日本林学会誌
Online ISSN : 2185-8195
Print ISSN : 0021-485X
82 巻, 1 号
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  • 中山 誠憲, 小林 達明, 窪田 順平
    2000 年 82 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ポット苗木を用い, 土壌層を5層に設定し, 各層での根系の吸水量を推定した。さらに地下部での通水抵抗 (吸水抵抗) の発生要因について考察した。灌水停止処理による各層での吸水パターンの変化をみたところ, まず上層で吸水が盛んに行われ, 次第に下層へと移行し, 最終的には全土層で吸水は行われなくなった。吸水コンダクタンスは毛管連絡切断点付近より著しく低下し始めた。地上部と地下部の通水抵抗を比べると土壌の乾燥に従い地下部では抵抗が増加する傾向にあったが,地上部では抵抗は低く保たれていた。土壌乾燥時における通水抵抗の主な増加は根と土壌の境界部分において生じたものと考えられる。
  • 阿部 信之, 橋本 良二
    2000 年 82 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    母樹保残法更新面のコナラ当年生稚樹のガス交換特性について, 閉鎖林冠下の当年生や3年生稚樹および林縁の若木と比較した。また, 小形掘削機による地床処理にともなう土壌の圧密化が,当年生稚樹の成長にどう影響するかを調べた。当年生稚樹では, 光合成の強光阻害は, 稚樹の発生場所にかかわらず, 認められなかった。更新面の当年生稚樹の光飽和光合成速度 (Pmax) は, 林冠下の稚樹の3~4倍あり, 生育日射量にともない大きく変化した。更新面の当年生稚樹で気孔コンダクタンス (gs) の日中低下がみられたが, それほど顕著ではなかった。地床処理により, 土壌表層の容積重は, 20~40%増大した。地床処理区では, 当年生稚樹の葉は厚く, Pmaxは低かった。しかし, 当年生稚樹の日中のgsは, 地床処理区で高く保たれ, 無処理区との間で成長量にちがいはなかった。以上により,コナラ当年生稚樹は, 更新面の強光および乾燥環境によく順応し, 土壌圧密化に対しても耐性をもつと考えた。
  • 横井 秀一, 山口 清
    2000 年 82 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    積雪地帯では, スギ不成績造林地の発生による経済的な損失と林地の公益的機能の低下が問題となっている。そこで, 既存のスギ人工林の成林状況 (成林度) に影響する立地環境を解析し, 造林限界の再検討を行った。調査は岐阜県飛騨地方の最深積雪1.0~3.0mの地域で行い, 成林度と立地要因の関係は数量化1類を用いて解析した。成林度に最も強く影響した要因は最深積雪で, 積雪深が大きいほど成林度は低くなった。成林度の出現頻度分布を最深積雪深ごとに検討した結果, スギの造林は最深積雪1.5m未満で可能, 2.5m以上では困難であると考えられた。最深積雪1.5~2.5mの地帯では, 最深積雪とともに斜面の傾斜と縦断面の形状が成林度に影響し, 急傾斜や凹地形の斜面で成林度が低かった。したがって, この地帯でのスギ造林では, このような地形を避ける必要があると考えられた。
  • 浅野 友子, 大手 信人, 内田 太郎, 勝山 正則
    2000 年 82 巻 1 号 p. 20-27
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    森林植生が流域の酸中和機構に与える影響を定量的に評価することを目的に, 基岩地質は同じで植生の発達段階の異なる三つの小流域で行った水質水文観測の結果から, 年降水量の異なる2年分のH+収支を算出した。この結果, 森林の成立に伴う生物活性の増大により, 有機物の無機化, 窒素の形態変化によるH+生成量が増加することが示された。一方, 森林流域では蒸散量の増加による流出水量の減少の結果, CO2の溶解•解離によるH+生成量は減少した。植物のイオン吸収量の推定値を考慮すると, 森林の成立によりH+生成量の合計は2.3~4.0倍に増加したが, どの流域でも生成したH+の96%以上は風化および陽イオン交換によって流域内で消費されることが示された。大気からのインプット,窒素の形態変化, 有機物の無機化とCO2の溶解•解離によるH+生成量の合計は, 年降水量や年流出水量の変動により大きく変動し, その変動幅は, 森林植生の有無による変動幅と同程度であった。
