1. ノミバエの
short arista (
sa°) ストツクの起源, 形質及びこの表現に関与する変更因子の存在を推定した.
2.
sa°は第 III 染色体劣性因子による形質で,
Delta と連関し,
truncate や
bar° は II 染色体に位置することを明らかにした.
3.
sa°の野生型に復帰する状態を調査し, 復帰野生型を生ずると同時に他の突然変異形質をも生ずること, 復帰野生型交配を継続して種々の突然変異を生じ, 再び
sa 形質をも生ずる状態について述べた.
4. 復帰野生型雄を
sa 雌に交配すると,
sa を伴性因子様に分離させる事実から, 更に伴性因子
Abrupt が復帰野生型雄との交配で常染色体因子様分離ををする事実を発見し, これが復帰野生型 Y 染色体の存在により起ることを確めた. これと同じ特性をもつ Y 染色体を
sa1 や
sa67 の再復帰
sa や一部の
sa° がもつこと,
sa°,
sa°
120,
sa° より由来した
b67 や
Ab67, 野生型ストツクの Y 染色体にはこのような特性はないことを明らかにした. この特殊 Y 染色体の存在の
Ab3b° ストツクの
Ab の相手の X 染色体にある致死因子,
sa1 の X 染色体にある半致死因子の効果は失われる特長がある.
5.
sa°,
sa1,
sa67 形質は対立因子関係にあると思われるが, これら相互の間の相異について述べた.
6. 幼虫期以後
sa°,
sa67 を18°Cで飼育して, 25°Cで飼育した対照に比し羽化個体の
sa 表現度の低下を見たが, この操作では
sa に因子的な変化は起らなかつたと考えられる.
7.
sa°, 復帰野生型, それから生じた突然変異体及び復帰野生型 Y 染色体をもつ
Ab3b°雄等について, 主として幼虫神経節細胞の中期像での染色体異常を塗抹標本や切片で或は幼虫に冷却処理を行つて後調査したが, この像で見出される範囲の染色体異常は起つていなかつたと考えられる.
8. ノミバエの性原細胞有糸分裂に見られる特異な相同染色体間の親和性について述べ, これと同様に somatic pairing が幼虫神経節細胞の有糸分裂にも見られること, 及びこの神経節細胞の分裂 prophase や metaphase に見られる染色体内の一定の非染色部について述べた. 精巣における減数分裂像の観察によつても復帰野生型や
sa°等の染色体異常の発見は困難であつた.
9. 復帰野生型の特殊な Y 染色体の遺伝行動を説明する為に, ノミバエでは Y 染色体に強力な雄性決定因子がありこの作用で性決定が行われると仮定し, 復帰野生型等の特殊 Y 染色体は第 III染色体と強力な雄性決定因子をもつ Y 染色体部分との間に転座が起つたもので, この特殊 Y 染色体をもつ個体では第 III 染色体が通常の場合の性染色体となつたものとして説明を試みた.
sa° の複雑な復帰現象や頻繁な突然変異形質の変化については, 遺伝子の変化によるのでなく染色体異常によることを暗示した.
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