総合病院精神医学
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23 巻, 1 号
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特集:身体疾患に伴う精神障害update
総説
  • -うつとアパシーを中心に-
    木村 真人
    2011 年23 巻1 号 p. 2-10
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    わが国における脳卒中患者は,致死率の低下と高齢化に伴って増加を続けている。脳卒中後の後遺症として,うつとアパシーは非常に頻度が高く,脳卒中患者のQOLに大きな影響を及ぼす。精神症状を引き起こす病変部位や病態生理学的メカニズムについては,いまだに議論が続いている重要な課題である。脳卒中後うつ病の抗うつ薬治療によって,ADLや認知機能ばかりでなく,生存率までも改善させることが示されており,適切な診断と治療は非常に重要である。また,抑うつ心性を伴わないアパシーが本来のアパシーと考えられ,その場合には,SSRIのような抗うつ薬よりもドパミン作動薬などが有効であり,休養よりも活動的・行動療法的アプローチが必要になる。今後,脳卒中後患者に対してはチーム医療による対応とともに,適切なケアと援助を提供できるような地域ネットワークの構築が望まれる。
総説
  • 伊藤 弘人, 奥村 泰之
    2011 年23 巻1 号 p. 11-18
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    虚血性心疾患患者は高率にうつを併発する。また,うつを併発すると生命予後が悪化する。両者の間には,行動特性とともに,自律神経機能,血小板凝集能亢進,血管内皮機能不全や炎症などの生物学的な要因が介在していると考えられている。中等症から重症のうつ病の治療には心臓への影響の少ないSSRIを中心とする抗うつ薬が第一選択肢となっている。ただし,抗うつ薬と認知行動療法はうつの改善効果はあるものの,循環器疾患の生命予後への影響は限定的である。循環器医と精神科医と間にケアマネジャーを介在させて患者の意向を取り入れながら治療を進めるコラボレイティブケアが,うつと生命予後の改善効果があることが示されるようになっている。2008年にアメリカ心臓協会は,うつのアセスメントを推奨するガイドラインを発表している。以上の動向は循環器科と精神科との連携を強化する重要性を示唆している。
総説
  • 水上 勝義
    2011 年23 巻1 号 p. 19-26
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する薬物療法について述べた。薬物療法を施行する前に,BPSDの多くは非薬物療法で改善するため,まずは非薬物療法を十分に行うことが重要である。その結果,改善が得られない場合に薬物療法が行われる。薬物療法では安全性への配慮が最も大切であり,副作用によって認知機能や身体機能の低下を来さぬよう注意する。本稿では,うつ,アパシー,幻覚,妄想,興奮,易刺激性,せん妄などの薬物療法についても例示した。アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジルは,認知機能改善のみならず,BPSDのいくつかの症状に対しても効果を認める。したがってBPSDに対して薬剤を追加する前に,まずドネペジルの効果を評価する。また抗精神病薬を使用する前に,代替治療薬の可能性を検討することも有用である。特に漢方薬はBPSDに対する有力な選択肢の一つである。
    薬物療法が奏効すると,患者と家族の心理的苦痛を軽減し,家族関係の改善ももたらす。したがって安全に配慮した適切な薬物療法は認知症の診療に有用といえる。
総説
  • 山田 了士
    2011 年23 巻1 号 p. 27-34
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    近年の精神科医にとって,てんかんは徐々にその守備範囲から外れつつある。しかしてんかんをもつ患者において,不安・抑うつや幻覚妄想などの精神症状はかなり高い頻度で合併し,その生活の質にとって最も重要な臨床因子の一つである。自殺もまた,てんかんをもつ患者で頻度が高いことを考えると,精神症状を丁寧にスクリーニングし,治療することの意義は大きい。このように,てんかんの診療において精神科医の果たすべき役割は非常に大きいが,てんかんに伴う精神症状をよく理解している精神科医は必ずしも多くないと思われる。本稿ではてんかん自体に併発する精神症状や,抗てんかん薬などの治療によって惹起される精神症状について概説し,てんかん診療に重要な役割をもつと考えられる総合病院精神科医の理解を得たい。
総説
  • 中西 幸子, 赤穂 理絵
    2011 年23 巻1 号 p. 35-41