  • 長谷川 幹夫, 平 英彰
    2000 年 82 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    スギ不成績造林地において, 伐採前の林分構造とスギ造林後に侵入した広葉樹の種組成構造の特徴について検討した。相対成立本数密度による伐採前の主な優占種は, 斜面下部ではスギ, 中部ではウダイカンバ, スギ, 上部ではブナであった。その皆伐跡地に造林したスギ幼齢林内に成立した優占種は, いずれの斜面位置でもウダイカンバ, ミズメ, ホオノキとなり, 斜面上部ではブナ, ミズナラが再生したが, 優占種ではなくなった。稚樹が最も多く発生した年はミズナラでは, 伐採年に,ウダイカンバ, ホオノキなどでは, 伐採後2年を経過したスギ植栽の翌年においてであった。ミズナラでは前生稚樹または伐採直前の落下種子から, ウダイカンバ, ホオノキは地拵え, 植栽によって発芽床が与えられた種子から発生したと考えられた。造林地に侵入する広葉樹は種子が埋土種子になり, 風および鳥などによって種子が広範囲に散布され, 皆伐, 地拵え, 植栽などの地表撹乱によって更新が促進される種によって構成されることが明らかになった。
  • 柴田 豊太郎, 山谷 睦, 二階堂 太郎, 塚原 初男
    2000 年 82 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    多雪•豪雪地における幼齢スギの樹冠形を, 最近2年間の頂枝の優劣勢によって, 2タイプに区分した。頂枝成長がどの側枝よりも優勢ならば, その樹冠形は優勢 (A) タイプ, いずれかの側枝よりも劣勢ならば, その樹冠形は劣勢 (B) タイプとした。Aタイプ林木の樹高および直径成長量, 胸高位置の雪圧抵抗は, Bタイプ林木よりも大きかった。Aタイプ林木に発達する冠雪荷重は, Bタイプ林木よりも軽量であった。雪圧の強い急傾斜面の林木で, サイズが等しい個体ごとに比較すると, Aタイプの根元曲がり被害は, Bタイプよりも軽度であった。これより最近2年間頂枝の優勢な樹冠形を維持し続ける幼齢スギは, 頂枝の劣勢な樹冠形を維持し続ける林木よりも雪害抵抗性の大きいことが示された。
  • -豊凶予測手法の導入の有効性-
    小山 浩正, 八坂 通泰, 寺澤 和彦, 今 博計
    2000 年 82 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    北海道西南部のブナ天然林において, 豊作年の前年と当年にかき起こしを行つた場所の実生発生を調べた。この調査の目的は, 最近開発したブナの豊凶予測手法を活用してあらかじめかき起こしを実行しておくことが, ブナの更新の促進に有効かどうか確かめることである。同手法により, 1997年のブナ林の豊作を前年 (1996年) の秋に予測した。そこで, この時点であらかじめかき起こしをした場所 (調査地A) と, 豊作当年に大量の堅果が落下したことを確認してからかき起こしをした場所 (調査地B) に調査地を設定し, 1998年の実生発生数を調べた。この結果, 調査地Bでは実生の発生が少ないのに対して, 調査地Aでは更新が促進されていることが明らかになった。このことから, 豊作年の種子散布期以前にかき起こしをしておく必要があり, その際には豊作予測手法が有効であることが示された。ただし, 更新に必要な実生数が発生しているのは母樹の樹冠下と樹冠から5mまでの範囲であり, 多少とも実生の発生が観察されたのも10mまでであった。これらの更新可能な場所では, 予測に従い豊作にあわせたかき起こしを行えばブナの天然更新の成功確率は高くなると考えられる。
  • 生方 正俊, 飯塚 和也, 板鼻 直栄
