日本森林学会誌
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99 巻, 3 号
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論文
  • 石榑 康彦, 川﨑 晴久, 石田 仁
    2017 年 99 巻 3 号 p. 99-104
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2017/08/23
    ジャーナル フリー

    林業従事者がチェーンソーを用いて枝打ちや枝払いなどの作業をする場合, 枝の撓み具合などを考慮して, 枝がチェーンソーのガイドバーを噛まないように切断する方向を工夫している。チェーンソーをロボットに搭載するときは, 切断方向が一方向のため枝噛みが生じ, ロボットは切り進められなくなる。本論文では,枝切断時, ガイドバーと枝の接触点における力をモデル式で表し, 切り進むために必要な推進力を推定した。そして, 枝噛み現象を再現した切断実験装置を用いて, 枝噛み防止機構の搭載と未搭載における走行モーターに流れる電流値を比較した実験を行い, 未搭載の場合 148.9±20.7 mA に対し搭載した場合は 85.5±17.2 mA と低く, 有意差検定 (Man-Whitney U 検定, p<0.05) では有意差有りの結論を得た。提案する枝噛み防止機構は, 枝噛み現象の防止と円軌道切削における枝の切り口を押し広げて切り進むときに受ける反力を低減し, 有効性を明らかにした。

  • 飯田 佳子, 山川 博美, 野宮 治人, 安部 哲人, 金谷 整一, 正木 隆
    2017 年 99 巻 3 号 p. 105-110
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2017/08/23
    ジャーナル フリー

    本研究では造林地内の空間不均質性に着目し,1)造林木の成長および造林木と雑草木との競合関係が地形により異なるか,さらに,2)場所によるランダム効果の取り扱い方の異なるモデル間で地形の効果が異なるか,を斜面長100 m傾斜角約30 度の4 年生のスギ若齢林で検討した。地形変数(尾根からの距離と傾斜角)が3,4 年生時のスギの樹高およびスギと雑草木の競合関係に与える影響を三つの統計モデル(ランダム効果を考慮しないモデル,場所のランダム効果を考慮したモデル,空間自己相関を考慮したモデル)で解析した。結果,尾根からの距離が大きいほどスギの樹高が高かった。スギの樹高が低い,または,尾根からの距離や傾斜角が大きいほど,雑草木から被圧されやすかった。他のモデルと比べ,空間自己相関を考慮したモデルでは地形変数の効果の信用区間は広がり,効果の評価が下がった。スギの成長や雑草木による被圧が斜面位置によって異なることから,斜面位置によって下刈頻度を変えることも下刈省力化の選択肢の一つとして考えられるが,一方で,要因の検出において空間情報の取り扱い方やサンプリングの方法を十分に検討する必要があると結論付けた。

  • 長島 啓子, 笛木 まな美, 岡本 宏之, 田中 和博
    2017 年 99 巻 3 号 p. 111-119
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2017/08/23
    ジャーナル フリー

    本研究はH 型架線による集材の可能性を判断するための目安を広域的に示すことを目的に,H 型架線の架設可能地および集材可能地を面的に抽出する手法を,地理情報システム(GIS)を用いて開発した。まず数値標高モデルをもとに,GIS を用いて半径750 m の範囲の尾根の標高値の平均を通る架線架設面を算出した。そして架線架設面から標高値を減算し,架線の垂下量を考慮して架線下高141 m が得られる架線架設可能地を抽出した。さらに,路網の有無や人工林の分布情報と重ね,人工林集材可能性評価図を作成した。上記手法を三重県大台町の人工林14,911 ha に適用したところ1,045 ha が集材可能地とされた。実際の架設事例との比較の結果,本研究手法による集材可能地面積は実際の集材範囲より1.26 ha 広かったが,その範囲を概ね抽出していた。抽出面積の違いは実際の支点が本研究手法で想定された支点よりも低く設置されたことに起因しており,想定通りの結果といえた。本研究手法は荷上索の垂下量の推定などが課題として残るものの,比較的簡便に広域を評価でき,多様な作業システムに対応した森林管理計画を立てる上で有効であるといえる。

