スーダンでは、1955-2004年にわたる長期の内戦に加え、1980年代前半の深刻な飢饉によって、400万にものぼる国内避難民が発生した。南部を中心に発生した避難民は、当初、北部の首都ハルツームに流入したが、1992年、政府は、首都郊外の砂漠に4つの避難民キャンプを設置し、避難民を移住させた。避難民キャンプの生活環境は劣悪を極めた。そのような避難民を救援するために、海外から多数の非政府組織(NGO)が活動を開始した。ただし、海外NGOは、スーダン政府に批判的な行為に及ぶこともあったため、スーダン政府は、国レベル、州レベルで海外NGOの活動を監督する組織を設けた。
本研究は、ほとんどの海外NGOの活動が短期的な緊急救援に終始するなか、例外的に中長期的な避難民の育成・成長を目的とする活動を展開していたNGO「International Rescue Committee(IRC)」の活動を検討したものである。具体的には、IRCが2002-05年にわたって実施した3つのプロジェクトを、筆者(第1著者)がプロジェクトに参加しつつ観察、検討した。
第1のプロジェクトは、海外NGOと協力して活動に携わる国内NGOのレベルアップを目的として実施された。2-5日のワークショップが130回開催され、合計1,900名の国内NGOスタッフが、健康問題に取り組む上で必要な知識やスキル、および、救援プロジェクトのマネジメント方法に関する研修を受けた。
第2のプロジェクトは、避難民の中にいる少数の大学卒業者を対象に、彼らが、避難民キャンプにおける教育活動、平和のための活動、女性の人権擁護活動でリーダーシップをとれるようにすることを目的とした。まず、大学卒業者に基礎的な研修を受けてもらい、その上で、避難民のための6つのプロジェクトが、彼らをリーダーとして実施された。
第3のプロジェクトは、避難民を含む若者たちを対象に、好戦的文化を平和的文化に転換することを目的とした。スーダンでは、長年の内戦で、好戦的文化が社会の隅々にまで浸透してしまっている。これを、将来を担う若者の態度を変えることによって、平和的文化に転換しようとした。
以上、一連の3つのプロジェクトは、避難民の生活の中長期的向上を意図するIRCの活動が、次第に、避難民の実態に即した活動へと変化する適応的学習のプロセスをたどったものと考察できる。すなわち、第1プロジェクトでは、避難民の中長期的援助を行うに当たってのパートナーである国内NGOのレベルアップが目的とされたが、その企画・実施に避難民はまったく参加していない。それに対して、第2プロジェクトでは、大卒の避難民が、避難民コミュニティ改善のリーダーとなった。また、第3プロジェクトでは、時間的・空間的な視野を拡大して、避難民を含む若者の将来のために平和的文化への変容が目指された。
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