    2000 年 82 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ミズナラにおける堅果生産の変動要因の解明および堅果生産量を予測する技術を確立するために, ミズナラ交配園を対象に開花後の雌花の結実過程と6年間の堅果生産数の調査を行った。交配園には, 北海道内各地から選抜されたミズナラ62クローンが植栽されている。1993年には, 開花した雌花の6割以上が7月中旬までに落下した。成熟堅果数は7月中旬の幼堅果数との相関が高く, 7月中旬にはある程度堅果生産数を予測できることがわかった。1993年から1998年まで6年間の総堅果数についてクローン間に有意な差が認められた。34クローンで4年以上堅果生産がみられたが, これらの各クローンの堅果生産数の年次変動パターンは, 交配園全体の変動パターンと同調していなかった。クローンの選抜地を北海道の東部および西部の二地域に分割すると, 地域間のクローンの組合せで年次変動パターンが同調したものは, 同一地域内での組合せに比べ, 有意に少なかった。また, 交配園全体および各クローンの堅果生産数と開花期の降水量との間に相関は認められなかった。
  • -愛媛県久万町を事例として-
    松本 美香, 泉 英二, 藤原 三夫
    2000 年 82 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    愛媛県久万町内の森林に対する1996年度林野補助事業について, 関係自治体および林業事業体の資料と民間事業体へのアンケートの調査結果をもとに, 地域内の補助金波及構造を実態的に把握した。調査地の林野補助事業に対する地元負担の投資効率は3.62倍と推計されたが, 地域産業構造における大規模元請け事業体の不在や事業関連資材の町外依存等を要因として, 補助金町外流出率が58.7%となり, 町内経済への実際の投資効率は推計値の半分以下の1.68倍であった。このことから,林野補助事業の地域経済への波及効果は, 地域産業構造に強く規定され, 期待をはるかに下回っていることが明らかになった。
  • 北畠 琢郎, 梶 幹男
    2000 年 82 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ブナ•ミズナラ実生への野ネズミ類による捕食圧の立地変化を検討するため, 実生の移植実験を行った。Clethrionomys属のエゾヤチネズミと,Apodemus属のアカネズミとヒメネズミの3種の生息が確認できた緩やかな立地を平坦区, エゾヤチネズミを欠き,Apodemus属2種の生息が確認できた急傾斜地を斜面区とし, それぞれの実験区に実生を移植し, その生残を追跡した。ミズナラは両実験区において移植コホートが消滅した。一方, ブナは平坦区においてはミズナラ同様に生存率0%であったが, 斜面区では45%と高い値を示した。対照区として金網によりネズミ類の捕食圧を排除したコホートの生存率は, ブナが平坦区で72.2%, 斜面区で90%, ミズナラは両実験区で100%と高い値を示した。ブナ実生にとってはエゾヤチネズミのいない急傾斜地がセーフサイトであり, ミズナラ実生は両立地で、Apodemus属による捕食圧を強く受ける。
  • 石塚 成宏, 阪田 匡司, 谷川 東子, 石塚 和裕
    2000 年 82 巻 1 号 p. 62-71
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    茨城県北茨城市の落葉広葉樹林において, 斜面位置の異なる3カ所に試験地を設け, 地球温暖化ガスの一つであるN2Oの土壌からの生成に関する実験を行った。N2Oの地表面フラックス平均値は尾根付近で4.6, 谷頭部で10.3, 渓流域5.7 (μgNm-2h-1) であった。土壌円筒試料にアセチレン阻害法を適用した結果から, 渓流域におけるN2Oは主に脱窒過程により生成し, その脱窒量は20μgNm-2h-1 (1.8kgNha-1y-1相当) 程度かあるいはそれより大きいと推定された。また, その脱窒は硝酸態窒素の供給に大きく影響されていると考えられた。その他の地点では硝化過程で発生するN2Oの割合が高く, 脱窒量は微小であると考えられた。さらに, 斜面下部では脱窒酵素活性が認められ, 脱窒の可能性が示唆された。硝化能の高い斜面下部ではN2Oの生成量も多くなると考えられた。なお, 脱窒菌数と脱窒酵素活性の間に相関は認められず, 菌数以外の要因 (たとえば嫌気的条件) が脱窒酵素活性の発現に主に関与していることが示唆された。
  • 宮本 尚子, 山本 徳子, 星 比呂志, 半田 孝俊
    2000 年 82 巻 1 号 p. 72-79
