279-285
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    シカの影響の強い神奈川県丹沢山地の3流域(白石沢,用木沢,本谷川)の落葉広葉樹で構成される渓畔林に隣接した針葉樹人工林において,受光伐直後にシカの採食圧を排除する植生保護柵(以下,柵)を設置して,5,6年後に柵の内外で天然更新による高木性樹木稚樹(以下,更新木)の種名と個体数,樹高を調べた。3流域で更新木は18~36種出現して,フサザクラとケヤキ,オニイタヤなど13種は3流域に共通して出現した。更新木の種数と個体数ともに風散布型が多く,更新木の種の50%以上および個体数の80%以上には,調査地の外側30m圏内に種子供給源となりえる同種個体があった。柵内における樹高150cm 以上の更新木の個体数は,ha 換算して白石沢では27,500本,用木沢では2,083本,本谷川では7,500本であった。3流域ともにフサザクラなどの先駆性樹種が樹高の上位を占めていた。一方,柵外では更新木の種数と個体数は柵内よりも少なく,樹高が30cmを超えたのはオオバアサガラのみであった。以上のことから,シカの影響の強い渓畔林に隣接した針葉樹人工林では受光伐直後に柵を設置することにより周辺の渓畔林を種子供給源とした更新木が多数侵入,定着して,針葉樹との混交林化の可能性が示された。

  • 安藤 正規, 鍵本 忠幸, 加藤 正吾, 小見山 章
    2016 年 98 巻 6 号 p. 286-294
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー

    落葉樹林に生育する樹上性の半寄生植物であるヤドリギ (Viscum album L. subsp. coloratum Kom.) の分布に,林冠構造が与える影響を検討した。落葉樹林に170×190m のプロットを設置し,各立木 (胸高直径≧20cm) のヤドリギの有無を記録した。立木位置,樹冠投影面積,樹高,梢端高 (樹高+標高) をもとに,解析木からある距離の円内に存在する立木本数を,各解析木の孤立や突出の指標とした。各解析木周囲の立木本数とヤドリギの分布との関係を調べるために,一般化線形混合モデルによるロジスティック回帰分析を行った。解析木周囲の立木本数の増加は,ヤドリギの存在に有意な負の効果を示した。梢端高を考慮しない立木本数のカウント方法に比べ,解析木より梢端高が高い立木のみを対象としたカウント方法においてモデルの妥当性が高かった。落葉樹林において,樹冠の孤立と突出が,ヤドリギの分布を決める重要な要因であると考えられた。ヤドリギの分布は林冠木の空間獲得競争に関係していることが示唆された。

短報
  • ―杭州市桐廬県の農村における農家楽の将来的発展のための課題―
    方 琳, 山本 信次
    2016 年 98 巻 6 号 p. 295-300
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    現在中国では,農家楽は三農問題の解決に資する存在として注目されている。先行調査の結果中国の都市化進行地域において,都市化が極めて進んでいる地域でも農山村地域の自然や景観のありのままの姿を楽しむ意識は未だ薄い可能性が示唆された。こうした点から,本研究では中国浙江省における農村・農家楽に対するイメージ・意識調査を実施した。調査の結果,現在中国浙江省では,多くの若者は農村・農家楽に対して良いイメージを持っているが,実際の利用行動として,辺鄙農山村地へ行って,本当の「農」を楽しもうという意識はまだ低いこと,観光分野を専攻している学生でもグリーン・ツーリズムに対する認識は未成熟であること,「辺鄙農山村地農家楽」に関心のある人は自然と触れ合いが多い体験内容や長期的滞在および安価の料金への希望がみられることが明らかとなった。

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