1. 松類の針葉の伸長期間は比較的長期に亘るものにして、本調査の結果によれば、大王松にありては130日内外、アカマツ、クロマツにありては120日内外に及ぶものの如し而して其の生長の經路は、樹種によりて多少其趣を異にし、大王松にありては、針葉の開舒後40日内外即ち成熟針葉長の30%内外の長さに達する迄は伸長量を遞増して高極に達し、以後伸長量を漸減して終に伸長を休止するに至るも、アカマツ、クロマツにありては、伸長開始後に於ける伸長量の變化は比較的小なるものにして、開舒後80日内外即ち成熟針葉長の85%内外の長さに達する迄は略同似の速度を以て伸長を繼續し、以後伸長量を漸減して伸長を休止するに至る。而して是等の生長曲線は、内因によりて支配せらるゝものにして、寧ろ種毎に特有なる曲線即個性的のものと解するを得るが如し。
2. 大王松の針葉は五月上旬より十一月中旬に至る期間伸長するも、最旺盛なる伸長をなすは六月乃至八月の候なるを認めたり、此結果よりすれば、最低氣温0°C以上にして、平均氣温12.3°C以上なるに於ては、伸長し得るものの如く、最適温度は25°C内外なりと云ふを得るが如し。
3. 針葉は温暖適潤にして蒸散作用が適度に進行し得るが如き環境に於て、最良の生長をなし得るものの如し、然り而して氣温、水濕、及日射、蒸發量等の如く生理機能の運行、膨壓、蒸散作用に關係ある諸因子の間には、Physiological limittの限界内に於て、limitting factorの理論を適用し得るものの如く、本調査に於ては關係濕度72%を境として、より空氣乾燥し且土壤も乾燥せりと認め得る場合には、針葉の伸長と氣温、地温、日照時數、蒸發量等との間には負の相關々係の存在を、降水量、關係濕度等との間には正の相關々係の存在を認むるを得、逆に關係濕度約72%以上にして土壤も濕潤なりと認め得る場合には、是と全然反對の傾向の存在を認むるを得たり、但關係濕度72%以下の場合と雖、土壤適潤なる場合には、日照時數、蒸發量等と負又は低次の相關々係の存在を示し、降水量及濕度と正の相關々係の存在を示すことは、空中濕度低く、土壤乾燥せるときと同様なるも、氣温とは正の相關々係の存在を示せり、即ち氣温と日射、蒸發作用等とは別個の意味を以て生長に關係を持つ因子と云ひ得るが如し、之を要するに、蒸散作用は乾燥時期に於ては植物體よりの不可避の水分奪取現像として有害に作用するも、常に膨壓を呈し得るが如き温暖多濕なる環境に於ては、却て伸長を促進する作用を有するものなりと云ふを得、而して其の利害の分岐點は關係濕度72%内外なりと云ひ得るが如し。
4. 針葉の伸長と地中温度との間には低次又は負の相關々係存する場合多きが、是は土壤温度が適度なることを意味する他に、土壤の乾燥が針葉の伸長に有害なることをも意味するものとす、而して土壤の温度及乾燥度に對する感度は樹種によりて異り、アカマツは他の樹種に比し、土壤の乾燥に對し鈍感なるが如し。
5. 最高最低の温差は、空氣の乾濕、日照時數、蒸發量等の綜合に對するよき指標たり得るが如し。
6. 樹木の主幹は主として氣温、及水分の綜合影響を受けて生長するものと解し得るも、針葉の生長には更に蒸散作用の適度なる進行が必要缺くべからざる因子なる點に於て大なる特徴あり、故に環境に應じて、樹葉の受光量を適度に調節することは、單に葉に於ける光力合成作用の進行を圓滑ならしむる意味に於て必要なるのみならず、蒸散作用の進行を圓滑にし、夫に伴ふ生理機能の活動を旺盛ならしめ、同時に葉の生長を促進し、延ひて樹幹の生長を旺盛ならしむる上に於て、必要缺くべからざる手段なりと云はざるべからず。
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