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    サクラバハンノキ (Alnus trabeculosa Hand. -Mazz.) は, 湿地に特異的に分布する落葉性灌木であるが, その生育環境の特異性と人為の影響によって集団が減少し, 現在, 準絶滅危惧種に位置づけられている。本種の遺伝的な実態を正確に把握するため, 茨城県十王町加幸沢に成立している局所集団について, アイソザイムによる遺伝構造の解析を行った。12の推定遺伝子座を用いた結果, 平均ヘテロ接合体率 (He) は18.6%であり, おおむね他の植物と同様の範囲の値を示していた。また, 遺伝子型頻度の観察値と期待値の間に統計的に有意な差がなかった。しかし, 空間的な遺伝構造を見た場合, 近距離では多くの対立遺伝子においてMoran's Iの値が期待値から有意に正に偏り, さらに, 12の遺伝子座すべてにおいて同じ遺伝子型を持つ個体同士が近接して生育する例が観察された。これらのことから, 本局所集団においては萌芽あるいは栄養繁殖による空間的な家系構造が存在し, その大きさは15m内外であると推定され, 現地保存および現地外保存を図るために考慮すべき空間的な家系構造の範囲が示唆された。
  • 飯塚 和也, 林 英司, 板鼻 直栄
    2000 年 82 巻 1 号 p. 80-86
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    アカエゾマツの精英樹クローンについて, 成長形質は6カ所, 材質では2カ所の採種園を対象に調査した。樹高, 胸高直径およびクローネ径の反復率および形質問の相関係数は, 高い値を示した。6カ所の採種園の25年生の平均反復率は, 樹高が0.52, 胸高直径では0.44であった。これらの形質は年次相関が高いことから, 早期評価の有効性が示唆された。2カ所の採種園の共通クローンから推定された容積密度数の反復率は0.70であった。また,成長形質および容積密度数には, 採種園間に正の相関がみられたことから, 遠隔地におけるクローンの再現性が高いことが推察された。以上の結果から, 成長形質と容積密度数は遺伝的変異が大きいと推察され, 特に容積密度数は反復率が高いことから, 遺伝的要因の寄与が大きいと考えられた。
  • 諫本 信義
    2000 年 82 巻 1 号 p. 87-90
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    九州日田地方では, ケヤキはアカゲヤキ, アオゲヤキおよびザクゲヤキと大略区分されて取引が行われ, 利用されている。これら3系統のケヤキについて, 木口面の簡易プレパラート標本を作成し, 組織構造, 特に道管要素を主として系統間差異を追求した。この結果, アカゲヤキ系統は, アオゲヤキ系統に比べて, 道管要素率が有意に高く (p<0.01), 容積密度数は有意に小さかった (p<0.01) 。年輪幅は, アカゲヤキ系統では小さく, 変動も少なかった。これらのことから, アカゲヤキ系統は, 道管要素率が高く, 材中に空隙量の多い軽軟な材質をもつ系統とみなされた。一方, アオゲヤキ系統は, 道管要素率が低く, 木部繊維の比率が高く, 材中の空隙が少ない, 緻密堅硬な材質をもつ系統とされた。ザクゲヤキ系統は, アカゲヤキ系とアオゲヤキ系の中間的な組織構造をもつタイプとされたが, 木部繊維部に空隙量の多いことが特徴とされた。これらの結果から, 従来経験的に判別されてきたケヤキの系統区分は, 組織構造的にも妥当性のあるものと証拠づけられた。
  • 吉野 豊
    2000 年 82 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    日長時間がオオバヤシャブシ (Alnus sieboldiana) の伸長成長と花芽分化に及ぼす影響を調査した。野外に定植された8年生の供試木を夏至から12月まで夜間に蛍光灯で補光し, 24時間日長とした (CL区) 。一方, 自然の日長条件下のオオバヤシャブシを対照区とし (Cont区), 4月から12月まで両区の伸長成長量と花芽の分化状況を調査した。Cont区では, 枝のシュートの伸長成長は6月下旬に緩慢となって7月に停止したが, 主軸のシュートの伸長は9月まで持続し, 主軸の方が伸長期間が長かった。また, Cont区の枝では7月に伸長成長が停止するとともに雄花芽の形成が認められた。一方, CL区の枝の伸長成長は10月下旬まで持続し, 花芽形成が著しく抑制された。しかし, 10月末になると, CL区でも伸長成長は停止し, 休眠芽が形成された。日長時間が短くなり始める時期に花芽が分化し, 長日条件下におくと花芽分化が抑制される現象から, オオバヤシャブシの花芽分化は主として光周性により支配されており, 限界日長時間が約15時間で枝の伸長成長が低下し, 花芽を分化する短日植物であると思われる。また, 通常の花芽分化時期ではない10月に少数の雄花芽の形成が認められたことから, 気温も花芽分化に補足的に影響しており, 低温を感知して花芽が形成される場合もあることがわかった。
