ナスの果形の遺傳關係を知らんとして, 主として圓形×長形の交雜を行ひ, 果形の測定にあたつては果形指數として縦徑/横徑を算出した。今得たる成績の概要を記すと次ぎのやうである。
1. 果形指數の平均價大なる品種は小なる品種に比し, 其の標準偏差も亦大である。換言すれば長形果品種は圓形果品種に比し果形の變異が大きい。
2. 圓形×長形 F
1 の果形は兩親の中間であるが, 稍ゝ圓形の親に近い。即ち圓形は長形に對して不完全優性と考へられる。
3. F
2 の分離は其のモードが唯一つで, 圓形の親の方に偏した即ち略ゝ正の不對稱曲線を示し, 其の變異係數は F
1 よりも遙かに大である。
4. F
3 の分離は F
2 に似てゐるが, 變異係數は F
2 よりも小さくなる。
5. 以上の成績より考察すれば, 少くとも3個以上の同義因子が果形に關與せるものと推察される。
6. 永井及び喜田 (1926) の成績, 圓形×細長形及び長形×圓形の組合せにつき果形指數を算出し, F
2 に於ける頻度多角形を描いてみると, 略ゝ前記の成績と一致する。
7. 兩親間の果形の差大なる組合せに於ては, 何れも F
1 及び F
2 の果形指數の平均價は, 兩親のそれの算術平均よりも遙かに幾何平均に近い。
8. かゝる關係は果實の發育過程が幾何級數的のものと考へるとよく理解される。又F
2 分離に於ける正の不對稱曲線のあらはれる理由も同樣にして理解出來る。
9. 開花當日の子房の形によつて圓形果と長形果とは既に識別が出來る。然しこれを果形の遺傳子分析に用ひ得るや否やは尚今後の研究に俟たねばならない。
10. 發育中に於ける果形の變化は最初の2週間は長くなり, 次いで太さを増して開花後1箇月で略々品種固有の形に安定するものと考へられる。然し圓形果の發育中に於ける果形の變化は非常に少い, 之れに反して長形果に於ては變化が顯著である。
11. 長形果は圓形果に比して果長は一層長く, 果徑は一層短い。從つて果形を決定する遺傳子には果長を支配する遺傳子と, 果徑を支配する遺傳子とが存在するものと推察される。
12. 果形は果實の發育の出發點に於ける果長を支配する遺傳子, 及び果徑を支配する遺傳子の各支配價の量的關係の差によつて決定されるといふこと, 及び果實の發育過程は幾何級數的に進むものであるといふ二條件を假定すると, 各種の果形, その發育中の變化, 及び遺傳現象を可なりよく説明することが出來るやうに考へられる。
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