日本森林学会誌
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99 巻, 5 号
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論文
  • 浅田 龍造, 海邉 健二, 大友 順一郎, 山田 興一
    2017 年 99 巻 5 号 p. 187-194
    発行日: 2017/10/01
    公開日: 2017/12/01
    ジャーナル フリー

     国土の約7割を森林が占める我が国において木質バイオマスの賦存量は大きいが,そのエネルギー利用は進んでいない。その理由として,木質バイオマスの生産コストが高いことやエネルギー利用の需給システムが未確立であることがあげられる。本研究では,人工林の地拵えから伐出までの一連のプロセスを対象として,高コストとされる木質バイオマスの生産プロセスに焦点を当て,地域別,傾斜度別,林業機械別にプロセスごとの詳細な積み上げ法により経済性評価を行った。その結果,木質バイオマスの生産コストに単位面積当たりの材積が大きな影響を及ぼすことを定量的に示した。また生産コストが低いとされるスウェーデンと比較したコスト構造の現状分析と,都道府県別に傾斜度がコストに及ぼす影響の感度解析を行った。それらの結果を基に,生産コスト低減のための技術的課題の抽出と,木質バイオマスの利用拡大を実現するための種々の条件と対策(技術シナリオ)を検討した。技術シナリオに基づく試算例として,木質バイオマスの生産コストは既存の対策の組み合わせにより,緩斜面については現状の約3分の1である約4,000円/m3 まで低減できる可能性を示した。

  • 村田 政穂, 奈良 一秀
    2017 年 99 巻 5 号 p. 195-201
    発行日: 2017/10/01
    公開日: 2017/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

     トガサワラ林の外生菌根菌 (以下,菌根菌) の種構成や出現頻度が土壌の深さによってどのように変化するかを明らかにするため,成木の菌根と埋土胞子の種組成を調べた。奈良県三之公川のトガサワラ林内の25 地点において,四つの土壌深度区別に土壌ブロックを二つずつ採取した。二つの土壌サンプルのうち,一つからは成木菌根を取り出し,DNA 解析によって菌種同定を行った。もう一つの土壌サンプルは,埋土胞子の種組成を調べるためバイオアッセイに供試した。バイオアッセイではダグラスファーとアカマツ実生を宿主とし,育苗後にDNA 解析で菌種を同定した。その結果,成木の菌根菌の出現頻度と菌根菌種数は土壌深度が深くなるにつれて減少する傾向がみられたが,菌根菌の埋土胞子は最も深い土壌で出現頻度が高くなる傾向を示した。また,埋土胞子の菌根菌はショウロ属のみが検出され,それらの感染によって苗の成長は有意に促進された。埋土胞子は攪乱後の菌根菌の感染源として重要であるが,その垂直分布についてはこれまでに報告がなく新たな知見である。さらにトガサワラも攪乱依存種と考えられており,本種の保全において菌根菌の埋土胞子を活用できる可能性がある。

  • 岡山 奈央, 田中 伸彦, 本田 量久, 松本 亮三
    2017 年 99 巻 5 号 p. 202-209
    発行日: 2017/10/01
    公開日: 2017/12/01
    ジャーナル フリー

     神奈川県平塚市ゆるぎ地区の里山をケーススタディ地として,KJ 法を活用した写真投影法を用いて,来訪者の景観の選好性について調査した。対象者は,2014 年9 月21 日に子どもを連れ,里山散策や農作業体験を行った17 人の里山散策の引率者で ある。対象者が里山体験でプラスの印象に残った良い場面として撮影した437 枚の写真を分析した結果,写真は「森林」,「畑」,「展望」,「水辺」,「文化」,「その他」の6 クラスターに大分類でき,各クラスターはさらに,近景~遠景の違いなどよってサブクラスター化できた。結果を考察すると,里山活動や里山散策の際に良いと感じる景観は,一般的に人々が観光資源であると認識しやすい景観である眺望や水辺,文化財などが好まれることが実証された一方で,谷筋の木道などの添景,木の実などの至近景,人々の活動景なども選好度が高いことがわかった。以上より,里山では観光目的地となる美しい景観を保全管理することも重要であるが,突出した風景とはいえないながらも,来訪者の感性に訴えかける保全管理が必要であることが指摘できた。

短報
  • 鶴田 燃海, 王 成, 加藤 珠理, 向井 譲
    2017 年 99 巻 5 号 p. 210-213
    発行日: 2017/10/01
    公開日: 2017/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

     ‘染井吉野’ は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3 集団で ‘染井吉野’ の連鎖地図に座乗するSSR マーカー 27 座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に ‘染井吉野’ のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54 個の ‘染井吉野’ 対立遺伝子のうち,44.4% がエドヒガン由来,33.3% がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2% は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は, ‘染井吉野’ の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し, ‘染井吉野’ が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。

その他:書評
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