  • -貯蔵1年目の結果-
    小山 浩正
    2000 年 82 巻 1 号 p. 95-97
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ブナの堅果を安定的に確保するために長期貯蔵試験を実施している。本報では, 前処理と貯蔵温度を変えて貯蔵した1年目の結果を報告する。前処理として風乾温度を変えて堅果の乾燥状態を4段階に制御した (無処理堅果:平均含水率30%, 弱乾燥処理:11.3%, 中乾燥処理:6.1%, 強乾燥処理:4.0%) 。前処理を終えた堅果はそれぞれ2°C (冷蔵条件) と-20°C (冷凍条件) の温度で貯蔵した。貯蔵せずに処理後ただちに播種した場合には, 乾燥程度の強い堅果ほど発芽率が低かったが, 1年間貯蔵した後では無処理の堅果はほとんど発芽しなかった。2°Cで貯蔵した場合には弱乾燥処理の堅果も発芽能力を失ったが, -20°Cで貯蔵したものは同じ乾燥状態で51.7%が発芽していた。中乾燥処理をした場合には冷蔵および冷凍貯蔵で50%前後の高い発芽率が得られた。従来, ブナは乾燥による貯蔵が困難とされてきたが, 本試験の結果は, ブナの堅果はオーソドックス種子として扱えば長期間の貯蔵が可能であることを示唆しており, この場合は他のオーソドックス種子で採用されているように, 5~10%程度まで乾燥処理 (本試験では6.1%の中乾燥処理がこれに相当) を行い, -20°Cの条件で貯蔵する「冷凍貯蔵」が将来的に最も有効ではないかと推察された。
  • 家入 龍二, 宮島 淳二
    2000 年 82 巻 1 号 p. 98-100
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    熊本県阿蘇地方に古くから造林されるヒノキのさし木品種ナンゴウヒのクローン識別を目的として, RAPD分析を行った。108プライマーについてスクリーニングを行った結果, 多型的で再現性の高い9プライマーによる13マーカーが選抜された。選抜されたマーカーを用いて, アイソザイム分析で異なる遺伝子型を示した15個体を分析した結果, それぞれ独自のDNA型を示した。また, アイソザイム分析で一つの遺伝子型に分類された47個体を分析した結果, 39個体は同じDNA型を示したが, それら以外の8個体は四つの異なるDNA型を示した。
  • 山田 浩雄, 西村 慶二
    2000 年 82 巻 1 号 p. 101-104
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    岡山県周辺におけるスダジイとコジイの地理的分布について調査した。スダジイとコジイの分類は, 葉の表皮組織細胞における層数の違いに基づいて行った。岡山県の瀬戸内海側ではコジイが優占し, 内陸側ではスダジイが優占していた。スダジイとコジイの優占度は, 気候要因が密接に関係していた。しかしながら, 近接する林分において, スダジイとコジイの優占度が明らかに異なる林分も認められ, 局所的な生育環境の差異が, スダジイとコジイの優占度に大きく影響することが示唆された。
  • 清藤 城宏, 前田 一, 村上 春樹, 井田 和彦, 白石 進
    2000 年 82 巻 1 号 p. 105-108
    発行日: 2000/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    1995~1997年の3年間, 山梨県内のヒノキ採種園において, 葉緑体DNAマーカーを用いて, 鰍沢5号の花粉親としての次代への寄与率を調べた。その結果, 豊作年の1995年には4.0%の寄与率を示し, 期待寄与率3.6%に近い値であった。凶作年の1996年は0.5%, 並作年の1997年は1.3%の寄与率でいずれも期待寄与率を大きく下回った。豊作年には, 並作•凶作年に比べ, 採種園構成クローンの花粉親としての寄与率が平準化する可能性の高いことが示唆された。
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