  • 牧野 奏佳香, 徳地 直子, 福島 慶太郎, 川上 智規
    2017 年 99 巻 3 号 p. 120-128
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2017/08/23
    ジャーナル フリー

    富山平野中央に位置する呉羽丘陵と射水丘陵は近接しており,近年の窒素(N)負荷量は同程度であるにもかかわらず,呉羽丘陵内の集水域からのN 流出量が射水丘陵内の約17倍多いことが報告されており,呉羽丘陵でのみ窒素飽和が指摘されている。そこで本研究では,呉羽丘陵における窒素飽和現象について,2丘陵の生態系内のN シンク,すなわち,林分内の植生および土壌への保持,および渓流水への流出を比較し,動的窒素飽和概念モデルを用いて説明を試みた。その結果,土壌への N 蓄積量には2丘陵間で差はなかったが,表層(0~10 cm)の純N 無機化・純硝化速度は呉羽丘陵で有意に高かった。生葉の N 濃度や植物から林床へのN 還元量も呉羽丘陵で多かったことから,植物のN 保持は呉羽丘陵でより多いと考えられた。採取した渓流水中の硝酸態N 濃度は呉羽丘陵で有意に高く,呉羽丘陵からのN 流出が多い状態は継続していると考えられた。これらのことから,呉羽丘陵では植生のN 保持が多く,これがリター還元を通じて表層土壌のN 無機化・硝化速度を高め,系外へのN 流出が増加する,動的な窒素飽和が進行していると考えられた。

  • 知念 良之, 西野 吉彦, 芝 正己
    2017 年 99 巻 3 号 p. 129-135
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2017/08/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    産業用および家庭用燃料資材の調達という観点から,沖縄県宮古地域の西端に位置する多良間島におけるバイオマス資源の利用形態および需給状況の変化を分析し,地域社会や行政の取組の特徴を明らかにすることを試みた。1898年に製糖が始まると砂糖樽や製糖用燃料の需要が高まった。砂糖樽用材料は移入し,製糖用燃料はバガスや落葉等で代用され,当初は家庭用燃料資材と競合しなかった。しかし,人口増加や製糖の拡大に伴って落葉等の消費量が増加し,肥料生産と競合して耕作地の生産性低下を招いた。このため,1917年に近代的な森林管理の手法と技術を導入し,入会林野の造林計画を編成してリュウキュウマツが植林された。しかし,入会林野の伐採は禁止されたことで私有林の価値が高まった。1938年に行政による造林の奨励とモクマオウの導入で,私有林を中心に森林面積が拡大して砂糖樽の島内生産も行われた。戦後は,人口減少や砂糖樽が紙箱に変化したことにより薪を近隣の島に移出する余力が生まれたが,1960年代以降は代替燃料の普及により造林は衰退した。多良間島では,住民と行政の取組によりバイオマス資源の持続的生産に一定の成果がもたらされた。

短報
  • 田中 功二, 飯田 昭光, 土屋 慧, 小岩 俊行, 松本 則行, 中村 弘一, 高田 守男, 平井 敬三, 平岡 裕一郎, 田端 雅進
    2017 年 99 巻 3 号 p. 136-139
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2017/08/23
    ジャーナル フリー

    日本産漆の需要量が高まる中,今後の日本産漆を安定的に供給するため,ウルシの資源増産が必要であり,そのためには植栽適地を評価することが緊急かつ重要な課題となっている。本研究では青森県,岩手県,新潟県,茨城県4県における111カ所のウルシ林分を対象として,植栽木の成長と複数の立地環境および林分状況との関係を調べた。応答変数を胸高直径の林分平均値,説明変数を六つの固定効果(立木密度,斜面方位,土壌群,年平均気温,最大積雪深,つる被害割合)と一つの変量効果(県)とした一般化線形混合モデルおよび一般化線形モデルにより解析を行った。赤池情報量基準に基づいてモデル選択を行った結果,選ばれたモデルでは年平均気温で正の係数,最大積雪深で負の係数が示された。これまでに広域のデータに基づく環境要因の影響を明らかにした報告はなく,本研究は環境要因に基づくウルシ植栽適地の判定に有用な情報を提供するものである。

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