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus,以下HIV)の発見・分離から28年,HIV感染症の治療は大きく進歩した。なかでも,多剤併用療法を基本とした強力な抗レトロウイルス療法(highly active antiretroviral therapy:HAART)の確立により予後は大幅に改善した。それに伴い,精神科領域でもHIV脳症の軽症化や薬剤性精神障害の多様化などの病態変化がみられている。また,根強い偏見などHIV感染者の抱える心理社会的ストレスは未だ多い。これらの理由から,HIV感染者において精神障害の合併率は非感染者に比べて高く,5割前後との報告もある。HIV感染者の精神障害は,適応障害,物質関連障害,気分障害,HIV脳症などが多い。治療に際しては,HIV治療薬との併用注意・禁忌薬も多いことから,向精神薬の使用は注意を要するため処方は必要最小限とし,支持的精神療法などとの併用が望ましい。行動上の問題への対応や心理社会的ストレスへの介入には,ケースワーカー,HIVカウンセラー,自助グループなど,多方面からの協力も有用である。
総説
  • 西村 勝治, 佐藤 恵里
    2011 年23 巻1 号 p. 42-51
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)による神経精神病変(neuropsychiatric SLE:NPSLE)はSLE患者の約半数に出現し,予後不良,他の臓器病変合併の増加,QOLの低下と関連している。NPSLEの発症には微細な血管障害(vasculopathy),神経細胞に対する自己抗体の産生,髄腔内のサイトカインの産生など,多因子的なメカニズムが想定されている。NPSLEは疾患特異的な指標に乏しく,診断のためのゴールドスタンダードは存在しないため,NPSLE以外の要因をきちんと除外し,臨床症状,血液および髄液検査所見,脳波,脳イメージング,免疫学的マーカーなどに基づいて総合的に診断する。本稿では,NPSLEのコンサルテーションにおいて精神科医に求められる診断とマネージメントに焦点を当て,最近の知見を中心に概説した。
一般投稿
原著
  • 小早川 誠, 浅野 早苗, 林 優美, 岡村 仁, 山脇 成人
    2011 年23 巻1 号 p. 52-59
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    本研究は外来化学療法中のがん患者の精神症状評価システム開発をめざし,看護師によるつらさと支障の寒暖計と精神科医による症状評価システムの実施可能性について検討するものである。 平成19年6月末より半年間に広島大学病院で外来化学療法を受けるがん患者を対象とし,結果130名の同意者に調査を行った。つらさ4点,支障3点の閾値以上であった38名のうち,精神科医による面接を希望したものは6名であった。大うつ病2名,適応障害4名であり,精神科での治療継続を推奨し,3名が受診に至った。面接を希望しなかった者のうち,半数はその後の寒暖計調査で閾値を下回った。面接の満足度は低くはないため,対象者において精神的支援の潜在的ニーズはあり,一部の対象者には介入効果があったと考えられる。精神科受診への心理的ハードルを下げるとともに継続したサポート体制を構築することが課題である。
  • ~疾病の受容過程における体験反応様式による亜型分類の試み~
    木村 哲也, 佐藤 直弘, 木村 宏之
    2011 年23 巻1 号 p. 60-70
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    総合病院においてコンサルテーション・リエゾン領域で関わった身体疾患による適応障害の症例について,疾病の受容過程における体験反応様式により3つに亜型分類を試みた。対象は2004年4月~2006年12月に他科から新規に精神科にコンサルテーションされた身体疾患による適応障害71例。疾病の受容過程における体験反応様式から単純型,発散型,葛藤露呈型に分類し,代表症例を提示した。次に年齢,性別,症状,発症から入院までの期間,入院期間,予後について比較検討し,その臨床的特徴について記述した。そして,各亜型の特徴などから,それらは独立したものではなく連続性をもち,疾病受容における心理的苦痛の深度によって層構造をなしていると考えられた。以上により,これらの亜型分類は,疾病受容における患者理解に有用な視点を提供し得ることが示唆された。
症例
  • 小早川 英夫, 岡田 怜, 岩本 崇志, 柴崎 千代, 中津 啓吾, 竹林 実
    2011 年23 巻1 号 p. 71-76
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2014/10/11
    ジャーナル フリー
    抑うつ状態の既往がある70歳代の女性。進行舌癌の化学療法と放射線療法施行中にうつ病が発症したため,sertralineおよびclomipramineを使用するも希死念慮や拒絶が出現し,手術を拒否していた。ECTを早期に導入することで精神症状は改善し,手術を同意し施行することができた。したがって,手術拒否はうつ病による意志決定障害と考えられた。本症例のように,抑うつ症状に伴う意志決定障害によるがん治療の拒否,遷延がある場合,特に薬物抵抗性の場合はECTを施行することで早期に正常な意志決定ができる可能性があると考えられた。また,この治療過程で精神科主治医に精神科治療が生命予後に直結する焦りや期間設定のある治療に対するとまどいが出現した。これらは広義の意味での「逆転移」ととらえることができ,進行がん患者の精神療法においてこれらの感情を適切に扱うことが重要であると考えられた。
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