1. キイロショウジョウバエ (
D. melanogaster) クロショウジョウバエ (
D. virilis) の殺虫剤抵抗性の Hikone 系統 (滋賀県彦根市にて1952年に採集) と感受性のCanton-S 系統のDDT, 硫酸ニコチン抵抗性を遺伝学的に分析した。この分析には常染色体上に劣性突然変異遺伝子をもつ系統を用いて上記の系統と交配し, そのF
3において色々な染色体の組合わせをもつハエの抵抗性を測定した結果, キイロショウジョウバエではDDT抵抗性をあらわす優性遺伝子が第2, 第3染色体に, クロショウジョウバエでは, DDT, ニコチン抵抗性をあらわす優性遺伝子が, 第2, 第5染色体に存在することが確められた。DDT, ニコチン抵抗性はポリヂーン的形質であって両種のそれら両染色体が, 互に相同であるという関係から, 両種の抵抗性は, 共通の起源を有する遺伝子によって支配される前適応的な形質であると考えられた。
2. ヨーロッパ, アフリカ, アジアおよび南北アメリカの10カ所から採集された18系統と5カ所から採集された11系統のDDTおよび Dieldrin 抵抗性をそれぞれ測定した。そして, いろいろな接触時間における平均致死率を結ぶと正規対数方眼紙上で一直線になることから, これらの抵抗性は自然集団中に正規分布をする量的形質であろうと考えられた。その分散分析の結果, 各系統の抵抗性の間には, 有意な差のあることが証明された。
日本の Hikone 系統は外国の諸系統よりもDDT, Dieldrin に対して著しく抵抗性で, また明らかに交叉抵抗性を示した。また日本の8系統についても両抵抗性のプロビット回帰曲線を求めた結果, それぞれ系統内変異の中に大小あることが見出された。ショウジョウバエに対しては Dieldrin の効果はDDTの約100倍の強さであった。
3. 殺虫剤の淘汰のによって抵抗性が平衡に達したと考えられた Hikone 系統においても, 分析の結果, 抵抗性遺伝子について, なお, heterozygous であった。殺虫剤の淘汰が, 自然淘汰に加わることによって, 出来上った coadaptation system を有する集団の抵抗性は, DDTのない環境で, 容易に逆もどり(非抵抗性になる)しないだろうと考えられた。そこで, この coadaptation system が破れた状態の集団をつくって, DDTのない環境でその抵抗性の変化をみた結果, 約2カ年間に強い抵抗性は直線的に減退することを立証した。このことから強い抵抗性遺伝子は, 自然淘汰のみの環境では, 若干不利な点を有するものと考えられるであろう。
また, 逆に集団に対するDDTの淘汰は, その viability に関する遺伝子に対して自然淘汰と結びついて, その淘汰の働きを助長することも明らかにした。
抄録全体を表示